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I章 始まりの森
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ゴブリンを見ながら自身の体を形成していく。
もともと海洋にいたタコであるならばさすがに人型の生き物なんてのは無理だったろう。
だが、僕は陸上ダコである。
陸上は水中とは違い、浮力が無い。ゆえに骨なしで体を支えるために筋肉は海洋のタコに比べるまでも無くがっちりとしていて量が多い。
全身筋肉、ガチムチである。
そんなタコの体だからこそ、体を自由に動かせる。
人間と違って、このタコの筋肉繊維は一方方向ではなく文字通り縦横無尽に動く。
余分な部分は筋肉で絞めて圧縮する。
そして体色を彼らと同じ赤色にして、大きな口ばかりはどうしようもなかったので、股に持っていき、毛皮で隠す。
毛皮の下は女性の性器のように筋が入ってはあれどもその実はまったくの別物。
ぴったり閉じた口である。
腕と足は触腕を伸縮させ、太くしたり細くしたりで調整する。
吸盤はエアスラッシュで切り落とした。
痛かったけど我慢である。
すぐに血が止まり、傷がふさがり始めるが吸盤の再生には一ヶ月ほどかかるはず。複雑な構造のせいか再生には時間がかかるのだ。
そして頭は自分の両目と、その周りの筋肉をいじって良い感じにでこぼこさせる。
耳を作り、鼻を作り、口をつくり。
ただ口は飾りなので他のゴブリンに混じって食事を取るということだけは出来ない。
ま、それはともかく。
泉の水面で自分の姿を確認しつつ擬態を完了した。
「・・・僕って天才?」
思わず自画自賛をしてしまう。
声は風の魔法による発声。
声帯をつくるなんてことはさすがにできません。
「グアオ、グエロ、ググオアッ!グウアッ!・・・よし、ばっちりだ。」
ゴブリンの集落をこっそり観察した結果、挨拶らしい言葉だけは覚えた。
グアオが顔を会わせた時の挨拶。
おそらくおはようございます、こんにちわ、こんばんわ、おやすみなさいの意味を時と場合によって解釈するといった感じの言葉である。
もしくはそこまで小分けにしてないという可能性も。
グエロは、はい。
ググオアは、いいえと思われる。
グウアはただの返事。
おう、そう、ふうん、みたいな言葉と思われる。
善は急げとばかりに僕は早足にゴブリンの集落へと向かった。
と思いきや。
ドテ、と体が倒れる。
人間の指を模した時と同じように動かすための筋肉が必要なようだ。
さらに一月かかった。
☆ ☆ ☆
全身筋肉でありながらも筋トレとは如何に?とか思いながらゴブリンの、もとい人型としての動きが出来るように筋トレをして、一ヶ月間後。
こんどこそ、とちょっとどきどきしながらゴブリンの里に入り込んでみた。
すると・・・
「グアオ。」
「グ、グアオ。」
彼らの挨拶と思わしき言葉を受ける。
こ、こいつは感動だ。
今僕は猛烈に感動している!!
コミュニケーションを、話をしているではないかっ!!
突然震えだした僕に対して怪訝そうな顔でこちらを見つめる村人・・・いや、村ゴブリンA。
おっとまずいまずい。
これでは怪しんでくれといっているようなものである。
「ぐ、ぐあお~。」
もう1度挨拶の言葉を吐いてその場を後にした。
30分ほどだろうか。
ゴブリンの集落は思った以上に広く、全部見て回るのに30分もかかった。
そして彼らは畑を耕したり、家畜を育成しながらのんびりとすごしている。
こういう姿を見ると人間と変わらないように思える。
いまさらながら彼らを狩った僕の心にはちょっとだけ罪悪感が。
ま、まぁいいよね!
別にそんなに狩ってるわけじゃないし。
ちなみに彼らゴブリンの味はなんというか・・・ピリ辛のお肉という感じなのである。
ちなみに一番美味なのは頭部だ。
頭は脳髄があるところであり、一番堅く、しかし柔らかい。
こんな表現をしたのは頭蓋骨がやたらと堅かったからである。
しかし、その堅い頭蓋骨を噛みぬくとぶわっと口の中に広がるコク。
コク、コク、コクっ!!
