壊れるぐらい愛して

ふしきの

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 映画館で座る席は決まって中央の右側が多い。
 字幕との間隔でいうとその位置に何か落ち着くのだ。
 それに左右の非常口やら何やらの照明が明るいのも中央だとあまり気にならないし。
 映画の内容は特に決まったものを選ぶわけではない。
 登は古い銀幕の映画が好きみたいだった。
 流行りが終わった古い映画なんて、安価に見れるというのに、こうやって映画館まで足を運ぶ。
 昔の映画なんて邦題のセリフ回しが日本語だとかっこいいと思うだけで、音響もくぐもってて何しゃべってるのか分からないところばかりだ、と啓吾は思う。弁護士や裁判官なんかが出てくる映画なんて特に独特の言い回しばかりで眠くなる。啓吾はそれでよく終電に間に合わないときには寝に通っていた。ホラーだろうかサスペンスだろうが空調の完備した人気の少ない映画館は寝むけを誘ったから。
 登は違っていた。
 いつも気がつくと、ほっとけばすぐにでも涙が落ちそうな目つきで見つめていた。
 古い映画を見て感傷に浸るって感覚なのだろうか?と啓吾は思ったが、口には出さなかった。
 ただ付き合うのだから肩だけは貸してもらおうと、寝入るときには登の肩に頭を傾けた。スクリーンの声が遠くなるのを感じながら。嫌そうだろうなと思いつつも、毎度のことながら啓吾は寝てしまった。寝るほど心地いいんだ、つまらない映画なんかないんだと感じるそんな瞬間だった。
  

「弁当作るわ!愛妻弁当」
 と言い出したのは啓吾の方だった。
 朝が苦手なくせに、啓吾は難関受験を終えてパスした大学へ通うようになった登のために弁当を作ると言い出した。
「なんで?」
 学食もあるし、近くにそれなりの店も沢山あるというのに、しかも半月はまるまる会社で仕事もあるというのに…。
「いや、これは俺の意地ってやつだから、気にしなくていい…っていうか気にしてほしい」
 と、啓吾はそう言った。
 この年にしては、気にしすぎだとは思うのだが、やはり何かしら気にかかる。何しろ恋人として見てしまうと、登は異常に無防備すぎるし、見ていても、飽きない。っていうか、贔屓目に見ても可愛すぎる。女みたいに扱うのは何だと思うが、どうもそこらへんが自分でも最近意識しすぎだと思うが仕方がない。日がな、肌を重ねた回数分、倍になって登のことが気になってしょうがなくなってしまったのだから。強引に自分の所に住まわせてそれでもまだ足りない気分だった。
「このところ俺も出費がかさみすぎって思っているし…俺も外食も飽きた頃で。俺もそろそろ独立しなきゃって、思っている最中だし…」
「……家継ぐのか?」
「馬鹿!そういう意味じゃねーよ」そうじゃなくて、自分自身が登に異常に依存していることに大人として何かをしないとと、思い立った結果がこれだった。軽いマーキングだ。

 登の好きなジャスミン茶を入れた魔法瓶と小さめな二重の弁当箱を袋に詰める。
 で、さりげなく登に時計を渡した。
「何これ?」
 時計なら携帯電話の画面を見ればいいことなのに。今更腕時計。しかも、どこのメーカーかよく分からない、無骨な格好をしている。
「バッタ屋で前見つけたの。これ、アラーム代わりにバイブレーション機能がついてる。お前いつも集中すると時間忘れるだろう…」
「ああ…」
 登はそういう所がある。集中して何時間もパソコンの前に座ったり、何時間も食事を取ってなかったりすることが沢山ある。特に啓吾が軽い約束事でも言った時には、登はマテの犬並みにずっーとその位置で待ち続けていることがある。
「だから、それもっていけ」
 鼻息荒く、啓吾はそう言った。
「ありがとう…」
 啓吾は腕を大きく回して登に抱きつく。「浮気すんな。俺が残業で忙しくても飯食え。ちゃんと寝ろ。…なんか辛いことあったら俺が聞いてやるから…」
 登は「うん。うん」と頷いた。
 愛されているとわかると登は真っ赤な顔になる。その火照った顔がとてもかわいらしいと思う。柔らかな唇が啓吾の頬に当たる。自分よりほんの少しだけ小さな登を腕に抱きしめるときゅっとなる。その感覚がなんとも言えなかった。
「行ってきます」
「おう、俺も行くわ」

 余韻に浸る間もなく、自分たちはそれぞれの道を歩んでいった。
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