2 / 5
人食いと娘 2
しおりを挟む
「あたしはあの時、死んでもよかった。ああ、死んだ方がましだった。あたしの人生はあれから悲惨なものだった。みじめでだれからも石を投げられ唾をかけられ、それでも今までいいことの一つもあればと、転々と生きてきた。だけれど、だれもあたしをみるものなんぞいなかった」
老婆の供述は矢継ぎ早にしゃべって、「お茶をくれ」という言葉で終わった。
がらがらの薄い声に「自分はよくやった」という興奮でまだ顔が赤かったという。
「ばあさんや、それでも、あたしらは生きている。あたしらは良く生きた。それで十分じゃないか」
と諭してもまるで初めてヤゴを掴んだ子供のように唇は笑ったままなのだ。
「あたしはあの時死にたかった。死んだ方がましだった。なのにあいつがわしを『わざわざ救い出した』」
がれきの奥からぼろきれの子供を一人二人と、ぐったりとしているが生きている子供を、わずかに。
その子らはやがて散り散りになった。
だれも、かれも、顔すら覚えてはいない。
みんな、魂が抜かれたような、泥人形の顔をしていた。
「うすのろ」 と呼ばれた人が死んだ。
三面記事の下の方へ指名住所不定の男が死んだと載っただけだった。
老婆は情状酌量を待っていた。
寒くもない牢獄で薄っぺらい服を着て、毎日飯を少しばかり食っては少し笑っていた。常に「自分は誇らしい」「正しいことをした」「わたしは悪くない」「すべては狂ったのだから」を言い続けていたから。
その後、事態は変わった。
「うすのろ」と言われた男の身元が分かったのだ。醜く曲がった鼻。湾曲した腕。大柄な体つきが幸いしたのだろう。
きらびやかな人たちが死後沢山の献花に来た。
沢山の賛辞と花が送られた。
「センセイは素晴らしいお方だった」
「清廉潔白のお姿はいつも神々しいほどの作品に投影されていた」
「センセイはナチュラリストでココロが透き通るほど美しく、ハニカミ屋で言葉は少なかったものの、誰もが認める存在であらせられた」わら半紙の封筒は言われなくてはわからない紙漉き封筒を大事にそして大っぴらに見せつけながら演説された。
「で、先生のお墓はどちらで?」
センセイの残された作品どこへ?
センセイの。
センセイ。
町の人は知らない。あの後、あの地で再開した人の中に知る人はわずかしかいず、誰もが生きるだけで他人のことなど知ることも聞くこともない。金に絡むことを聞き逃したことを今になって悔しがる人だけが地団駄を踏んだ。
そして、突然怒り狂う。
「気の狂ったばあさんが殺した」
「ワタシらには関係ない」
「ワタシらは知らない」
「知らないゆえの被害者だ」
雪の降る朝、老婆は老衰で死んだ。
「愚かだよね」
「ああ、愚かだ」
「なのに、なんで生きようとするんだろね」
「何かな、たぶん、きっとみんな何かを探して生きているんだろね」
老婆の供述は矢継ぎ早にしゃべって、「お茶をくれ」という言葉で終わった。
がらがらの薄い声に「自分はよくやった」という興奮でまだ顔が赤かったという。
「ばあさんや、それでも、あたしらは生きている。あたしらは良く生きた。それで十分じゃないか」
と諭してもまるで初めてヤゴを掴んだ子供のように唇は笑ったままなのだ。
「あたしはあの時死にたかった。死んだ方がましだった。なのにあいつがわしを『わざわざ救い出した』」
がれきの奥からぼろきれの子供を一人二人と、ぐったりとしているが生きている子供を、わずかに。
その子らはやがて散り散りになった。
だれも、かれも、顔すら覚えてはいない。
みんな、魂が抜かれたような、泥人形の顔をしていた。
「うすのろ」 と呼ばれた人が死んだ。
三面記事の下の方へ指名住所不定の男が死んだと載っただけだった。
老婆は情状酌量を待っていた。
寒くもない牢獄で薄っぺらい服を着て、毎日飯を少しばかり食っては少し笑っていた。常に「自分は誇らしい」「正しいことをした」「わたしは悪くない」「すべては狂ったのだから」を言い続けていたから。
その後、事態は変わった。
「うすのろ」と言われた男の身元が分かったのだ。醜く曲がった鼻。湾曲した腕。大柄な体つきが幸いしたのだろう。
きらびやかな人たちが死後沢山の献花に来た。
沢山の賛辞と花が送られた。
「センセイは素晴らしいお方だった」
「清廉潔白のお姿はいつも神々しいほどの作品に投影されていた」
「センセイはナチュラリストでココロが透き通るほど美しく、ハニカミ屋で言葉は少なかったものの、誰もが認める存在であらせられた」わら半紙の封筒は言われなくてはわからない紙漉き封筒を大事にそして大っぴらに見せつけながら演説された。
「で、先生のお墓はどちらで?」
センセイの残された作品どこへ?
センセイの。
センセイ。
町の人は知らない。あの後、あの地で再開した人の中に知る人はわずかしかいず、誰もが生きるだけで他人のことなど知ることも聞くこともない。金に絡むことを聞き逃したことを今になって悔しがる人だけが地団駄を踏んだ。
そして、突然怒り狂う。
「気の狂ったばあさんが殺した」
「ワタシらには関係ない」
「ワタシらは知らない」
「知らないゆえの被害者だ」
雪の降る朝、老婆は老衰で死んだ。
「愚かだよね」
「ああ、愚かだ」
「なのに、なんで生きようとするんだろね」
「何かな、たぶん、きっとみんな何かを探して生きているんだろね」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる