有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

第一章：緞帳を前に

アリス

　さて、今日から慌ただしく、忙しない日が始まりますね。ワタシにも色々としなければならないタスクがありますので、大変です。
　タスクは既にインプットされていますが……おや、誰か近づいてきますね。ワタシの方を見て、目の前で立ち止まりました。
「ロボットの顔ってなんか苦手なんだよなぁ」
　認証を開始します――登録されたデータに該当人物が見つかりました。
　ワタシの目の前にいるのは有栖 陽菜（ありす ひな）。女性。所属はユースティティア。
「まぁ、このロボットはそこまで嫌悪感は感じないけど。何か、こう感じることって何か表現があったような……」
　知識はどうやら乏しいようです。人の心理現象のことを言いたいのでしょう。ですが、ワタシからすれば彼女達の顔もデータの集合体で、もし、自我があるならば動揺の感想を得たと推察されます。
「おーい、反保。なんか、可愛いロボットがいるぞー」
　ワタシに対してぶつくさと独り言を話していた有栖が近くを通った一人の青年を呼び止めました。彼もワタシの方へと近づいてきます。
　認証を開始します――登録されたデータに該当人物が見つかりました。
　彼の名前は反保 緋桐（たんぽ ひぎり）。男性。所属はユースティティア。
「有栖先輩、何しているんですか？」
「ロボット見てた。ほら、人間に近づけたロボットより、こういうデフォルメっぽい感じの方が良くない？」
「はぁ……まぁ、解らなくもないです」
「これ、名前とかあるのかな？」
　名前を聞きましたね？　では、お答えしましょう。
『ワタシのナマエは――アリスです』
　名乗ったのですが、それを聞いた目の前の二人は驚いた表情をしています。
「先輩のご親族ですか？」
「そんなわけないでしょ」
　そんな会話を交わす中、また一人、誰かが近づいてきます。
　認証を開始します――
「おーい。楽しそうなとこ悪いけど、仕事やからそろそろ行くでー」
「有栖先輩、一色さんが呼んでますから行きましょうか」
「そうね。バイバイ、アリス」

　登録されたデータに該当人物が見つかりました。
　彼の名前は一色 誠（いっしき まこと）。男性。所属はユースティティア。要注意人物。