有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ

文字の大きさ
15 / 76
第二章:開幕

奉日本_2-1

しおりを挟む
『サイバーフェスの開幕です!』
 そのアナウンスが響くと歓声とともに多くの人々が会場に流れ込んできた。そして、各々が興味のある展示へと足を運んでいく。
 有象無象のように見える群衆も、詳細に見れば著名人が多数いる。このサイバーフェスに招かれている客人に一般人というカテゴリーは存在しない。
「盛況ですね」
 キッチンカーの中で客が来たときに効率よく提供できるように準備をしながら高本――いや、奉日本はサイバーフェスの様子を見ていた。
 展示場の詳細は彼のいる位置からは見えないが、様々な声が混ざり合い、重なり、大きな雑音となる様子は祭の雰囲気に似ている。伝統的なものではなく、空間を切り裂く色とりどりのレーザー光やロック調の音楽が流れる様子は大規模な音楽イベントに近いだろう。フェス、という言葉に偽りはないようだった。

 ――働いていますね。人もロボットも。

 賑やかな喧騒の中でも、マザー・エレクトロン株式会社、警察、ユースティティアの人々は課せられた役割を果たすように業務に従事している。その中には客をナビしていたり、忙しなく往来を繰り返すロボットの姿もあった。
「時間があれば見て回りたいけど……」
 サイバーフェスは最新技術が集まっているので、理論や理屈を知らなくても近未来の世界を体験ので見ているだけでも楽しめる。いち早く未来を経験できる、というのも希有なことだ。奉日本がそう呟いたのは純粋な好奇心からだったが――
「無理そうですね」
 既にぞろぞろと休憩エリアに入ってきている客達を見て、彼はその好奇心を捨てた。広大なエリアで行われるショーに、それを見て回る多くの人々。必然的に休憩する人も多くなる。
 一人に男性が奉日本のキッチンカーの前に来ると、
「コーヒーを一つ」
 そう注文した。奉日本は笑顔で応え、準備を始める。ミルで豆を挽き、カップにドリッパーとペーパーフィルターをセットし、先程挽いた豆を入れて沸かしておいた湯を注ぐ。本日用意したブレンドの香りが漂うと、それ閉じこめるように紙コップに入れて蓋をする。
 そして、予め用意していたキャンディ包みの丸いチョコレートと一緒に客に渡すと、
「今日は楽しんでください」
 自分の気持ちを託すように、奉日本は笑顔でそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』

ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。 『過去』は消せない だから、忘れるのか だから、見て見ぬ振りをするのか いや、だからこそ―― 受け止めて『現在』へ そして、進め『未来』へ 表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

処理中です...