有栖と奉日本『チープな刻の中で』

ぴえ

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上司と部下

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「ほいっと」
 一色に足払いを掛けられ、滑った反保の身体は小さく宙に浮くとそのまま尻もちを着いた。着地の衝撃で反射的に目を瞑った彼だが、次に視界に捉えたのは一色の拳だった。寸止め、という形で振り下ろされることなく眼前で留まっている。
「参りました」
「お疲れさん」
 反保が負けを認めると、一色は拳を解き、彼の腕を掴んで引き上げる。
「動きはそこそこ良くなっとるけど、まだまだやな。有栖にも教わってるんやろ?」
「有栖先輩は感覚的、といいますか……この前は『シュッパ、と動いて、スパン、と一発、そして、ドン』っと教わりました」
「なるほど、動きは一流やけど教えるんは苦手なんやな。良く解った」
 一色は苦笑いを一つ見せると、反保に休憩しよう、と促し、近くにあるベンチへと二人で歩き出した。フローリングの床が時々キュッと高い音を立てる。
 ユースティティアに来てから、反保は社内にある訓練施設で体術の訓練を定期的に受けていた。それは、これまで彼が行ってきた喧嘩、という戦闘は素人の戦い方であり、勝因も彼の特異体質――痛覚がないとこを利用した一撃を受けてからの凶器での反撃が大半だったからだ。ユースティティアは治安維持組織なので、そのような戦い方ではなくプロの戦闘術と相手の制し方を学んでいる。彼の元来の性格が戦闘を好まないので、その成果は牛歩なのだが。
「あれの使い方は解ったか?」
「あれって……特殊警棒ですか?」
「そうそう。まぁ、あれがナイフに近いから扱い易いかな、と思ったんやけど」
 反保が戦闘を得意としなくても、特務課で勤務する以上、そのような事態は彼の上達を待ってくれない。とはいえ、ナイフを振り回すわけにもいかないので、相手と自身の安全の為、一色は彼に伸縮式の警棒を持たせた。その使い方と戦闘方法も現在学んでいる。
「はい。まだ武器に振り回されている感じですけど」
「そんなもんや。徐々に慣れていけばええよ」
 反保は一色から護身用の道具を渡すと言われたときは拳銃でも渡されるのかと思ったが、実際はユースティティアで拳銃を扱わせてもらうのは特例に近い許可がいるらしい。それは警察が犯罪者に向かって発砲した際に一部の市民から見当違いも甚だしいクレームを受けたことや盗まれる事件も度々あったことを前例としたそうだ。後発的に設立されたユースティティアがその点を考慮しないとどこからでも苦言、批難、罵詈雑言は飛んでくるらしい。よって、ユースティティアでも一部の人間が所持が許され、一般的な隊員が持つのは対応する事件によるそうだ。
 有栖達が所属する特務課はその存在自体がグレーなので、いきなり拳銃を発泡したら即問題になる。その分、危険と隣り合わせな要素は給料となって還元されていた。
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