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Ⅲ章 ヘスペリオス洞穴
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「というわけで。」
これだけ言えばなんとかこうにか誤解だというのは分かってもらえただろう。
「お、恩人とは露知らず、申し訳ない。」
お父さんが謝ってきた。
いや、こちらも悪かったとは思うし、そもそもこっちの勝手な恩の押し売りなのでその点で開き直られなくて良かった。
しかし娘さんのほうのホリィちゃんは憮然としている。
あの顔はにやにやしながら胸を揉んだくせにという顔だ。
実に面倒かつ、失敬極まりないリアクションであるが、それも致し方ない。
僕だって逆の立場ならそう思う。
「それじゃ、言伝おねがいします。」
「はい。それならもう。」
こうして話はまとまったかのように思えた。
しかし。
「待って。お父さん。これっておかしくない?」
「何がだ?」
「だって、今までここには誰も居なかったんだよ?
そもそもどうしてこんなところに人が住んでるのさっ!!」
うぐ。
確かにごもっともである。
だが、酒を飲んだり、女性とチョメチョメしたりすることの無い僕としては街で得るものは少なく、それこそ食器や家具などのものぐらいしか要らない。
それも一度手に入れればいいものだし、そもそもこの森で机なども手作りで仕上げてしまっている。
もとい街で住む理由が無いのだ。
人型でいるのも肩が凝るし、ご飯は森で自給自足で十分。
タコが人の街で恒久的に暮らすというのはちょっとメリットとデメリットのバランスが悪い。
人恋しさもグリューネという友人がいるわけで解消されている。
さて、どうごまかそうか。
「普通だったら魔物に襲われてるのに、あの家にいるとまったくもって襲われれないし・・・不可解な点が多すぎだよっ!!
もしかしたら・・・あなた・・・」
「・・・ごくり。」
まさかばれたの?
「竜人・・・なの?」
「・・・は?」
「普通の人間じゃこんなところに住むなんて考えられないし・・・かといって森に単独で住む亜人はそんなに多くないって聞く。
その中でも人と変わらない見た目を持つのは竜人だって聞いたことあるもんっ!!」
そうなのかー。
僕もどうせならタコよりもそういうかっこいい生物に生まれたかったな。
「いや、ぜんぜん違う。
普通の人間さ。獣が寄り付かないのはこの辺の獣が僕の強さが分かってるから。
こんな辺鄙なところに住んでるのはただの変人ってだけの話。
冒険者が来たときにここが空き家だったのはご飯になる獣を狩りに行くのが大体の日々の時間の過ごし方だから。
納得してもらえた?」
「・・・貴方みたいな年端もいかない女の子がこんな場所に一人で?」
「そうだよ。年端もいかない女の子が一人、とは違うけれど二人で過ごしてる。」
グリューネを忘れてくれるな。
まぁ彼女はれっきとした亜人・・・というのか妖精とも言うべきか、ともかく二人で過ごしている。僕自身はそもそも人にカテゴライズされるべきなのか?
まぁどうでもいいことだが。
怪訝そうな目でこちらを見るホリィ。
そんなホリィを尻目にそろそろ潮時だろうと判断したのかお父さん、もといバークさんが口を開く。
「それじゃこれで、私達は失礼します。」
ちゃんと彼らがこの家には所有者がいるということを広めてくれることを信じて。
そう、その結果は数日後。
面倒くさい形で現れたのだった。
☆ ☆ ☆
王都パクティアラ
「じいやっ!
じいやはおるか!?」
タコが住む森、豊饒の森は王国パルティオンに存在し、そのパルティオンの王都パクティアラ、そこのとある公爵家の屋敷にて怒鳴り声を上げる少女がいた。
その少女は夜を思わせるほどの腰ほどまでにある漆黒の髪をたゆませながら言い放つ。
年のころは18ほど。
身長は170センチほどと日本人女性平均身長よりは高めの身長で、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるという体型に、言わずもがな傾国の美女と呼べるほどの美貌を持っていた。
「何用でごじゃりますか?
