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第一章:緞帳を前に

反保_1-1

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 反保は有栖と一緒に会場内を確認する為に歩いていた。サイバーフェスの開催中は会場内を警備する必要がある。事前にマップはもらっているが、実際に確認することで認識の差異をなくすことが目的だった。
「開催中は不審な人がいないかパトロールしたり、問題を起こした人がいたら逮捕するのが主な仕事ですよね?」
「そうそう」
 反保の質問に有栖は歩きながら、答える。
「だから、どこに何があるか、ここを通ればあそこに出る、とか……会場のマップを覚えることが結構大事――まぁ、反保は問題ないかな」
 有栖が反保に対して笑ってみせたのは、彼の能力を理解してのことだった。
 反保には瞬間記憶能力――カメラアイがある。一度見たものを映像として完全に覚えてしまうのだ。だから、有栖は『覚える』ということにおいて彼には問題ない、と判断したのだった。

 ――確かに、その点においては問題ないかな。

 反保は既に事前に覚えたマップと実際の会場を記憶し、照らし合わせることで自分専用のマップを完成させていた。
 約十万平方メートルの土地に一万平方メートルの展示場が十ゾーン存在する。その中にショーが開催される場所と休憩ができる場所が混在していた。当然ながら消火器や消火栓等の火災対策も万端である。
 しかし、反保には気になることがあった。
「有栖先輩。ここの展示場とは別に隣にも棟がありましたよね。あそこは今回の警備対象じゃないんですかね?」
 サイバーフェスが開催されるショーホールに入場すると、各展示場とは別にもう一つ三階建ての棟が存在していた。会場内にあるが展示が行われる予定のないその棟が彼は妙に気になった。
「あー、あれね。自分も気になったけど、詳細は知らない。あとでイチさんに聞こっか」
「はい」
 そのあとは会場内を数回見回った。それは主に有栖の為ではあったが、準備段階でも会場内は煌びやかで、様々な技術展示は眺めているだけで反保の気持ちを高揚させた。
「あ、反保。ちょっとここに寄っていい?」
 そう言って有栖が立ち止まったのはキッチンカーが並ぶ休憩エリアだった。
「休憩ですか?」
「いや、違う。知り合いがいるかもしれないから寄りたくて」
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