上 下
10 / 76
第一章:緞帳を前に

有栖_1-3

しおりを挟む
「おう、帰ってきたか。ちょうど、探しに行こうか、アナウンス入れてもらおうかと思ってたところや」
 有栖と反保が戻ってくると一色はそう言って笑った。
「やめてくださいよ、そんな迷子みたいな扱い」
「会場のマップは頭に入ったか?」
「まぁ、大丈夫だと思います」
「僕も大丈夫です」
「こういうとき反保は心強いな。ほな、今回の任務の説明をしよか」
 一色の発言に有栖と反保は顔を見合わせたあと、首を傾げた。
「会場の見回りとか警備なのでは?」
 有栖が代表で質問すると、一色は少し気まずそうな表情を浮かべた。頭を掻き、目を瞑って天を仰いで唸る。
「それもそうやねんけど、プラスアルファ、というか、どっちかというとこっちの方が重要、というか」
 歯切れの悪い発言に、有栖も反保も困惑した表情で顔を見合わせていた。
「あー、濁してもしゃあないな。この会場には『とある重要人物』がおる。その人物の護衛っていう特務課らしい任務や」
「特務課らしい、となると厄介な任務という認識ですけど」
「その認識で間違いないわ。厄介な任務やから特務課に任せられた」
 一色がそう明言すると、全員が同時に溜息をつく。重苦しい空気になりつつあったが、反保が気になることを尋ねた。
「会場の見回りとか警備はしなくても良いんですか?」
「それも兼務や」
 全員がまた溜息。
「いいように使われてますね」
「特務課が忙しいんは、いつものことや。切り替えていこう。んで、これ渡すわ」
 一色は上着の内ポケットから一つの機器を取り出した。
「無線機ですか?」
「申請済みのやつや。特殊な周波数帯やから干渉とかはせんから。さっき言った通り、今回は会場の警備と重要人物の護衛やから連携が大事になる。そこでこれを使うわけや」
 そこから一色はその無線機の説明をした。通話の仕方や、どのようなときに使用するか。また、会場内は問題なく届くことも補足してくれた。
 一通りの説明を聞き終えると二人は無線機を受け取った。全員が基本的な使用方法を理解したところで一色が切り出す。
「ほな、今からその『重用人物』に挨拶に行くで」
しおりを挟む

処理中です...