お嬢様。」
「あいかわらずのへんちくりんな言葉遣いだな、じいや。直せと言うに。」
「これは最早呪いの様なものでごじゃりまして。直すのはいささか以上に難しいのでごじゃります。」
「ああ、分かっているとも。
それはともかくだ。
私は豊饒の森とやらに出かけてくる。」
「豊穣の森、ですか?何処の場かは存じませぬが、旦那様がお許しになられぇるでしょうか?」
「こっそり出て行けば問題あるまい。」
「・・・私と致しましては反対させていただきたくごじゃります。」
「やかましい。公爵家、時期跡取りの私が言っているのだ。
黙って荷造りせよ。」
この言葉にじいやは嘆息する。
彼は妖精族と呼ばれる種族のうちでおそらく最長年齢、もとい軽く1000歳を越え、帝国パルティオンとはこの国が建国されて以来の付き合いだ。
そのうちの公爵家、当時の初代帝国パルティオン皇帝の実妹の面倒を頼まれ、以来この国に仕えている、もっと正確に言えば親友であった皇帝の実妹の子孫である公爵家にずっと仕えている妖精族。
それがじいやである。
そのじいやの最近の悩みがコレであり、公爵家の次女の扱いだ。
彼女、エンデリア・パルティオン・シャスティナーゼは典型的な我侭箱入り娘で、日夜じいやも苦労させられていた。
今代のシャスティナーゼ公は治世面では非常に優れていながら、その才は子育て方面には一切が無く、結果エンデリアは非常に我侭かつ高慢ちきな、いわゆる鼻持ちなら無い貴族となってしまった。
本来ならば自身が叱ってやりたいものなのだが、自身の仕える上での美学「猛進」(妄信とかかっており、家臣はただ主人を妄信して猛進すればよいという考え方)が邪魔をして躊躇をしている間に筋金入りの高慢ちきとなっていたわけである。
今思えば、ここ1000年で一番の大きなミスがこれだったのかもしれない。
そう後悔せしめるほどにじいやはエンデリアに対する思いを強くしていた。
「・・・私のよくない癖でごじゃりますね。」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も。」
美学。
彼にとって何をするにでも美学を定め、それを守ろうとする。
これは彼の幼い頃からの良き点であり、悪い点でもあった。
別に美学自体がすきというわけではなく、美学を作り、それを守ろうとする姿勢や過程自体に喜悦を感じるところから彼がある種の変態、もしくはお馬鹿さんであることが分かる。
しかし1000年以上のこの癖はそれこそまさに彼女以上の筋金入りの悪癖だ。
じいやは今更ながらに何百回目か分からない自問をした後、エンデリアに向きなおる。
「せめて理由だけはお聞かせ願えるのでごじゃりましょうな?」
「うむ。
最近、父上がそろそろ身を固めろ、などと言い出したからな。
いやだと言ったのだ。
そうしたら父上が何もできないくせに粋がるなという旨の言葉を言ったから・・・」
「ほうそれは彼にしては頑張りましたね。」
とはいえ、あの馬鹿親のこと。
きっとエンデリアに嫌われたくないために回りくどく、語気もあまり強くないのだろうとあたりをつけるじいや。
「売り言葉に買い言葉でヘスペリオス洞穴に巣食うリグレットホースを狩りに行くと言い放ったのだよ。」
「・・・は?」
さすがにわが耳を疑ったじいや。
私もそろそろ年だろうか?
