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第三章:幕間

虹河原_3-3

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「即死ですか?」
「おそらくな」
 事故の処理は虹河原と一色によって迅速に行われた。ロボットアームが倒れた方向は幸いにも誰もいない場所だったので、物の被害はパーテーションと備え付けてあったパソコンのみ。人の被害はロボットアームに掴まれた発表をしていた男のみ。だが、男は血塗れで呼吸はしていなかった。
 男は警察によって担架で運ばれていったが――おそらく助からない。いや、既に死んでいる、というのが虹河原と一色の共通の見解だった。
「サイバーフェスは中止ですか?」
「今日はこのままの継続するのは難しいやろな。客が混乱せんように、徐々に誘導して――」
 今後の話をしている最中だった。
「聖先輩! イチさん!」
 そう叫んで駆け寄ってきたのは飛田だった。その後ろには有栖と反保の姿も見える。
「飛田くん、何故ここに?」
「いや、無線で駆けつけるように指示が来ましたよ」
「有栖は?」
「自分も同じです。道中で反保もいたので連れてきました」
 一色も有栖に確認とっていた。そして、虹河原も一色も同時に不可思議な状況に気づき、思考を巡らせる。

 ――警察とユースティティアに同時にそのような指示が行くとは考え難い。仮に指示があったとしても早すぎる。いや、違う。指示があったなら、私の無線にも届くはずだ。
 飛田くんだけ……しかも、この時間帯は――

 虹河原は一つの結論にたどり着く。

「飛田くん、至急アース博士のいる棟に戻ってください。アース博士が危ない」
「有栖、反保。アース博士のいる棟へ戻れ! 誰かが彼女を狙ってるかもしれん」
 虹河原と一色が同時に指示を行った。
 飛田も有栖も反保も一瞬だけ硬直したが、
「はい!」
「はい!」
「はい!」
 三人は同時に返事をすると、即座にアース博士のいる棟へと駆けていった。

「気づいたか?」
 三人の姿が見えなくなると一色が虹河原に問いかけた。
「この時間帯に、アース博士の護衛をしていた人物だけに指示がきています。手法は解りませんが、目的は護衛をアース博士から離すことでしょう」
「せやろな」
 一色の反応から、彼も虹河原と同様の考えに至っているようだった。
「一色さんが行かなくて良かったのですか?」
「死亡事故を担当していた者が現場から離れて無闇に動くと、ユースティティア全体が混乱する可能性があるからな。こっちが混乱するとアース博士が誘拐でもされたら完全に対応が出来なくなる。そっちも同じやろ?」
「はい。ですが、私の場合はもう一つ」
「何や?」
「私は飛田くんを信じています。彼ならどんな状況でも必ず対応できる――一番信頼できる人間を行かせました」
 虹河原は堂々と揺るがない自信を視線と言葉に込めて一色に言ってみせる。
「……俺もそうやけどな」
 そう呟いた一色の言葉は、本心だとしても、虹河原の言葉に負けじと返したようにしか聞こえなかった。
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