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第一章:緞帳を前に

有栖_1-1

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 有栖達が訪れたのは世界企業の一つであるマザー・エレクトロン株式会社が貸し切った大きなショーホールだった。
 ここではマザー・エレクトロン株式会社が明日から三日間、『サイバーフェス』と呼ばれる技術展示会を開催する。紹介されるのが世界初公開の最新技術であったり、入場することが出来る人物は著名人や各国の重要人物だったり、と世界にとってもマザー・エレクトロン株式会社にとっても重要なショーである。
 もちろん、注目されているのは他にも理由があるのだが……
「しっかし、厳重なセキュリティね」
 有栖が不服そうに、反保に愚痴を零す。
「仕方ないですよ、それだけ漏洩させたくない情報や技術が多数あるんでしょう」
 有栖達がここに来たのユースティティアとして、かつ、特務課として警備任務を請け負ったからだ。それはマザー・エレクトロン株式会社からの依頼なのだが、それでも彼女達は入場の際には厳重なチェックを受けた。
 スマホを含む個人的な電子機器の持ち込みは禁止。どうしても持ち込む際は事前に認証が必要であり、無許可で撮影などをしていないか帰りの際にはチェックされる。
「黙って持ち込んだら、どうなるんだろ?」
「以前、参加した隊員の方は物理的に破壊された、と聞きましたよ」
「マジ?」
「噂ですけど。けど、チェックを受けているのは僕達だけじゃないですし」
「そうね、あちらもちゃんと受けてたしね」
 そう言って、有栖はホール内にいるもう一つの組織――警察の面々へと視線を移した。
 今回の任務は警察との共同任務だ。マザー・エレクトロン株式会社は毎年、この『サイバーフェス』の期間は警察とユースティティアの両方に警備の依頼をしていた。そこには、同業他社に競い合わせることで、互いに自身の組織の方が優秀であることをアピールする意識が生まれ、より強固な警備が可能である、という考えがあるそうだ。
 事実、毎年『サイバーフェス』の警備に参加した者は終了後には体力的にも、精神的にも擦り切れてしまう程に疲弊し、数日間の休暇を取ってしまうほどだった。
「おい、有栖、反保」
 先行して歩いていた一色に呼ばれ、二人は駆け寄る。
「俺は今から他の課と警備内容の確認とかのミーティングするから、二人は会場の見回りして広さや、どこに何があるか、とかを把握しといてくれるか?」
「解りました」
「はい」
 有栖と反保はそう返事すると、二人で会場内を歩くことにして、一色と別れることになった。
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