そう思うほどに彼女の言葉は大仰だった。
リグレットホースとは真っ白い体に退化した目。
光の存在しない奥深い洞穴に住むとされる馬のことで、大きさはただの馬。
しかしあらゆる魔法のエキスパートであり、ろくに近づけず、一匹で100人の兵隊をなぎ倒すことのできるほどの高位魔獣である。
そして人間と同等の知恵でもって、巧みに魔法を使ってくる。
何よりもこれが厄介で、挑んだ冒険者のほとんどが後悔のうちに死んでいく。
そのことからリグレットの名が付けられた。
当然、その辺の剣のいろはも知らない女性が殺せるほどやわな相手ではない。
エンデリアは当然剣の扱いなど知らない。
口先だけの貴族なのだから。
「ヘスペリオス洞穴・・・というと、はじまりの森の奥地にあるといわれるあの場所ですか?」
「そうとも。ああ、それと今は『はじまりの森』ではなく、豊穣の森と呼ばれるらしいぞ。」
「正気でごじゃりますか?」
「狂ったように見えるか?」
「馬鹿には見えます。」
「なんだって!?」
「いえ、なんでもありません。」
さすがにあの馬鹿親も止めるだろう、とじいやは気にしていなかったものの・・・
「よし、いこうではないか。じいや。」
「・・・あのクソ馬鹿めが。娘を殺したいのか。」
ついつい悪態が出るほどにあっけなく、簡単に彼女のリグレットホース討伐は承認されてしまった。親ばかではない。
ばか親だ。ばか親極まりない。
ただその代わりに近衛兵をつけることを約束させられて。
だが、リグレットホースはそう甘い相手ではない。
たとえ習熟した兵士とは言えどリグレットホースを相手にするには最低でも200は欲しいくらいだ。
それほどにリグレットホースは強い。
エンデリアの父もまたある種の箱入り坊ちゃんでリグレットホースのことを知らないというのもまた大きかった。
現在ではリグレットホースはめったに見つからず、妖精族のような長命族でもなければ冒険者とて知っている人間は少ないだろう。
当然危険性は唱えたのだが、じいやの意見は跳ね除けられた。
「・・・まったく阿呆めが。」
「どうした、じいや。」
「なんでもごじゃいません。」
自身の定めた美学は猛進であり妄信。
そうするべきか考え、止めるのは実際にヘスペリオス洞穴にいるかどうかを確認してからでもかまわないだろうとため息を吐きながらも考えた。
何も必ずもいるわけではない。
リグレットホースはその強さのせいか、短命で、縄張り意識が強く、気性が荒い。かなり大きな洞穴に一匹いるかどうかというレベル。
どこからリグレットホースがいるということを聞いたのかは知らないが、おそらく信憑性は低いだろうと考えていた。
ヘスペリオス洞穴とやらが規模の小さい洞であることを願い、彼はしぶしぶと彼女についていくのだった。
「あ、そうそう。
もうひとつ面白い話があったのだ。というよりもこちらが本来の目的なのだがな。」
「?」
本来の目的?
首をかしげるじいや。
「ヘスペリオス洞穴に行くには豊饒の森を通らねばならぬのだが、どうもそこには絶世の美少女が一人で暮らしているらしい。」
当然、タコのことであるが絶世とは多少大げさかもしれない。
確かに美少女のような見た目であることはあるのだが。
「興味が湧かぬか?
魔獣が闊歩するであろう森に年端もいかぬらしい少女が一人。
一体どういう経緯でそのような暮らしをするに至ったのか。興味がある。
何よりも美少女だというのが良い。」
「お嬢様、なりましぇぬぞ。」
「ここでは好き勝手できぬが、森に住む少女の一人二人。いなくなったところで騒ぎにはなるまい?」
エンデリア。
彼女はレズビアンだった。
「守るべき領民に手を出すのは為政者としての恥でごじゃりますぞ。」
「ならば金を積もうではないか。金を積み、お互いの合意の下であるならば問題なかろう。
なによりもこの私に抱かれるのだ。光栄に思い、それだけで達してしまうかも知れぬな。」
「・・・はぁ。」
この馬鹿娘は一体いつになれば改心してくれるのか。
少女とやらがどのような子かは分からないが、彼女の毒牙にかからないよう、そのときばかりは美学を曲げよう。
そう決めるじいやだった。
「・・・念のため聞いておきますが、奴隷などを買っておりましぇぬか?」
「残念ながらな。そう都合よく可愛い少女がいるわけもなし。何よりも父上が許してくれぬ。が、さすがの父上の目も森までは届くまい?
だから私も初体験ということになるな。
ふふふ。さぞかし喜ぶであろうな、その少女は。
私の初をもらえ、なおかつ気持ちがよいのだから。」
再度ため息をはくじいや。
なおのこと自身がその少女を守り、今後はエンデリアが暴走しないように見張る必要もありそうだと判断したのだった。
「前途多難でごじゃるな。」
「む?
