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奉日本-3

奉日本-3-1

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 カラーズが捕まった――そのニュースは奉日本の周囲を騒がせた。もちろん、裏社会の方である。
 以前から捕まるのではないか、という噂はあったのだが実際捕まると、その周囲の事情を知っている者達にとっては話題の種だった。
 カラーズと結城議員の関係は報道される前に、結城議員が体調不良による辞職。そして、後任が決まるという小さなニュースも同時期に流れた。

「カラーズが捕まったんだろ?」
「そうそう。しかも、捕まえたのが警察じゃなくて対立しているユースティティアだろ?」
「あぁ、こりゃ警察の連中は悔しかっただろうな」
 もう何回聞いたか解らないテンプレートに等しい会話が酒の準備をしながらも奉日本の耳に入ってくる。話しているのは大学生ぐらいの若い男性二人組。おそらく、中途半端なワル、というやつだ。
 酒の席というのは口も警戒も緩くなる。だから、このような会話が聞こえてくるのはよくあることだった。

 今回の件で、世間一般的にも違法ハーブを売買していたグループを逮捕したユースティティアの評価はあがった。
 一方で比べられる警察の評価は下がる。そういう関係だから仕方がない。しかし、
 ――警察は悔しかっただろうな。計画が丸潰れだから。
 奉日本はそう思い、静かに笑う。

 実は警察はカラーズを捕まえようとしていた。それは身代わりではなく、カラーズ全体を。
 従来、結城議員の息子がリーダーであるカラーズと警察の間では暗黙のルールが存在していた。しかし、それすらも反故し、結城議員が辞職になったとしても、カラーズを逮捕しようと水面下で動いていたのだ。
 その理由は――
「いらっしゃいませ」
 閉店間際にドアが開き、入ってきた客を見て奉日本は微笑んで迎え入れる。
「今日は営業時間内に来れたな。まずはスカーレットオハラで」
 入店早々に注文を済ませた久慈はカウンター席に座る。好物の甘い酒を待つ彼の表情は以前来たときよりも機嫌が良さそうだった。
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