濃密なねっとりとしたコクが口に広がるのだ。
しかしさすがに濃すぎる。
ちょっとくどいなと思った矢先、それを先んじていたかのように舌に流れ込んでくるのはピリッとした辛味。
わさびのような上品な辛さではなく、カレーなどのスパイスに使われるガツンとくる辛味である。
これが口の中にねっとりとしつこいくらいに残っていたコクを、この辛味が一気に洗い流してくれる。
辛味もまたこちらの舌を絡めとろうと掴んで離さまいとするのだが、さらにその先を読んでいたのか、不思議と臭みも何も無い、まさに水のようなさらさらの血液や髄液が辛味の手をそっと引き離す。
後に残るのはゴブリンの頭を腹に収めたという満腹感のみ。
今までの連続した味の攻撃が嘘か真か一瞬判断を迷うほどにあっさりとした後味である。
今感じていた味の連撃は幻想だったのかと思うほどに。
体はピリ辛お肉に骨のバキバキ感を混ぜ合わせましたという感じでこっちはサラダのような感じでサクサク食べ進めることが出来る。
なかなか美味な種族といえよう。
じゅるり。
・・・はっ。
危うくその辺を歩くゴブリンを捕食してしまいそうになった。
危ない危ない。
今日は彼らと仲良くコミュニケーションを取ろうとしたのだ。
せっかくの筋トレが無駄になるところ。
おほん。
気を取り直して、まずはやさしそうなゴブリンに話しかけてみようではないか。
周りを見渡した。
「・・・。」
もう一度見渡す。
「・・・あれ?」
さらにもう一度、目を凝らして良く見渡す。
「・・・皆おんなじ顔に見えるや。てへ。」
みっごとに見分けが付かなかった。
そらそうである。
タコならばともかく‐‐いや、タコも怪しいのだが、とにかくタコの見分けも出来ない僕にゴブリンの見分けなんて出来るわけがない。
一体、何を持って優しそうなゴブリンだと判断するのだろうか?
ちょっとそこのゴブリンに聞いてみようか?
でもこのゴブリンがもし怖そうなゴブリンだった場合、「怖い顔をした俺に対するあてつけか?ああん?」と喧嘩を売ってると勘違いされてしまうかもしれない。
なんということだ。
八方塞ではないか!!
さきほども言ったとおり、僕はここにコミュニケーションを取りに来たのである。
もっと見もふたもない言い方をするならば寂しさを紛らわしにきたのである。
決して喧嘩を売りに来たのではない。
というか、そもそもそこまで高度な会話をグアオ(挨拶)、グエロ(はい)、ググオア(いいえ)、グウア(おう、はい、という返事。)でしろとは何たる無茶振りか。かなり難しいといわざるを得ない。
というか不可能なんじゃないだろうか?
いや、こんなときこそ安心安全設計(?)の適当(エキサイト)翻訳の出番である。
ビビッていては何も始まらない。
相互理解の最初の一歩は言語の理解よりもまず先に『お互いが歩み寄ること』なのだ。
お、今すごい良いこと言ったんじゃないだろうか?
とにかく覚悟を決めてとりあえず何か話しかけようとしたところで。
「グアああああああああああああああああアアオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
大きな雄たけびが聞こえた。
そして鳴り響くのは木と木をぶつけ合うカンカンという音。
えっ!?
僕、まだ何もしてませんよ!?
そして周りのゴブリン達は村の出口へと急いで向かっていった。
メスらしきゴブリン達や子供ゴブリン達は家屋に閉じこもる。
一瞬取り残されたが、何はともあれ行動を同じにしなければここから追い出されてしまいかねない。
いや、僕一人に注意を向けていられるほど余裕のある様子ではないのだが。
家屋に入るのは論外。であるならば他のゴブリン達が向かったところへ行こうといってみるとそこには‐‐
「ひゃっはーーーっ!!」
「ファイアーボールっ!!」
「皆殺しよっ!!」
人間達がゴブリン達を虐殺していた。
元日本人としてはあんなにおいしいゴブリンを無駄に殺しやがってという勿体無い精神による怒りが湧いてきたが、何度も言うようにここは弱肉強食の世界。
ゴブリンが殺されてしまうのはしかたないことだ。
だが、こうまで一方的に蹂躙されているのを見るとさすがに可愛そうになってくる。
一人、双剣を持つ男は次々とゴブリンを切り裂き殺し、積極的に自らゴブリンの懐へもぐりこむ。
もう一人は炎の玉を打ちまくる馬鹿。
森に発火したらどうするのだろう?
