タコのグルメ日記

百合之花

文字の大きさ
54 / 59
Ⅵ章 ポリプス騎士街

49

しおりを挟む
「ぐず・・・」
「ご、ごめんなさい。」

僕が謝ると彼女はこちらをじとっと見つめて、

「・・・もう無視しない?」
「しません。」
「な、なら許してあげる。」

目を潤ませながら許してくれたティキ少女。

「・・・こほん。
私はティキ、このスラム街の影の支配人さ。」
「え、そこから?」

と、つっこむと。

「・・・。」

目を潤ませながらこちらをにらむティキ。
・・・うん、まぁ聞きましょう。

で、彼女のその後の話をまとめるとこうなる。
このスラム街にポッと出てきた僕が表のボス的な奴、アガータとやらをぶちのめした僕に興味を抱き、彼女は僕に会いに来たという。
ちなみにアガータとやらが誰かと聞くと僕の現在の住処に元々すんでいた禿頭の巨漢である。ちなみに顔は普通の――蛸人にとっての普通なので蛸の顔であるが――顔だったのだが、どうも頭に付いてる触腕の数が少ないということで親に捨てられたアガータ君5歳。
5歳であのふけ具合か。などと今はもうかすれきって思い出せない彼の顔を思い出す努力をしようとして、どうせタコの顔だし見分けができないことに気づいた。思い出す努力を早々に放棄し、とりあえず彼女が何者なのかを詳しく聞いてみる。

すると私は選ばれた人類なのだとかなんとか痛いことを言い出したのでそのへんは適当に流しつつ、とりあえず彼女は今のスラム街区をちゃんとした区にしたいという野望を持っているらしい。
ちゃんとした区。もとい治安の良い、落ちこぼれやワケアリどもの巣窟としてではなく普通の街の人たちが暮らす平和な場所に変えたいということ。

でもってそのためには力が必要だと悟ったらしいのだ。
最初こそ話して回ったがもちろんのことろくな教育を受けずに、産まれてすぐ、ないしはここで性根を廃れさせた彼らにスラム街区をどうにかしようとか、このままじゃ駄目だとかそういう発想も気力も無い。
だったら力でなんとか正して、最初は無理やりでいびつでも一度平和な町並みを理解し、経験すればその平和を守るために尽力するだろうと彼女は考えたのだった。

「なんでそこまでして・・・?」

正直彼女みたいな子供がどうこうするには大きすぎる問題だ。

「・・・それはね。私を育ててくれた人が――」

話が長くなったので割愛。
ハートフルで泣ける話だったとだけ言っておこう。
まとめて一言で言ってしまえば今は居ない育ての親の夢をかなえたいとのことだ。
その夢がスラム街から不幸な人たちをなくすこと。

「だから私に協力してっ!貴方だって住むところがよくなるのは嬉しいでしょ!?」
「だが断る。」
「っなんでっ!?」

ぶっちゃけちょっとしたら出て行くつもりなので、そんな面倒なことをしてる時間はあまりないし、やまいたちのその後をとっととしりたいというのもある。
確かに立派だとは思うが、年単位の時間がかかるであろうことは予想できる。
そもそも―

「ここに望んできた人はどうなるのさ?」
「・・・?そんなひと居るわけ無いじゃない。」
「・・・それすら分かってないのか。なおさら話になりません。」

望んでとはちょっと違うが、この街になじめずスラム街に逃げてきたという人もいるだろう。
犯罪者が逃げ込む先でもあるかもしれない。それに僕のように捨てられた子供はこのスラム街が世界である。
今まで犯罪行為を当たり前のようにしていた人間が平和な町並みに適応するには相当の手間と時間がかかるだろう。
力で押さえつける。というのにも限界はある。
彼女の言葉はただの夢物語でしかないのだ。
不可能とは言うまい。が、非常に困難であることは間違いは無い。
それを分かってでも挑戦するのは構わない。それを踏まえた動きをするだろうし覚悟を持っているからだ。
しかし、それを分かっていない目の前の子供は――

「夢物語はほどほどにね。」
「え、ちょっ、ちょっと・・・」

さすがに付き合えないです。
お詫びがてら話だけでもと思っていたのだが、とてもじゃないけど僕には無理だった。

「ていうか、地図は結局読めないの?」
「へ?」
「・・・とりあえずそれ返してくれないかな。」

あれだな。ここで読んでもらって借りを作ってしまうとちょっとまずいかもしれない。
いや、そんなもん知るかぁ!って感じで無視してしまえばいい話なのだが、さすがに気が咎めるわけで、そもそもスラム街の子供に文字が読めるわけが―――

