有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ

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先輩と後輩

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「可愛げがない」
「……どういう意味ですか? 有栖先輩」
 唐突に反保のデスクの横に来たかと思えば、ドンと右手置いて、有栖はいきなりそう言った。
 反保がユースティティアの特務課で勤務を始めて約半月と少し。室内のレイアウトを変更した。有栖と反保のデスクを向かい合わせにし、その側面側を正面にして、少し離れた場所に一色のデスクがある。というわけで、有栖はわざわざ少し自身のデスクから離れて、先程の言葉を言いに来たのだ。
「反保、キミは自分がユースティティアに所属してから出来た初めての後輩なわけ」
「はぁ……」
「後輩、というのは『先輩、ここが解らないので教えてください』『ほう、どれどれこれはね――』『わぁ、なるほど。さすが先輩』みたいなやり取りがあるべきなのよ」
「はぁ……」
 仕事の話でないことを察すると、反保は一色に助けを求めるように視線を送る。確実に合った視線は首を振ったあと、逸らされた。どうやら今は巻き込まれたくないらしい。
「ところが、反保――キミには後輩らしさがない! 自覚がない!」
「えっと、どういったところがでしょうか?」
「教えた仕事は一回で覚える。静かに、冷静に仕事をこなす。あんまりミスしない」
 有栖の言う通り、反保は優秀だった。それは彼の特殊能力とも呼べる『目』が要因でもある。
 瞬間記憶能力――カメラアイ、とも呼ばれる彼の目は一度見たことを瞬時に記憶してしまうので、業務の手法、人の名前、あらゆる場所や配置を覚えてしまうので一度教えれば彼は自身の中でマニュアル化し、全て覚えてしまうのだった。
 それ故に反保が有栖に頼ることがあまりないのも事実であり、事務仕事では苦手としている彼女より彼の方が既に効率的に業務を行えていたりする。
「良いことじゃないですか?」
「良いことだけど、可愛げがない。自分は先輩っぽいことがしたい」
「いや、そんなこと言われても」
「後輩は可愛らしく先輩に甘えなさい」
「お言葉ですが、有栖先輩は可愛げがあったんですか?」
「……可愛げの塊だった」
 その言葉が堂々と発せられたとき、一色の方から吹き出すような音が聞こえた。二人が視線を向けると彼は資料で顔を隠していたが震えている。どうやら笑っているようだ。
「有栖先輩、一色さんが笑ってますけど」
「よほどあの資料が面白いのね」
「そうですか。僕は違うと思いますけど」
「話をすり替えない。まぁ、つまり自分は『先輩を頼りにしてます、任せます』と言われるような先輩になりたいってこと」
「そんなの知りませんよ。というかですね――」
 反保は自分のデスクに置かれた有栖の手を見た。その手の甲には大きな傷跡がある。彼にとって身に覚えのある傷跡だ。
「頼りにしてますし、信頼もしてますよ……有栖先輩のこと」
 反保は有栖の目を見て、言った。その言葉に嘘はない。
「……なら良し! いや、よくない、やっぱり――」
「おーい、有栖。良く解らんハラスメントしてへんで、そろそろ仕事に戻れよー」
 こみ上げてくる笑いが落ち着いたのか、ようやく一色が助け船を出してくれた。
「ちくしょう、上司からの命令だ。覚えてろ、反保。また来るからな」
 そう言って、有栖は自身のデスクに戻る。その背中を見ながら、このやり取りはもうしたくないな、と思った反保は溜め息を一つ。次に息を吸って顔を上げたときにはパソコンのディスプレイと向かい合い、まだまだ残っている事務仕事を片付けることに専念した。
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