少なくともここは高温多湿な地域なので炎は燃え移りづらいとは思うのだがそれでもハラハラする。
ここの森が焼畑よろしく焼き尽くされたら僕は一体どこへ行けばいいというのか。
まだすべての動物を食べたわけではないというのに。
最後の一人は女性で、大剣をぶんまわしている。
他二人に比べて鈍重だが、そのリーチと仲間との連携で上手く隙を消している。
なんて苛烈な三人組か。
ゴブリン式指標レベルで言えばちょっと前にいたメイソンたちよりだいぶ高い。
15ぐらい?
ゴブリン涙目である。
一人ひとりがゴブリンの15倍は強い戦士達。
僕だったら一目散に逃げてる。
が、どうやらゴブリン達は逃げれない理由があるようで。
人間達と何事かを言い争っている。
お互い怒鳴りあってるようにしか見えない。
言葉が通じてるのか通じてないのか判断に困る光景である。
と、のんびり観戦してると炎の玉がこちらに向かってきた。
反射的に身をかがめてよける。
野生のタコとして生きてきた僕に油断の二文字は無い。
観戦しながらも警戒レベルは最大に維持している。
「へぇ・・・ちょっとはやるみたいですね。」
めがねをかけて、いかにもな魔法職の男の人がそんな感じのことを言った。
適当(エキサイト)翻訳ばんざい。
多分間違ってない。
「いつまで避けれるか見ものですよ・・・ニヤリ。」
ニヤリは口に出してないけど、そんな感じの笑みを浮かべたので訳してみた。
そして撃ってくる炎の玉。
だが、これちょっと思ったんだけれど・・・
「なっ!?」
風の刃で軌道をずらせばなんのことは無い。
ぶつけて相殺する必要すら無い。
ていうか彼は馬鹿だろうか?
結構距離があるにもかかわらず直線的な軌道しか描けない炎の玉を撃ってくるなんて。
基本は戦士職に気を引いてもらってから撃つのが当たり前だろうに。
これならまだ羽ウサギのほうが手ごわい。
たかがゴブリンだと思って舐めていたのだろう。
ふっ、油断とは未熟なやつめ。
そして僕は僕でどうするかを考えていた。
人間を殺す、のは思ったより忌避感は無い。
野生の生活を舐めるなって話である。命のやりとりなんざ、とうの昔に済ましてあるし、人間が死んだところだって見たのは初めてではない。
次に考えるのはメリットデメリット。
まず相手の強さを考えてみた。
生き残るためには相手の強さを推し量るのが第一。
強ければ即逃げる。
弱ければ食べる。
今はまだ他の二人が他ゴブリンにかかりきり。確実にしとめることが出来るだろう。
そしてしとめた場合のことについて考える。
・・・人間って美味しいのかな?
・・・じゅるり。
はっ。
いやいや待て待て。
さすがにそれはまだ早いだろう。
いつかそういった価値観を捨て去るときも来るかもしれないけど、さすがにまだやめておこうっ!!
・・・でも腕の一本くらいの味見は・・・
はっ。
いやいやまてまてっ!!
いや、でも・・・単純に知的好奇心という意味でも食べてみたい。
どうしよう?
あと考えられるリアクションはゴブリン達に感謝される?
