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反保_2

反保_2-3

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「……警察?」
「そう、警察。ちょっと、取調べをするから警察署まで来てもらうよ」
 そう言って、飛田は一歩近づく。
「任意ならお断りだ」
「断れる状況と思ってる?」
 倒れる男達に、その中心にいるナイフを手に持った反保。警察が引く理由がないのは彼自身も解っていた。
「任意同行でも現行犯逮捕でも、こっちは全然構わないけど?」
「現行犯、ねぇ……クケ、クケケ」
 そう言って、反保は笑いを噛み殺す。
「何、笑ってんだ?」
「そりゃ、笑うだろ? タイミングが不自然――いや、良すぎる」
 その言葉に飛田も反応し、彼を睨む。
「誰も通報してないのに、丁度、全てが終わったタイミングで警察の登場。どう考えても、以前からオレの動向を探っていたとしか思えない。今だって、どこかに隠れながら見ていたわけだ。つまり、それって――オレがボコボコにされてた間も助けにも来ず静観してたわけだ」
 反保は語りながら乾いた笑いが止まらなかった。相手を嘲笑っているわけではない。その笑いが含む感情は絶望の単色だった。
「オレを逮捕できた方が自分達にとって都合が良いんだろ? その為には、弱いオレが殴られ、蹴られる間は見て見ぬ振りをするわけだ。素晴らしい治安維持組織だな」
 語りながら、笑いながら、自身の中が絶望に染まり、ふつふつと怒りと哀しみの感情が湧き出てくるのが解る。彼の視界は未だに――紅い。
「結局、誰も助けてくれない。だったら――」
 そこで言葉を切り、反保は素早く飛田に近づくとナイフを横に振るう。
 しかし、相手の初動を常に警戒していた飛田はその攻撃に難なく対応し、後方へ軽く跳ぶことで避ける。
「自分の身は自分で護るしかないだろ。相手が誰であっても」
 反保は紅い目で飛田を睨み、そう言った。
「悪いな。今、この時点で正当防衛成立だ。強制的に無力化させてもらう」
 感情的な反保に対し、飛田は戦闘態勢に入りながらも冷静にそう返してみせた。
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