バードソング

ふしきの

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バードソング2

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 兄貴が冒険しようぜとか、言うときは機嫌がいいときだ。進軍しようぜと言うときはたまに帰ってくる親戚も集まってごっこ遊びが過激になる。投てき、槍、石ころ、縄、網のすべての補修をおいて逃げて夕御飯には一番人気なんだ。
 兄貴はとても見た目もいい男前と言われてはいたが、いつもの素行の悪さはそういうときには一切見せたことがない。
 僕は今日も叱られた。靴下が左右対称になっていないことで。さっき兄貴におやつの実の殻を靴下に入れられて泣きながら直したとことだったのに。
 兄貴は意地汚い笑いをしてぼくを見てはウインクする。ざまあみろというよう
に。


「凶悪な犯罪者が逃げている可能性がある」との領地書からの通達に兄貴は乗り掛かって読んでいた。通報だけで一週間肉が食えると叫べば、ママはいまは肉すら買える市場も遠いわ。と嘆いていた。捕まえればいいじゃん。一匹捕まえればこの家売りはらって町のアパートメントで暮らそう。町はまだ見ずも食料も治安だって安定している。僕らはヒーローとして迎えてくれるはずだ。バカなことをおいいいでないよ。ママはそれでも能天気で明るく顔のいい兄を僕より数倍可愛がっていた。

 あの日、僕も家にたくさんの革靴の人が来た。折角洗った玄関は靴の足形で泥まみれに汚れた。
「森?キノコのシーズンは終わったし。これといって用のないただの暗い森だよ」
「君は詳しいのかい」
 兄貴は自分が美形であることに誇りを持っていたけれど、どんどんその人たちによって自信と誇りがしぼんでいってしまった。「おやじ、もうしゃべな。親父より俺の方がここ数年は詳しい。水鳥の狩りだってそうだろぉ。な」今思えば、兄貴はだらしない肌着のシャツの父親が自分の誇らしい父だということを恥ずかしがる年だった。
 あろうことか極端に歪んだ思考が暴走しいかにして美しい憲兵団に入れるかばかりを思い描くようになった。
 村の女は下品で汚い、しみったれた根性で「ゲーテを読んでもアクビをするんだ」が彼らを笑わせる壺だった。


 とうとう恐れたことに、聞いた話を自分が手柄を取るために見た話に変えていった。
「最近、あの森の木こり小屋は使われているのかい」
「夏なら数円のコインで立ち入り禁止させていますよ。村のものはほとんど知っていますが、地が腐ってきたのでもうだれも入り用には使いませんよ」
「ませているね」
「町と違ってそういう部分はオープンですしなにより勝手に決められた婚約者が嫁に来るまでは独身を謳歌します」
「ほぉ、使用日時とか金銭があるなら記録もあるのかね」
「そこまではいえませんが」
 次の日の前には教会の牧師と町内会長が引かれて消えた。兄貴は気がつかなかった。兄貴が喋る本当と嘘の両方がかくじつに毎日間引かれていくというのに兄貴にとっては「君は素晴らしい人材だ」と誉められる方が枕を高くして眠れたのだ。
 婚約者という女が噂で卑しいものと仲が良かったと又聞きしただけで憲兵に連れられていったことを知った兄は「ブスをめとらず棲んで楽になった」「お姉さんブスじゃなかったよ」「ふーん、ならわるいことしたな。はやく返してもらえればいいな」
「帰れないよ。もう二度と家にも田舎にもどこにも帰れないよ、僕らだって知っている」
 兄は泣きながら殴ってくる僕にひどく恐れた。
「最近、山の向こうから黒煙が上がって風が変わると臭い臭い言っていたよね」
「ゴミ焼却場の臭いだろ」
「人の髪の毛の燃える臭いだよ」
 ぼくは自分の髪の毛をむしり取って暖炉にくべた。
 やっぱり焼却炉と同じにおいがした。
 家族全員に殴られた。
 僕は言ってはいけないこととやってはいけないことと示してはいけないことの全部をやってしまったから。

 兄の婚約者は親類の元に帰ってきたかどうか僕は知らない。


 僕は「今度は私らが迫害される番になった」と、最後の食事を持たされて家から追い出されたたのだ。山の向こうに家はあった。あそこら辺で火の粉が上がる度に自分も家が燃やされたのだと思い続けて遠くへ遠くへ逃げた。

 
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