そうすればコミュニケーションが格段に取りやすくなるかもしれない。
逆にデメリットを考える。
人間は群れる生き物である。
彼らがどういう経緯で何の目的でもってここに来たのかは不明。
森の外の近くには町があることは知っている。
もしこれがゴブリンが増えすぎないように定期的に駆除するという意図であるとここで彼らを殺すのはまずい。
より大人数で殺しに来るかもしれない。
それが一番困る。
いまだ魔法のこともよく分からないし、一応目の前のめがねの男だってもしかしたら奥の手を隠しているかも。
これが単純にゴブリンを狩るという一瞬の猟的な趣味であるならば良いし、個人個人の何らかの目的での範囲内ならば良い。
さて、どうしたものか。
殺す、というならば確実に三人とも殺しておきたい。
僕の情報が知れ渡って討伐隊でも出されてはかなわない。
・・・ううむ、どうしたものか。
もともと海洋にいたタコであるならばさすがに人型の生き物なんてのは無理だったろう。
だが、僕は陸上ダコである。
陸上は水中とは違い、浮力が無い。ゆえに骨なしで体を支えるために筋肉は海洋のタコに比べるまでも無くがっちりとしていて量が多い。
全身筋肉、ガチムチである。
そんなタコの体だからこそ、体を自由に動かせる。
人間と違って、このタコの筋肉繊維は一方方向ではなく文字通り縦横無尽に動く。
余分な部分は筋肉で絞めて圧縮する。
そして体色を彼らと同じ赤色にして、大きな口ばかりはどうしようもなかったので、股に持っていき、毛皮で隠す。
毛皮の下は女性の性器のように筋が入ってはあれどもその実はまったくの別物。
ぴったり閉じた口である。
腕と足は触腕を伸縮させ、太くしたり細くしたりで調整する。
吸盤はエアスラッシュで切り落とした。
痛かったけど我慢である。
すぐに血が止まり、傷がふさがり始めるが吸盤の再生には一ヶ月ほどかかるはず。複雑な構造のせいか再生には時間がかかるのだ。
そして頭は自分の両目と、その周りの筋肉をいじって良い感じにでこぼこさせる。
耳を作り、鼻を作り、口をつくり。
ただ口は飾りなので他のゴブリンに混じって食事を取るということだけは出来ない。
ま、それはともかく。
泉の水面で自分の姿を確認しつつ擬態を完了した。
「・・・僕って天才?」
思わず自画自賛をしてしまう。
声は風の魔法による発声。
声帯をつくるなんてことはさすがにできません。
「グアオ、グエロ、ググオアッ!グウアッ!・・・よし、ばっちりだ。」
ゴブリンの集落をこっそり観察した結果、挨拶らしい言葉だけは覚えた。
グアオが顔を会わせた時の挨拶。
おそらくおはようございます、こんにちわ、こんばんわ、おやすみなさいの意味を時と場合によって解釈するといった感じの言葉である。
もしくはそこまで小分けにしてないという可能性も。
グエロは、はい。
ググオアは、いいえと思われる。
グウアはただの返事。
おう、そう、ふうん、みたいな言葉と思われる。
善は急げとばかりに僕は早足にゴブリンの集落へと向かった。
と思いきや。
ドテ、と体が倒れる。
人間の指を模した時と同じように動かすための筋肉が必要なようだ。
さらに一月かかった。
☆ ☆ ☆
全身筋肉でありながらも筋トレとは如何に?とか思いながらゴブリンの、もとい人型としての動きが出来るように筋トレをして、一ヶ月間後。
こんどこそ、とちょっとどきどきしながらゴブリンの里に入り込んでみた。
すると・・・
「グアオ。」
「グ、グアオ。」
彼らの挨拶と思わしき言葉を受ける。
こ、こいつは感動だ。
今僕は猛烈に感動している!!
コミュニケーションを、話をしているではないかっ!!
突然震えだした僕に対して怪訝そうな顔でこちらを見つめる村人・・・いや、村ゴブリンA。
おっとまずいまずい。
これでは怪しんでくれといっているようなものである。
「ぐ、ぐあお~。」
もう1度挨拶の言葉を吐いてその場を後にした。
30分ほどだろうか。
ゴブリンの集落は思った以上に広く、全部見て回るのに30分もかかった。
そして彼らは畑を耕したり、家畜を育成しながらのんびりとすごしている。
こういう姿を見ると人間と変わらないように思える。
いまさらながら彼らを狩った僕の心にはちょっとだけ罪悪感が。
ま、まぁいいよね!
別にそんなに狩ってるわけじゃないし。
ちなみに彼らゴブリンの味はなんというか・・・ピリ辛のお肉という感じなのである。
ちなみに一番美味なのは頭部だ。
頭は脳髄があるところであり、一番堅く、しかし柔らかい。
こんな表現をしたのは頭蓋骨がやたらと堅かったからである。
しかし、その堅い頭蓋骨を噛みぬくとぶわっと口の中に広がるコク。
コク、コク、コクっ!!
