有栖と奉日本『ファントムケースに御用心』

ぴえ

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「どうぞ」
 そう言われて、有栖は管理人室の中へと通された。立ち話を覚悟していた彼女だったが、1LDKの直方体に延びる八畳ほどのリビングに通され、冷たいお茶を振る舞ってもらうと、歓迎されているように思えた。それは、警察にしろ、ユースティティアにしろ、このような調査業務で訪れると怪訝そうな顔をされたり、邪険に扱われたりすることも珍しくないからだ。
「改めまして、ユースティティアの有栖です」
「管理人の松下優也です」
 リビングにある長机を挟んで正面に向かい合って座りながら、互いに自己紹介をする。有栖は名刺も渡しておいた。
「随分とお若いように思えますが……」
 有栖は気になったことを率直に口にした。目の前にいる気弱そうな男性は、いくら多く見積もっても三十代には見えない。建物と彼の名前から、ここが彼の所有物件であることは想像に容易いが、そうだとしても建物の年季具合と彼の年齢は不釣り合いに感じた。
「元々、ここは父の所有物件で管理人もしていたのですが、半月前に亡くなって、俺が引き継いだ形でして。母も俺が子供の頃に亡くなったので、引き継ぐのが俺しかいないってだけですが」
「あぁ、なるほど。それは失礼しました」
「いえ、よく聞かれることなので」
 松下は愛想笑いを作りながら、そう言った。
 父親の死は不憫ではあるが、若いながらに物件を持つこと。そして、管理人業務を引き継いだ、ということは就職していた企業は辞めたのか、そもそも就職は考えてなかったかの二択かな、と有栖は考えた。
 ――家賃収入で生きていけるなら羨ましい限りだ……だけど、そう上手くはいかないし、頭を悩ませているのが今回の依頼なんだけど。
「では、依頼内容の確認をしたいのですが」
「あ、はい」
 松下は姿勢を正すと、続けて話す。
「このコーポ松下には過去に一度も、誰も住んでいない部屋があるんです」
「一度も、というのは優也さんのお父さんが管理していた頃からですか?」
「はい。管理記録を確認したところ、その部屋は誰も住んだ記録はありません」
「そこに妙な噂が出た、と」
「えぇ、幽霊が出る、という噂が一部で広まったみたいで。何か、その部屋に人が出入りしているとか物音がするとか……俺は一度も見たことも聞いたこともないのですが」
「なるほど。警察には相談しなかったのですか?」
「えっと、しました。でも、二、三回見に来て頂いたぐらいで異常なしと判断されました。ちょっと杜撰だと思って……その、ユースに連絡した次第です」
「そんな引け目に感じることはありません。よくあることなので」
 有栖は少し笑ってみせた。それに効果があったのか、松下は安堵したかのように息を吐く。
 実際、まずは警察に連絡。次にユース――それが市民の大多数の考えのように思う。まだまだ、ユースティティアの信頼度は警察より低いことを有栖は実感した。一方でここで期待に答えれば、警察よりもユースティティアを信頼してくれる市民が増えることは確実だ。
 そう思うと、有栖のモチベーションは自然と上がった。
「では、早速その部屋を見せて頂いても良いですか?」
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