タコのグルメ日記

百合之花

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I章 始まりの森

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我輩はタコである。

この一言を受けて有象無象の人たちはどういう感想を抱くだろうか?
故人、夏目漱石の書く長編小説、『我輩は猫である』にかけた気の利いたジョーク、とでも受け取ってしまわれただろうか?
しかし、それは違う。

いや、これが先述したとおり小粋でこじゃれたジョークであればむしろ良かっただろう。
ただただ、言葉通りの意味だとすればどうだ?

そのまま素直に受け取った場合は?

なんら他意無く、すなわち聞いたままに受け取ってもらった場合。
そのまま我輩は、もとい僕はタコである。
そう、僕はタコになってしまったようなのだ。


☆ ☆ ☆

ことの始まりは何のことは無い。
ただ事故で死んだというだけの話。
死ぬ間際、さまざまな走馬灯を頭に抱えつつもゆっくりと閉じていく瞼と意識。
これは助からないなぁとぼんやり思いながら目を開けるとそこは暗闇。
目を開けておいて暗闇とは如何に?と不思議になったものだが、別に夜というわけでもなく、そこがタコの卵の中だったから。という知ってしまえば簡単なことであった。

とりあえず卵から出た僕はあらゆる困惑を経験したと思う。
なぜタコに?と思ったし、生まれ変わるにしても前世の記憶がなぜあるままなのだ?と疑問を持ったし、周りで僅差の差で先に生まれたのであろう他のタコがまだ生まれてない卵をおいしそうに‐かはタコではない‐いや、タコになって間もない僕にとっては分からない事だったがとにかくむしゃむしゃと食んでいたのを、ぼーっと見て気づいたものだ。

これは現実なんだろうなぁと。
とりあえずその場にいては自分も食われそうで怖かったというのもあって、その場をあとにしたのだが、地面をはいずりながらさらに気づいたことがひとつ。
どうも自身が生まれたこのタコは陸上で生きるタコなのだと。
はいずることで初めて気づいたというのも鈍いとは思うのだが、周りを見渡すとうっそうと生い茂る木々。
森。
森に産み落とされた卵から僕が出た。ということだろう。

海洋から陸上へタコも進出したのかぁとこれまたのんきに考えていたのもつかの間。目の前にありえない生き物が横切るのを見て、さらに困惑した。


自分はどうも30センチほどのマダコのような外見(8本ある足の形的にそう判断する)らしいのだが、目の前には20センチほどにも満たない小さなウサギがいた。
が、そのウサギには到底、実用足りえないほどの羽がちょこんと生えているように見える。
目の錯覚かな?と思って目を擦ってみて、テレビでタコは色を見分けることができるとかいう関係ない豆知識を反芻し、確かにと納得しながらウサギを再度見直すと、やはり羽が生えていた。

どうも死んで生まれ変わる間にウサギは羽を生やし、タコは陸へ進出したようだった。



わけが分からないよ。
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