有栖と奉日本『不気味の谷のアリス』

ぴえ

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第二章:開幕

有栖_2-2

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「高本さん」
 有栖は休憩エリアに来ると、高本のキッチンカーのある場所まで進み、客がいないことを確認した上でなにやら作業中の彼に声をかけた。
「有栖さん、来てくれたんですね」
「どうしたんですか?」
「ちょっとお願いがありまして――あ、これ良かったら、どうぞ」
 高本は紙コップにアイスコーヒーを注ぐとそれを右手に持ち、もう片方の手でキャンディ包みの丸いチョコレートを二つ慣れた動作で掬い取ると、有栖に差し出した。ふわり、とコーヒーの香りが届き、張り詰めていた緊張感が自然と緩むのを彼女は感じる。
「お金払いますよ」
「お願いを聞いてくれれば、これはサービスで良いです」
「じゃあ、聞いてから判断します」
 有栖は悪戯をするような子供っぽい笑みを浮かべると、高本は苦笑いを返した。
「とある人からコーヒーを持ってきて欲しい、とここの社員さん経由で頼まれまして」
「へぇ、誰ですか?」
「アース博士です」
「知り合いなんですか?」
 予想外の人物の名前が出てきたので有栖は驚き、少し声を大きくした。
「ちょっとした機会があって俺の店に来まして……それ以来は常連です。まぁ、彼女は多忙な方なので来店する回数は少ないですけど」
「まさか、高本さんがサイバーフェスに出店してるのって……」
「アース博士の要望です」
 有栖は高本の人脈の広さに関心すると同時に断れない事情もあるのだろう、と少し同情もした。
「客商売も大変ですね。良いですよ、持って行きます」
「でも、アース博士には護衛の人以外は近づけない、と聞きましたので、その方に渡して貰えれば――」
 その発言を聞き、有栖は真顔で自身の顔を指さす。それを見て、高本は少し目を開き、驚いた表情を見せた。
「厄介なお仕事をしてますね」
「自分でもそう思います。というわけで、持って行きますよ」
 そう言って、有栖は先程渡されたコーヒーをサービスとして貰うことにし、一口飲んだ。そして、チョコレートを一つ口に放り込み、もう一つをポケットに入れた。
 食べたチョコレートは口の中でゆっくりと溶け、優しい甘みが広がる。疲れた身体には心地良かった。
「助かります。実は二回届ける必要がありまして……何やら、彼女はもうすぐ発表会があるらしいので、その前後が良いらしいです」
「自分、もうすぐ護衛の担当なので、ちょうどそのタイミングで渡せますよ」
 アース博士が本日、発表会があることは事前にユースティティアにも警察にも連絡が来ていた。
「では、お願いします」
「解りました。しかし、そんなにコーヒーが欲しいのならロボットに頼めば良いのに」
 そう言って、有栖は忙しなく動いている自身と同じ名前のロボットを見ていた。
「ロボットはプログラムされたことしかできませんから……忙しいんでしょう」
「自分もそこそこ忙しいんですよ?」
「ロボットよりも?」
「良い勝負だと思います」
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