濃密なねっとりとしたコクが口に広がるのだ。
しかしさすがに濃すぎる。
ちょっとくどいなと思った矢先、それを先んじていたかのように舌に流れ込んでくるのはピリッとした辛味。
わさびのような上品な辛さではなく、カレーなどのスパイスに使われるガツンとくる辛味である。
これが口の中にねっとりとしつこいくらいに残っていたコクを、この辛味が一気に洗い流してくれる。
辛味もまたこちらの舌を絡めとろうと掴んで離さまいとするのだが、さらにその先を読んでいたのか、不思議と臭みも何も無い、まさに水のようなさらさらの血液や髄液が辛味の手をそっと引き離す。
後に残るのはゴブリンの頭を腹に収めたという満腹感のみ。
今までの連続した味の攻撃が嘘か真か一瞬判断を迷うほどにあっさりとした後味である。
今感じていた味の連撃は幻想だったのかと思うほどに。
体はピリ辛お肉に骨のバキバキ感を混ぜ合わせましたという感じでこっちはサラダのような感じでサクサク食べ進めることが出来る。
なかなか美味な種族といえよう。
じゅるり。
・・・はっ。
危うくその辺を歩くゴブリンを捕食してしまいそうになった。
危ない危ない。
今日は彼らと仲良くコミュニケーションを取ろうとしたのだ。
せっかくの筋トレが無駄になるところ。
おほん。
気を取り直して、まずはやさしそうなゴブリンに話しかけてみようではないか。
周りを見渡した。
「・・・。」
もう一度見渡す。
「・・・あれ?」
さらにもう一度、目を凝らして良く見渡す。
「・・・皆おんなじ顔に見えるや。てへ。」
みっごとに見分けが付かなかった。
そらそうである。
タコならばともかく‐‐いや、タコも怪しいのだが、とにかくタコの見分けも出来ない僕にゴブリンの見分けなんて出来るわけがない。
一体、何を持って優しそうなゴブリンだと判断するのだろうか?
ちょっとそこのゴブリンに聞いてみようか?
でもこのゴブリンがもし怖そうなゴブリンだった場合、「怖い顔をした俺に対するあてつけか?ああん?」と喧嘩を売ってると勘違いされてしまうかもしれない。
なんということだ。
八方塞ではないか!!
さきほども言ったとおり、僕はここにコミュニケーションを取りに来たのである。
もっと見もふたもない言い方をするならば寂しさを紛らわしにきたのである。
決して喧嘩を売りに来たのではない。
というか、そもそもそこまで高度な会話をグアオ(挨拶)、グエロ(はい)、ググオア(いいえ)、グウア(おう、はい、という返事。)でしろとは何たる無茶振りか。かなり難しいといわざるを得ない。
というか不可能なんじゃないだろうか?
いや、こんなときこそ安心安全設計(?)の適当(エキサイト)翻訳の出番である。
ビビッていては何も始まらない。
相互理解の最初の一歩は言語の理解よりもまず先に『お互いが歩み寄ること』なのだ。
お、今すごい良いこと言ったんじゃないだろうか?
とにかく覚悟を決めてとりあえず何か話しかけようとしたところで。
「グアああああああああああああああああアアオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
大きな雄たけびが聞こえた。
そして鳴り響くのは木と木をぶつけ合うカンカンという音。
えっ!?
僕、まだ何もしてませんよ!?
そして周りのゴブリン達は村の出口へと急いで向かっていった。
メスらしきゴブリン達や子供ゴブリン達は家屋に閉じこもる。
一瞬取り残されたが、何はともあれ行動を同じにしなければここから追い出されてしまいかねない。
いや、僕一人に注意を向けていられるほど余裕のある様子ではないのだが。
家屋に入るのは論外。であるならば他のゴブリン達が向かったところへ行こうといってみるとそこには‐‐
「ひゃっはーーーっ!!」
「ファイアーボールっ!!」
「皆殺しよっ!!」
人間達がゴブリン達を虐殺していた。
元日本人としてはあんなにおいしいゴブリンを無駄に殺しやがってという勿体無い精神による怒りが湧いてきたが、何度も言うようにここは弱肉強食の世界。
ゴブリンが殺されてしまうのはしかたないことだ。
だが、こうまで一方的に蹂躙されているのを見るとさすがに可愛そうになってくる。
一人、双剣を持つ男は次々とゴブリンを切り裂き殺し、積極的に自らゴブリンの懐へもぐりこむ。
もう一人は炎の玉を打ちまくる馬鹿。
森に発火したらどうするのだろう?
