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第三章:幕間
虹河原_3-2
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「ユースティティア側は二日目ということで気が緩んでいるのでは?」
「お互い様や」
広い会場で虹河原が一色とぶつかったのは奇妙な縁、というしかなかった。二人は、とある一つの展示場で行われるセミナーイベントの警備の担当だったのだ。
アース博士ほどではないが、有名な研究員による発表なので警察とユースティティアの両名から一人ずつ警備が割り当てられていた。警備人数が少ないのはイベントスペースの特異さからだ。
スペースの前面は客が見るように開放されているが残りの後方と左右の面は高いパーテーションで区切られている。というのも、ここで行われるのは『巨大ロボットアームによる微細動作』という発表だからだ。
よってスペース内には三メートルは余裕で超える多関節、多軸のロボットアームがそびえ立ち、どうやらそれが狭いスペースで華麗に動く様子を見せるようだ。細かい作業を行うハンドのパーツは人間の手のような形状をしている。
「警備するのは客席からの飛び込みのみやな」
「パーテーションは頑強に固定され厚くて硬い。爆弾でも仕掛けない限りは一撃での破壊は無理でしょうし、そんなものはありませんでした」
「ちょっと時間をかけて、チェーンソーで破壊するかも」
「そのちょっとの時間に爆音が響くでしょう。それに気づいてからでも対処は可能です」
「せやな」
目線を合わせずとも淡々と会話が進むのは、二人が元々は一緒に働いていたからだろう――コンビを組んで。
すべき業務を確認し終えると、発表を行う研究員がやってきて準備を行った。更に数分もすれば客が多く集まってくる。
そして、イベントが始まった。
イベントでは巨大なロボットアームが関節と軸を器用に動作させながら様々なデモンストレーションを行った。
狭い箇所に滑り込むように物を掴む、運ぶ、放す。
大きな筆で書き初めをする。
巨大なロボットアームは、大きな力で大きな物を運ぶことが重宝され、その代わり誤差が大きく微細な動きは困難とされてきた。よって、この発表は観客を驚かせ、楽しませた。
会場の観客とジャンケンをするときは笑いも起きた。
イベントの開催時間的にも終盤に差し掛かったところで、発表していた男が締めの言葉を話し始めた――ときだった。
「え?」
ロボットアームが動き、発表をしていた男を優しく掴んだ。周囲の客は最後のアピールだと少し笑いながら見ていたのだが――
「おい、何か変やないか?」
異変に気づいたのは一色だった。虹河原に声をかけると二人は男を見た。
男は必死の形相で、身体を捻りながらもがく。どうやら、ロボットアームから逃げようとしているようだった。
「助けてくれ!」
男が叫ぶ。そこで客もこれが異常事態だと気づいたようだった。
「一色さん、停止方法は解りますか?」
「緊急停止ボタンとかの説明はなかったからな、それらしいものを探すしかない。素手では壊すのは無理やろ」
警察もユースティティアも拳銃の所持を、このサイバーフェスでは許可されていない。第三者に奪われることを危惧してのことだった。
二人が男の救出へと駆け寄ると、
「ロボットを止めてくれ!」
男が叫ぶ。同時にロボットアームの関節と軸が、ギャリギャリと音を鳴らしながら動き始めた。
「スイッチとかあるんか? どこや?」
「違う! ロボットを止めてくれ!」
「だから、どこにあるんですか!」
「違う! ロボットだ! 止め――」
ロボットアームの異音は更に音量を上げ、そして――
バキン、と機械の断末魔が響く。
ロボットアームは折れ、轟音を立て、イベント会場の右側――客も物もないスペースへと倒れた。
――あの男は何故、必要以上にロボットと言ったんだ?
どよめく会場の中、虹河原は冷静に周囲を見渡す。そこで一つの視線とぶつかった。観客席の奥――そこにはアリス、というロボットが彼の方を静観していた。
「お互い様や」
広い会場で虹河原が一色とぶつかったのは奇妙な縁、というしかなかった。二人は、とある一つの展示場で行われるセミナーイベントの警備の担当だったのだ。
アース博士ほどではないが、有名な研究員による発表なので警察とユースティティアの両名から一人ずつ警備が割り当てられていた。警備人数が少ないのはイベントスペースの特異さからだ。
スペースの前面は客が見るように開放されているが残りの後方と左右の面は高いパーテーションで区切られている。というのも、ここで行われるのは『巨大ロボットアームによる微細動作』という発表だからだ。
よってスペース内には三メートルは余裕で超える多関節、多軸のロボットアームがそびえ立ち、どうやらそれが狭いスペースで華麗に動く様子を見せるようだ。細かい作業を行うハンドのパーツは人間の手のような形状をしている。
「警備するのは客席からの飛び込みのみやな」
「パーテーションは頑強に固定され厚くて硬い。爆弾でも仕掛けない限りは一撃での破壊は無理でしょうし、そんなものはありませんでした」
「ちょっと時間をかけて、チェーンソーで破壊するかも」
「そのちょっとの時間に爆音が響くでしょう。それに気づいてからでも対処は可能です」
「せやな」
目線を合わせずとも淡々と会話が進むのは、二人が元々は一緒に働いていたからだろう――コンビを組んで。
すべき業務を確認し終えると、発表を行う研究員がやってきて準備を行った。更に数分もすれば客が多く集まってくる。
そして、イベントが始まった。
イベントでは巨大なロボットアームが関節と軸を器用に動作させながら様々なデモンストレーションを行った。
狭い箇所に滑り込むように物を掴む、運ぶ、放す。
大きな筆で書き初めをする。
巨大なロボットアームは、大きな力で大きな物を運ぶことが重宝され、その代わり誤差が大きく微細な動きは困難とされてきた。よって、この発表は観客を驚かせ、楽しませた。
会場の観客とジャンケンをするときは笑いも起きた。
イベントの開催時間的にも終盤に差し掛かったところで、発表していた男が締めの言葉を話し始めた――ときだった。
「え?」
ロボットアームが動き、発表をしていた男を優しく掴んだ。周囲の客は最後のアピールだと少し笑いながら見ていたのだが――
「おい、何か変やないか?」
異変に気づいたのは一色だった。虹河原に声をかけると二人は男を見た。
男は必死の形相で、身体を捻りながらもがく。どうやら、ロボットアームから逃げようとしているようだった。
「助けてくれ!」
男が叫ぶ。そこで客もこれが異常事態だと気づいたようだった。
「一色さん、停止方法は解りますか?」
「緊急停止ボタンとかの説明はなかったからな、それらしいものを探すしかない。素手では壊すのは無理やろ」
警察もユースティティアも拳銃の所持を、このサイバーフェスでは許可されていない。第三者に奪われることを危惧してのことだった。
二人が男の救出へと駆け寄ると、
「ロボットを止めてくれ!」
男が叫ぶ。同時にロボットアームの関節と軸が、ギャリギャリと音を鳴らしながら動き始めた。
「スイッチとかあるんか? どこや?」
「違う! ロボットを止めてくれ!」
「だから、どこにあるんですか!」
「違う! ロボットだ! 止め――」
ロボットアームの異音は更に音量を上げ、そして――
バキン、と機械の断末魔が響く。
ロボットアームは折れ、轟音を立て、イベント会場の右側――客も物もないスペースへと倒れた。
――あの男は何故、必要以上にロボットと言ったんだ?
どよめく会場の中、虹河原は冷静に周囲を見渡す。そこで一つの視線とぶつかった。観客席の奥――そこにはアリス、というロボットが彼の方を静観していた。
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