何か言ったか?」
「なんでもごじゃりません。」
これだけ言えばなんとかこうにか誤解だというのは分かってもらえただろう。
「お、恩人とは露知らず、申し訳ない。」
お父さんが謝ってきた。
いや、こちらも悪かったとは思うし、そもそもこっちの勝手な恩の押し売りなのでその点で開き直られなくて良かった。
しかし娘さんのほうのホリィちゃんは憮然としている。
あの顔はにやにやしながら胸を揉んだくせにという顔だ。
実に面倒かつ、失敬極まりないリアクションであるが、それも致し方ない。
僕だって逆の立場ならそう思う。
「それじゃ、言伝おねがいします。」
「はい。それならもう。」
こうして話はまとまったかのように思えた。
しかし。
「待って。お父さん。これっておかしくない?」
「何がだ?」
「だって、今までここには誰も居なかったんだよ?
そもそもどうしてこんなところに人が住んでるのさっ!!」
うぐ。
確かにごもっともである。
だが、酒を飲んだり、女性とチョメチョメしたりすることの無い僕としては街で得るものは少なく、それこそ食器や家具などのものぐらいしか要らない。
それも一度手に入れればいいものだし、そもそもこの森で机なども手作りで仕上げてしまっている。
もとい街で住む理由が無いのだ。
人型でいるのも肩が凝るし、ご飯は森で自給自足で十分。
タコが人の街で恒久的に暮らすというのはちょっとメリットとデメリットのバランスが悪い。
人恋しさもグリューネという友人がいるわけで解消されている。
さて、どうごまかそうか。
「普通だったら魔物に襲われてるのに、あの家にいるとまったくもって襲われれないし・・・不可解な点が多すぎだよっ!!
もしかしたら・・・あなた・・・」
「・・・ごくり。」
まさかばれたの?
「竜人・・・なの?」
「・・・は?」
「普通の人間じゃこんなところに住むなんて考えられないし・・・かといって森に単独で住む亜人はそんなに多くないって聞く。
その中でも人と変わらない見た目を持つのは竜人だって聞いたことあるもんっ!!」
そうなのかー。
僕もどうせならタコよりもそういうかっこいい生物に生まれたかったな。
「いや、ぜんぜん違う。
普通の人間さ。獣が寄り付かないのはこの辺の獣が僕の強さが分かってるから。
こんな辺鄙なところに住んでるのはただの変人ってだけの話。
冒険者が来たときにここが空き家だったのはご飯になる獣を狩りに行くのが大体の日々の時間の過ごし方だから。
納得してもらえた?」
「・・・貴方みたいな年端もいかない女の子がこんな場所に一人で?」
「そうだよ。年端もいかない女の子が一人、とは違うけれど二人で過ごしてる。」
グリューネを忘れてくれるな。
まぁ彼女はれっきとした亜人・・・というのか妖精とも言うべきか、ともかく二人で過ごしている。僕自身はそもそも人にカテゴライズされるべきなのか?
まぁどうでもいいことだが。
怪訝そうな目でこちらを見るホリィ。
そんなホリィを尻目にそろそろ潮時だろうと判断したのかお父さん、もといバークさんが口を開く。
「それじゃこれで、私達は失礼します。」
ちゃんと彼らがこの家には所有者がいるということを広めてくれることを信じて。
そう、その結果は数日後。
面倒くさい形で現れたのだった。
☆ ☆ ☆
王都パクティアラ
「じいやっ!
じいやはおるか!?」
タコが住む森、豊饒の森は王国パルティオンに存在し、そのパルティオンの王都パクティアラ、そこのとある公爵家の屋敷にて怒鳴り声を上げる少女がいた。
その少女は夜を思わせるほどの腰ほどまでにある漆黒の髪をたゆませながら言い放つ。
年のころは18ほど。
身長は170センチほどと日本人女性平均身長よりは高めの身長で、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるという体型に、言わずもがな傾国の美女と呼べるほどの美貌を持っていた。
「何用でごじゃりますか?
