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第四章:三極-2-

反保_4-4

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 直線的に高速で飛んでくるナイフを反保は、一本、二本、と上手く避けたが三本目は左腕に受けた。
「ぐっ!」
 痛みはない。しかし、反保は怯んだ演技をした。そして、続いて飛んできた四本目と五本目は辛うじで避けたように見せる。
 演技の理由は音切の接近を許すこと。そして、怯んだことにより接近での攻撃を単調なものにさせて、そこを特殊警棒で反撃する為だった。
 切り札である特殊警棒を当てるには接近戦である必要があり、それを当たる確率は可能な限り高くしておきたいのが心情だった。
 予想と期待通り、音切は反保に接近してナイフを突き刺す準備を終えている。一方で反保はナイフの刺さっていない右腕を腰に回して、特殊警棒に手を掛けた。
「死ねぇぇ!」
 音切の攻撃は解りやすく腹部を狙っていた。

 ――突くように……ここだ!

 一色からの指導通りに、反保は特殊警棒を取り出し、相手の肩口を狙う。しかし、

「テメェ、痛み感じてねぇだろ」

 音切の冷たい声が差し込まれた。反保は驚き、攻撃動作に入りながらも相手を見る。音切は攻撃を止め、彼の動作を見て、笑っていた。

 ――しまった! コイツは油断なんてしていない!

 そう気づいたときには遅かった。反保は攻撃を止められず、特殊警棒を突き出していた。伸びる特殊警棒の一撃は当たると思い込んでいたので、直線的で、単純なものだ。
 音切は容易く避けると持っていたナイフで自身の手を切り、その傷口に口を当て、血を吸い出す。そして、口に含んだ血を霧のように吹き出すと反保へ目を潰し、視界を奪った。
「クソッ!」
 目への痛みは感じないが、異物感と強制的に出る涙で視界が濁る。それを拭いたいがそれよりも先に、
「お返しだ、馬鹿が」
 音切の蹴りが顔面に炸裂し、反保は吹っ飛んでしまった。
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