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第四章:三極-3-

有栖_4-2

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 銃を向けている相手の動きを、有栖は集中して観察していた。

 ――ちょっと厄介な相手だな。

 相手の男については解っていた。詩島組の若頭――伏見。人望も厚く、これまで詩島組を支えてきた男だ。現在、窮地にある詩島組が存続できているのも彼の活躍が大きい。
「用があるのはアース博士のみだ。無駄に死体を増やすつもりはない」
「つまり、アース博士を誘拐するってわけ? 何で?」
「話す必要はない」
 この会話の最中も、キーボードを叩く音が聞こえてくる。彼女は、この状況でも気にすることもなく仕事を続けているようだ。
「アース博士! 手筈どおり逃げて!」
 突如、有栖が叫ぶ。その言葉に伏見は思わずアース博士の部屋を見て、銃口を彼女に向けた。
 アース博士は……有栖の言葉に反応することなく先程と同じように仕事していた。
「嘘だっての」
 伏見の耳に有栖のその言葉が届いたときには、既に彼女は突進しており、間合いを詰めていた。
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