お嬢様。」
「あいかわらずのへんちくりんな言葉遣いだな、じいや。直せと言うに。」
「これは最早呪いの様なものでごじゃりまして。直すのはいささか以上に難しいのでごじゃります。」
「ああ、分かっているとも。
それはともかくだ。
私は豊饒の森とやらに出かけてくる。」
「豊穣の森、ですか?何処の場かは存じませぬが、旦那様がお許しになられぇるでしょうか?」
「こっそり出て行けば問題あるまい。」
「・・・私と致しましては反対させていただきたくごじゃります。」
「やかましい。公爵家、時期跡取りの私が言っているのだ。
黙って荷造りせよ。」
この言葉にじいやは嘆息する。
彼は妖精族と呼ばれる種族のうちでおそらく最長年齢、もとい軽く1000歳を越え、帝国パルティオンとはこの国が建国されて以来の付き合いだ。
そのうちの公爵家、当時の初代帝国パルティオン皇帝の実妹の面倒を頼まれ、以来この国に仕えている、もっと正確に言えば親友であった皇帝の実妹の子孫である公爵家にずっと仕えている妖精族。
それがじいやである。
そのじいやの最近の悩みがコレであり、公爵家の次女の扱いだ。
彼女、エンデリア・パルティオン・シャスティナーゼは典型的な我侭箱入り娘で、日夜じいやも苦労させられていた。
今代のシャスティナーゼ公は治世面では非常に優れていながら、その才は子育て方面には一切が無く、結果エンデリアは非常に我侭かつ高慢ちきな、いわゆる鼻持ちなら無い貴族となってしまった。
本来ならば自身が叱ってやりたいものなのだが、自身の仕える上での美学「猛進」(妄信とかかっており、家臣はただ主人を妄信して猛進すればよいという考え方)が邪魔をして躊躇をしている間に筋金入りの高慢ちきとなっていたわけである。
今思えば、ここ1000年で一番の大きなミスがこれだったのかもしれない。
そう後悔せしめるほどにじいやはエンデリアに対する思いを強くしていた。
「・・・私のよくない癖でごじゃりますね。」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も。」
美学。
彼にとって何をするにでも美学を定め、それを守ろうとする。
これは彼の幼い頃からの良き点であり、悪い点でもあった。
別に美学自体がすきというわけではなく、美学を作り、それを守ろうとする姿勢や過程自体に喜悦を感じるところから彼がある種の変態、もしくはお馬鹿さんであることが分かる。
しかし1000年以上のこの癖はそれこそまさに彼女以上の筋金入りの悪癖だ。
じいやは今更ながらに何百回目か分からない自問をした後、エンデリアに向きなおる。
「せめて理由だけはお聞かせ願えるのでごじゃりましょうな?」
「うむ。
最近、父上がそろそろ身を固めろ、などと言い出したからな。
いやだと言ったのだ。
そうしたら父上が何もできないくせに粋がるなという旨の言葉を言ったから・・・」
「ほうそれは彼にしては頑張りましたね。」
とはいえ、あの馬鹿親のこと。
きっとエンデリアに嫌われたくないために回りくどく、語気もあまり強くないのだろうとあたりをつけるじいや。
「売り言葉に買い言葉でヘスペリオス洞穴に巣食うリグレットホースを狩りに行くと言い放ったのだよ。」
「・・・は?」
さすがにわが耳を疑ったじいや。
私もそろそろ年だろうか?