「地図?
これ、地図なの?そんなわけないじゃない。地図はかなり厳重に保管され――・・・え?うん?
あれ?」
「どうしたのさ?」
「・・・これ、地図?」
「だからそう言ってるじゃないか。」

唐突に冷や汗を流し始めた彼女。

「ぽ、ぽ・・・」
「ぽ?」
「ぽんぽん痛い。ぽんぽん痛いよう。」

お腹を抑え始めた。
わけがわからないよ。
一体地図のひとつふたつで何を大騒ぎしているかまったくもって意味不明である。キリッ!
だったら良かったんだけども。
や、やっぱりまずかったりするのかなぁと思いつつも詳しく聞いてみようとしたところで。

「ここにいたか。」
「た、隊長っ!」
「全隊、警戒態勢。しかしむやみに威圧する必要はない。戦闘行為へスムーズに移行できるように準備だけをしておけ。」
「はっ!!」

「「はっ?」」


唐突にやってきた騎士然とした集団に囲まれた僕たちであった。


☆ ☆ ☆

「あわわわわ、やばい、やばい・・・やばいわ・・・」
「どうかしたのですか?顧問軍師、アンリエッタ殿。」
「え、あ、あら騎士団長っ!
き、奇遇ね!!」
「騎士団長?」
「あ、いえっ!
下賎なる脳筋、スバル畜生。こんなところになんのようなのかしらっ!?」

ここはポリプス騎士街、騎士団本部、東棟3F。
訓練所前である。

そこにいるのは二人のタコ頭の人間。
片方はアンリエッタと呼ばれたスタイル抜群の美女。
妙齢の美女といっていい美貌(タコ頭であるが、タコ的には美人である)を持ちながらも、その中身は完全な選民思想にとらわれており、貴族以外畜生同然という尖った思想を持つポリプス騎士団における軍師の立ち位置にいる、エリートである。
顧問と名がついているのは騎士団全体を顧問する、いわば最高権力者に近い。
性格に難あれど、貴族以外を見下しているということ以外では非常にまとも、どころか、軍師としての力量は世界トップクラスと称えられるほどである。
当然ながら私情と軍務を分けて考えることもできるので、会うたび会うたびの口の悪さにさえ目を瞑れば、良い上司といえよう。
実害といえば悪口を受けるという程度で、見返りは彼女の下で戦っていれば普通は死ぬ戦いでも生きて帰れる可能性が格段にあがるというもの。
その性格の悪さに反比例するかのように彼女の部下でありたがる騎士は多い。

その彼女がたとえ騎士団長といえども自身よりも立場の低いスバル騎士団長を、役職で呼ぶというのは通常ありえないことであった。
しばらく前にあった人間対亜人、もとい隣国パルティオンと帝国ライフィリア帝国との戦争時には10倍の戦力を目の前にした状況であろうともその口の悪さだけはなりを潜めなかったほどなのだ。
どんなことがあろうとも自身よりも下の立場の者を敬称で呼ぶことなどおおよそありえなかった彼女がスバルを役職で、もとい敬称で呼ぶ。
それを聞いて怪訝な表情をするスバル。

「スバル畜生。私はこれから用事があるので、これで失礼するわ。」

さんづけの代わりに名のあとに畜生をつけながら彼女はスバルの前を去っていく。

「はっ!」

敬礼で彼女を見送り、一人の男を呼ぶ出すスバル。
するとどこからともなく現れた黒づくめの男。忍び寄るお仕事をする方である。

「どう思う?」
「・・・怪しいですね。何かあったと思うべきです。それもあの性悪女が動揺するほどの何かが。」
「・・・本気で言っているのか?
どう考えてもそんなこと・・・それこそ国を揺るがすような何かが起こったとしか・・・」
「起こった・・・と考えるべきでしょう。」
「はっはっはっ。馬鹿なことを言うな。戦争も終わって、これからだって時にか?
好きな男ができたとか・・・だったらいいなぁ。」
「希望的観測ですね。」
「全くだ。やむをえんか。彼女の身辺を調べろ。」
「良いのですか?」
「彼女は確かに私情と軍務を分けて考えることのできる女性だが、あの様子からするとばれるとかなりまずい案件だろう。ただの与太話ならばいいが・・・今俺に打ち明けなかったということはよほど大きな案件、ってだけなら普通に俺たちを使ってくるだろうから、その案件は大きくて、なおかつ自身のミスによるものだと予想ができる。さすがの彼女とて私たち下の立場のものに自身のミスによるものを正直に打ち明けることができるかは・・・五分五分だろう。」
「・・・この機会にやめさせてしまうというのはどうでしょう?
悪口に辟易しなくて済みます。」
「本気で言っているのか?」
「ふふふ、冗談です。」
「たとえどんなに不利なことがあったとしても、彼女の下で戦うほどの安全な場所はない。王が自ら『彼女を飾り立てる装飾品は勝利のみ』と評したほどなのだからな。」
「・・・いってまいります。」
「できれば秘密裏に処理をしたい。信頼のできるものも見繕っておいてくれ。」
「了解です。」