少なくともここは高温多湿な地域なので炎は燃え移りづらいとは思うのだがそれでもハラハラする。
ここの森が焼畑よろしく焼き尽くされたら僕は一体どこへ行けばいいというのか。
まだすべての動物を食べたわけではないというのに。
最後の一人は女性で、大剣をぶんまわしている。
他二人に比べて鈍重だが、そのリーチと仲間との連携で上手く隙を消している。
なんて苛烈な三人組か。
ゴブリン式指標レベルで言えばちょっと前にいたメイソンたちよりだいぶ高い。
15ぐらい?
ゴブリン涙目である。
一人ひとりがゴブリンの15倍は強い戦士達。
僕だったら一目散に逃げてる。
が、どうやらゴブリン達は逃げれない理由があるようで。
人間達と何事かを言い争っている。
お互い怒鳴りあってるようにしか見えない。
言葉が通じてるのか通じてないのか判断に困る光景である。
と、のんびり観戦してると炎の玉がこちらに向かってきた。
反射的に身をかがめてよける。
野生のタコとして生きてきた僕に油断の二文字は無い。
観戦しながらも警戒レベルは最大に維持している。
「へぇ・・・ちょっとはやるみたいですね。」
めがねをかけて、いかにもな魔法職の男の人がそんな感じのことを言った。
適当(エキサイト)翻訳ばんざい。
多分間違ってない。
「いつまで避けれるか見ものですよ・・・ニヤリ。」
ニヤリは口に出してないけど、そんな感じの笑みを浮かべたので訳してみた。
そして撃ってくる炎の玉。
だが、これちょっと思ったんだけれど・・・
「なっ!?」
風の刃で軌道をずらせばなんのことは無い。
ぶつけて相殺する必要すら無い。
ていうか彼は馬鹿だろうか?
結構距離があるにもかかわらず直線的な軌道しか描けない炎の玉を撃ってくるなんて。
基本は戦士職に気を引いてもらってから撃つのが当たり前だろうに。
これならまだ羽ウサギのほうが手ごわい。
たかがゴブリンだと思って舐めていたのだろう。
ふっ、油断とは未熟なやつめ。
そして僕は僕でどうするかを考えていた。
人間を殺す、のは思ったより忌避感は無い。
野生の生活を舐めるなって話である。命のやりとりなんざ、とうの昔に済ましてあるし、人間が死んだところだって見たのは初めてではない。
次に考えるのはメリットデメリット。
まず相手の強さを考えてみた。
生き残るためには相手の強さを推し量るのが第一。
強ければ即逃げる。
弱ければ食べる。
今はまだ他の二人が他ゴブリンにかかりきり。確実にしとめることが出来るだろう。
そしてしとめた場合のことについて考える。
・・・人間って美味しいのかな?
・・・じゅるり。
はっ。
いやいや待て待て。
さすがにそれはまだ早いだろう。
いつかそういった価値観を捨て去るときも来るかもしれないけど、さすがにまだやめておこうっ!!
・・・でも腕の一本くらいの味見は・・・
はっ。
いやいやまてまてっ!!
いや、でも・・・単純に知的好奇心という意味でも食べてみたい。
どうしよう?
あと考えられるリアクションはゴブリン達に感謝される?
そうすればコミュニケーションが格段に取りやすくなるかもしれない。
逆にデメリットを考える。
人間は群れる生き物である。
彼らがどういう経緯で何の目的でもってここに来たのかは不明。
森の外の近くには町があることは知っている。
もしこれがゴブリンが増えすぎないように定期的に駆除するという意図であるとここで彼らを殺すのはまずい。
より大人数で殺しに来るかもしれない。
それが一番困る。
いまだ魔法のこともよく分からないし、一応目の前のめがねの男だってもしかしたら奥の手を隠しているかも。
これが単純にゴブリンを狩るという一瞬の猟的な趣味であるならば良いし、個人個人の何らかの目的での範囲内ならば良い。
さて、どうしたものか。
殺す、というならば確実に三人とも殺しておきたい。
僕の情報が知れ渡って討伐隊でも出されてはかなわない。
・・・ううむ、どうしたものか。
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