そう思うほどに彼女の言葉は大仰だった。
リグレットホースとは真っ白い体に退化した目。
光の存在しない奥深い洞穴に住むとされる馬のことで、大きさはただの馬。
しかしあらゆる魔法のエキスパートであり、ろくに近づけず、一匹で100人の兵隊をなぎ倒すことのできるほどの高位魔獣である。
そして人間と同等の知恵でもって、巧みに魔法を使ってくる。
何よりもこれが厄介で、挑んだ冒険者のほとんどが後悔のうちに死んでいく。
そのことからリグレットの名が付けられた。
当然、その辺の剣のいろはも知らない女性が殺せるほどやわな相手ではない。
エンデリアは当然剣の扱いなど知らない。
口先だけの貴族なのだから。
「ヘスペリオス洞穴・・・というと、はじまりの森の奥地にあるといわれるあの場所ですか?」
「そうとも。ああ、それと今は『はじまりの森』ではなく、豊穣の森と呼ばれるらしいぞ。」
「正気でごじゃりますか?」
「狂ったように見えるか?」
「馬鹿には見えます。」
「なんだって!?」
「いえ、なんでもありません。」
さすがにあの馬鹿親も止めるだろう、とじいやは気にしていなかったものの・・・
「よし、いこうではないか。じいや。」
「・・・あのクソ馬鹿めが。娘を殺したいのか。」
ついつい悪態が出るほどにあっけなく、簡単に彼女のリグレットホース討伐は承認されてしまった。親ばかではない。
ばか親だ。ばか親極まりない。
ただその代わりに近衛兵をつけることを約束させられて。
だが、リグレットホースはそう甘い相手ではない。
たとえ習熟した兵士とは言えどリグレットホースを相手にするには最低でも200は欲しいくらいだ。
それほどにリグレットホースは強い。
エンデリアの父もまたある種の箱入り坊ちゃんでリグレットホースのことを知らないというのもまた大きかった。
現在ではリグレットホースはめったに見つからず、妖精族のような長命族でもなければ冒険者とて知っている人間は少ないだろう。
当然危険性は唱えたのだが、じいやの意見は跳ね除けられた。
「・・・まったく阿呆めが。」
「どうした、じいや。」
「なんでもごじゃいません。」
自身の定めた美学は猛進であり妄信。
そうするべきか考え、止めるのは実際にヘスペリオス洞穴にいるかどうかを確認してからでもかまわないだろうとため息を吐きながらも考えた。
何も必ずもいるわけではない。
リグレットホースはその強さのせいか、短命で、縄張り意識が強く、気性が荒い。かなり大きな洞穴に一匹いるかどうかというレベル。
どこからリグレットホースがいるということを聞いたのかは知らないが、おそらく信憑性は低いだろうと考えていた。
ヘスペリオス洞穴とやらが規模の小さい洞であることを願い、彼はしぶしぶと彼女についていくのだった。
「あ、そうそう。
もうひとつ面白い話があったのだ。というよりもこちらが本来の目的なのだがな。」
「?」
本来の目的?
首をかしげるじいや。
「ヘスペリオス洞穴に行くには豊饒の森を通らねばならぬのだが、どうもそこには絶世の美少女が一人で暮らしているらしい。」
当然、タコのことであるが絶世とは多少大げさかもしれない。
確かに美少女のような見た目であることはあるのだが。
「興味が湧かぬか?
魔獣が闊歩するであろう森に年端もいかぬらしい少女が一人。
一体どういう経緯でそのような暮らしをするに至ったのか。興味がある。
何よりも美少女だというのが良い。」
「お嬢様、なりましぇぬぞ。」
「ここでは好き勝手できぬが、森に住む少女の一人二人。いなくなったところで騒ぎにはなるまい?」
エンデリア。
彼女はレズビアンだった。
「守るべき領民に手を出すのは為政者としての恥でごじゃりますぞ。」
「ならば金を積もうではないか。金を積み、お互いの合意の下であるならば問題なかろう。
なによりもこの私に抱かれるのだ。光栄に思い、それだけで達してしまうかも知れぬな。」
「・・・はぁ。」
この馬鹿娘は一体いつになれば改心してくれるのか。
少女とやらがどのような子かは分からないが、彼女の毒牙にかからないよう、そのときばかりは美学を曲げよう。
そう決めるじいやだった。
「・・・念のため聞いておきますが、奴隷などを買っておりましぇぬか?」
「残念ながらな。そう都合よく可愛い少女がいるわけもなし。何よりも父上が許してくれぬ。が、さすがの父上の目も森までは届くまい?
だから私も初体験ということになるな。
ふふふ。さぞかし喜ぶであろうな、その少女は。
私の初をもらえ、なおかつ気持ちがよいのだから。」
再度ため息をはくじいや。
なおのこと自身がその少女を守り、今後はエンデリアが暴走しないように見張る必要もありそうだと判断したのだった。
「前途多難でごじゃるな。」
「む?
何か言ったか?」
「なんでもごじゃりません。」
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