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苦手意識
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体育大学から教員になった先生が体育に力を入れすぎているのは分かる。お陰で、余り人間になりやすい護の方がしんどい。
今日は胴着が破れた。
「君は、何で学校指定の胴着じゃないのか」と、胴着のせいにされた。「知らねぇし」と呟いてみる。「しかも、いまだに君は受け身が下手すぎる、いいか見ていなさい、ここをこうして、こう! 」だぁん、ってされても解らない。
「空手経験者なの? 」は、タブーだというのに、どこかの誰かの噂から耳に入ったのもショックだった。
「空手と柔道じゃ胴着の厚さが違うけど……女の爪みたいなのでガリッってされたら破けるわ」たっつんはいつも鋭いところを言うけれど、語彙に不自由なので非難が倍になって返ってくる。でも、ま、言ってもらえてちょっとだけ清々した。
ぼんやりと歩いている人が落とし物をしたので
「落ちましたよ」
って、言ったら、顔の恐いお兄さんで、ちょっとだけ足が震えた。
「おお、サンキュ、って、これかよ、イラネェ」とかまた捨てられた、目の前で。
「チカちゃん、だめだぞぉ、未来ある少年の前でオイタは」
「なんだよ、ゆずっち」
「指導! 」
なんて声をかけて口でピーって指笛吹いて見せた。
「うるせぇ」
「チカっち、指笛吹けねぇから、俺の下」
と、きゃっきゃ言い出した。
「ま、そういうこと」
って言って、落としたものを思いっきり握り返して戻された。恐い顔は赤面しながら「お前、近い近い」って嫌々帰っていった。
「おにーさん、男友達居て良かったね」って呟いてはっとした。失言だ。
「傷つくじゃん、チカは、ああみえて乙女心を持つ男なんだぞ」って、どっちがとか思う台詞を言われたが、本人が傷ついた感覚を見せられなかったので良かった。同級生ならすぐに泣いてアピールされてウザイ状態になるところだったから。
「おにーさんいいよね」
「ん」
「なんでも、そつなくこなせそうで」
と、愚痴ってみた。
「通行人で溢れている町中で一番苦労している人って誰かわかる」
「謎解き? 」
「違うよ。でも、まあ、そうだね」
「叔父が前に言っていたよ。中間管理職が一番辛いって」
「できる子だね」と、目をぱっちりさせてやがて笑った。「どの人も平等に不平等な立場にいる、だから全員」
「バカにして、聞くんじゃなかった」
って怒鳴ったらまた明るい声で笑われた。
その笑顔は馬鹿にされた顔ではなくなぜか安堵させる顔だったので、護はムカつきながら家に帰った。
今日は胴着が破れた。
「君は、何で学校指定の胴着じゃないのか」と、胴着のせいにされた。「知らねぇし」と呟いてみる。「しかも、いまだに君は受け身が下手すぎる、いいか見ていなさい、ここをこうして、こう! 」だぁん、ってされても解らない。
「空手経験者なの? 」は、タブーだというのに、どこかの誰かの噂から耳に入ったのもショックだった。
「空手と柔道じゃ胴着の厚さが違うけど……女の爪みたいなのでガリッってされたら破けるわ」たっつんはいつも鋭いところを言うけれど、語彙に不自由なので非難が倍になって返ってくる。でも、ま、言ってもらえてちょっとだけ清々した。
ぼんやりと歩いている人が落とし物をしたので
「落ちましたよ」
って、言ったら、顔の恐いお兄さんで、ちょっとだけ足が震えた。
「おお、サンキュ、って、これかよ、イラネェ」とかまた捨てられた、目の前で。
「チカちゃん、だめだぞぉ、未来ある少年の前でオイタは」
「なんだよ、ゆずっち」
「指導! 」
なんて声をかけて口でピーって指笛吹いて見せた。
「うるせぇ」
「チカっち、指笛吹けねぇから、俺の下」
と、きゃっきゃ言い出した。
「ま、そういうこと」
って言って、落としたものを思いっきり握り返して戻された。恐い顔は赤面しながら「お前、近い近い」って嫌々帰っていった。
「おにーさん、男友達居て良かったね」って呟いてはっとした。失言だ。
「傷つくじゃん、チカは、ああみえて乙女心を持つ男なんだぞ」って、どっちがとか思う台詞を言われたが、本人が傷ついた感覚を見せられなかったので良かった。同級生ならすぐに泣いてアピールされてウザイ状態になるところだったから。
「おにーさんいいよね」
「ん」
「なんでも、そつなくこなせそうで」
と、愚痴ってみた。
「通行人で溢れている町中で一番苦労している人って誰かわかる」
「謎解き? 」
「違うよ。でも、まあ、そうだね」
「叔父が前に言っていたよ。中間管理職が一番辛いって」
「できる子だね」と、目をぱっちりさせてやがて笑った。「どの人も平等に不平等な立場にいる、だから全員」
「バカにして、聞くんじゃなかった」
って怒鳴ったらまた明るい声で笑われた。
その笑顔は馬鹿にされた顔ではなくなぜか安堵させる顔だったので、護はムカつきながら家に帰った。
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