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柊の御令嬢
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「狸か狐か……おや、これはまた面妖な」と書物をたしなむ学生のまえに、柊の垣根を越えて傷だらけで家に逃げ込んできた妙齢な娘様ではありませんか。
「玄関を使わず申し訳ございません」と短くきつく口を閉ざしている「庭を一時ほど借りたい」といって踞ってしまった。
騒がしいもの音が通りすぎたと思ったらまた戻ってきた。
「ここにおなごが来なかったか。年の頃は十四、五歳の小娘だ、答えよ」
「いいえ、野子が通ったっきりで、あとは見かけてはおりません。今日は活劇にでも行こうと思ったが興が反れた。少し休むよ」
「お前は、青い顔をして無理に縁側に出るな。病人ならおとなしく奥間で寝ておれ」
「いい天気なのに、君は残念なことを言う」
憎まれ口にむっとしたのか、大足を踏み鳴らしながら。若衆は行ってしまった。
「半日でもいいの、匿ってはくださらない」
そのかたは、ご老人のように真っ白い肌と白髪をされていました。
キヨ子が言いにくい、と「君の名をココって呼んで良いか」と訪ねられた。
子どもっぽいわと愚図ってしまったので「とても可愛らしいと言う意味で、清廉潔白な貴女にはふさわしいと思いましたが」
「ふふありがとう、ね」意味が分かれば、おのずと唇らか笑い声が零れ落ちてしまって袖で口元を抑えるのであった。
「でぇ、なんで俺が車夫」振り向き禁止のチカがどこからか温泉宿の倉庫からものすごく古いものを引くはめになった。
「こういうものって、やっぱり格好からっしょ」
「これ、ちゃんとメンテナンスしているのか」
「そこは、大丈夫、由緒ある披露宴会場までよく走っていたらしいから」
「何年前だよ」
「マモっちゃんは車輪の後ろにスペースあるから、車夫守りだよ。重要な任務ね。俺はココットの手を引くから」
「誰だよ、なんだよ、ココットって」
というか、なぜか鞄のままでそのまま連れ去られ、数回自分の家の周りをまわっていく人力車の後ろに載せられるのか護には腑に落ちるどころじゃなかった。有無を言わされない強引も徹底されて笑いが出たほどだ。
寝たきりの婆さんが柔らかな毛布に包まれて家から出てきた。恐い顔とちびは人の隙間にポイポイと、カイロをあけて揉んで入れ込んだ。
「穏やかな天気だ」とチカがつぶやいた。
交通量の少ない昼。
町中は道路が整備されているのでがたつかないが景色が美しくはない。こういうときは傾斜のある植樹市街地が一番楽しい。
ほんの数十分だったが彼女は少女のように高揚していた。
家に帰ったときに車の椅子には花びらが落ちていた。白い小さな花の名は「ジャスミン」だった。
「ふふふ、あの人、朴念仁でね。ローズの花と間違えてこちらを植えてしまったの」そのあとは、またぼんやりとした老婆に戻ってしまった。
暖かな布団と空調の完備された清潔な部屋に戻された。
「ココ、君を傷つけるものはいかなるものも僕には許せない、だからこれで勘弁しておくれって、ほんとお馬鹿さんな御方でしたわ。本当にね」
婆さんはまた眠りについた。
婆さんは昔市長だったらしい。
そして、婆さんのひ孫はチカだった。
「ダマスクスローズのオイル入れたよ」
加湿器には少しだけ薄い香りを垂らすのが日課だ。婆さんの手のひらに残っていた花は潰れ筋と香りを皺に残した。「なんだい、この臭い花は芳香剤かい」と言って白いジャスミンは投げ捨てられた。たぶんお爺さんの記憶もまた消えたのだろう。
柊の木も切られた。
バラは当然植えていない。
遠い記憶のなかになにもかもしまわれたのだ。
「玄関を使わず申し訳ございません」と短くきつく口を閉ざしている「庭を一時ほど借りたい」といって踞ってしまった。
騒がしいもの音が通りすぎたと思ったらまた戻ってきた。
「ここにおなごが来なかったか。年の頃は十四、五歳の小娘だ、答えよ」
「いいえ、野子が通ったっきりで、あとは見かけてはおりません。今日は活劇にでも行こうと思ったが興が反れた。少し休むよ」
「お前は、青い顔をして無理に縁側に出るな。病人ならおとなしく奥間で寝ておれ」
「いい天気なのに、君は残念なことを言う」
憎まれ口にむっとしたのか、大足を踏み鳴らしながら。若衆は行ってしまった。
「半日でもいいの、匿ってはくださらない」
そのかたは、ご老人のように真っ白い肌と白髪をされていました。
キヨ子が言いにくい、と「君の名をココって呼んで良いか」と訪ねられた。
子どもっぽいわと愚図ってしまったので「とても可愛らしいと言う意味で、清廉潔白な貴女にはふさわしいと思いましたが」
「ふふありがとう、ね」意味が分かれば、おのずと唇らか笑い声が零れ落ちてしまって袖で口元を抑えるのであった。
「でぇ、なんで俺が車夫」振り向き禁止のチカがどこからか温泉宿の倉庫からものすごく古いものを引くはめになった。
「こういうものって、やっぱり格好からっしょ」
「これ、ちゃんとメンテナンスしているのか」
「そこは、大丈夫、由緒ある披露宴会場までよく走っていたらしいから」
「何年前だよ」
「マモっちゃんは車輪の後ろにスペースあるから、車夫守りだよ。重要な任務ね。俺はココットの手を引くから」
「誰だよ、なんだよ、ココットって」
というか、なぜか鞄のままでそのまま連れ去られ、数回自分の家の周りをまわっていく人力車の後ろに載せられるのか護には腑に落ちるどころじゃなかった。有無を言わされない強引も徹底されて笑いが出たほどだ。
寝たきりの婆さんが柔らかな毛布に包まれて家から出てきた。恐い顔とちびは人の隙間にポイポイと、カイロをあけて揉んで入れ込んだ。
「穏やかな天気だ」とチカがつぶやいた。
交通量の少ない昼。
町中は道路が整備されているのでがたつかないが景色が美しくはない。こういうときは傾斜のある植樹市街地が一番楽しい。
ほんの数十分だったが彼女は少女のように高揚していた。
家に帰ったときに車の椅子には花びらが落ちていた。白い小さな花の名は「ジャスミン」だった。
「ふふふ、あの人、朴念仁でね。ローズの花と間違えてこちらを植えてしまったの」そのあとは、またぼんやりとした老婆に戻ってしまった。
暖かな布団と空調の完備された清潔な部屋に戻された。
「ココ、君を傷つけるものはいかなるものも僕には許せない、だからこれで勘弁しておくれって、ほんとお馬鹿さんな御方でしたわ。本当にね」
婆さんはまた眠りについた。
婆さんは昔市長だったらしい。
そして、婆さんのひ孫はチカだった。
「ダマスクスローズのオイル入れたよ」
加湿器には少しだけ薄い香りを垂らすのが日課だ。婆さんの手のひらに残っていた花は潰れ筋と香りを皺に残した。「なんだい、この臭い花は芳香剤かい」と言って白いジャスミンは投げ捨てられた。たぶんお爺さんの記憶もまた消えたのだろう。
柊の木も切られた。
バラは当然植えていない。
遠い記憶のなかになにもかもしまわれたのだ。
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