有栖と奉日本『真夏のモンスター』

ぴえ

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「切り裂き魔を警察が逮捕していたら、そのときは内部にいた殺人犯は内密に処理して手柄だけ得ていたと思います」
「けど、今回は切り裂き魔はユースに捕まった」
「はい。だから、普通に処理をしただけです。けれど、本来の目的――派出所を統括している重役の退陣は達成したのではないかと」
 奉日本の言葉を聞いて、久慈は小さく笑い、カクテルを飲み干した。
「確かにそれが目的だったら、どちらの状況であったとしても達成は可能だった。いや、今回の方が公に退陣に追い込む理由ができただろうな」
「はい。今回、責任を取って辞職という形で退陣した方については久慈さんの方がご存じなのでは?」
 久慈は空になったグラスを見つめながら、縁に飾られていたオレンジを一口かじった。
「真面目で正義感が強く、警察内でも人気があったな。勤め続けていたらトップに立っていた可能性もあったと思う。だけど、警察内部にある派閥と対立してた」
「そうですか。だとしたら、何者かの意志で今回の件が動いていた可能性もあります――そのときに疑問点が浮かび上がります」
「続けてくれ」
「殺人事件は実際に起きました。ならば、派出所勤務の人間に殺意衝動があると解っていながら生贄のような女性を提供し、その行動を促した人間がいるかもしれません」
 奉日本は話しながら、一度だけあった田中の顔を思い出した。あのとき、田中に違和感を覚えてはいたが自身のリスクを考慮し離れた。しかし、彼の上辺の顔は普通で秘めたる殺意衝動は易々と見抜けるとは思えない。
 ならば、田中の本性を知りながら派出所に勤めさせた人間がいるのかもしれない。いつか派出所を総括する人間が厄介になったときに、消えてもらう為に毒を仕込んでいたのではないか。
「推察……ですけど」
「そうだな、推察だ」
 久慈は何かを考えるように間を空けた。静かな時間が流れると、彼は顔をあげて、奉日本を見た。何か注文かな、と奉日本は再び片づけをしようとした手を止めた。
「そういえば、反保はどうなったんだ?」
「あぁ、それなら――」
 予想外の質問だったが、その回答に奉日本は少し笑いながら答えた。
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