黒づくめの男はそういってスバルの目の前から消えた。

「できれば簡単にいってくれよ。」

☆ ☆ ☆

翌日。

「原因が分かりました。」
「なんだ?」
「どうやら地図をなくされたようです。毎日地図を確認する習慣を持っている方なので、おそらくは無くされて1、2日くらいしか経ってないと思われます。」
「地図っ!?スパイかっ!?」
「いえ・・・それが・・・通常ありえない方法で盗み出されていたのです。」
「・・・どういうことだ?」
「はい。当然ながら彼女は軍師ですから地図の重要性は誰よりも理解しています。ゆえに保管していた場所は彼女が住む屋敷の彼女の寝室。それも入っていた場所には鍵をかけ、魔法もかけていたのです。」
「その魔法は?」
「ハイパーロックです。形跡を見るに超一流にしてもらったものですね。」
「・・・何か犯人の手がかりは?」
「それが・・・何も。」
「・・・ばかなっ!?」
「あの屋敷は軍師専用の屋敷であることは存じていますよね?」
「ああ・・・持ち主以外は転送によってでしか中に入れない。いや、入ろうと思えば入れるが子供よりも小さな体でもない限り入れるほどの隙間はないし、壁や窓を壊そうにも壊した場合音を検知する魔法が発動するはず。・・・壊されたあとは・・・」
「ありません。」
「・・・ハイパーロックはどうだったたんだ?」
「無理やりこじ開けられていました。」
「・・・無理やり・・・だと?」
「はい。」

ハイパーロックとは扉や引き出しなど大切なものを保管する際に使う魔法で、使うとまるで接着剤に付けたように動かなくなる。発動する際に決める特定のキーワードのみで解除することが可能であり、力づくであけようとするとなるとかなりの筋力が必要になる。
少なくとも人型の生物でそんな馬鹿力を持つ生物なんてのは聞いたことがない。

「そしてもう一つ気になる点が。」
「・・・はぁ・・・なんだ。」

あまりにも常識破りな盗み具合に危機感を通り越して、呆れてすらいるスバルの耳にひとつの情報が入り込む。

「食材が盗まれていました。」
「・・・高価なものか?」
「いえ、千差万別。視界に入ったそばから、といった感じですね。」
「・・・おい。まさか。」
「はい、最近巷を騒がせている食材泥棒・・・の仕業かもしれません。」
「・・・なんで食材泥棒が地図まで盗む?カモフラージュか?」
「そこまではなんとも。現場から読み取れた情報はこのくらいですね。」
「・・・ご苦労。追跡魔法もあったはずだが・・・さすがにこれも無力化されているとかだったら手に負えんぞ。」
「そちらは大丈夫です。
すぐにでも追えます。」
「・・・そこまでわかっているとなれば・・・」
「はい。すでに犯人のいる場所も、姿も確認済みです。ただ・・・」
「ただ?」
「かなり手ごわいです。探知魔法で常に周りを探っているようですので姿は遠目で見る限りでは先祖返りらしいとしか。」
「先祖返りかっ!?ほ、本当なのか・・・それは?」
「はい。」
「・・・どうして先祖返りが地図なんてものを・・・価値を知らずに適当に盗んだ・・・のか?いや、売るため?しかし、もっと高価そうなものはたくさんあるだろうし、目的無く、というのも考えづらい。」

うんうんと考え込むスバルはやがて結論を出す。

「とにかく犯人の確保をしてからだな。話はそれからだ。準備は出来ているか?」
「滞りなく。いつでもいけます。」
「今回のは相手が悪かったな。アンリエッタ殿はむしろ厳重すぎるくらいだ。さすがだな。普通に打ち明けても問題はないと思うが・・・」
「秘密裏に取り返せるなら取り返せるで越したことはないでしょう。」
「うむ。すぐに行く。」
「了解しました。」


その日、ポリプス騎士団、特別対応臨時急務隊はスラム街へと足を運ぶ。
そこで彼らは目にするのだ。
タコという生物のデタラメ具合を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ギルドの受付嬢はうごかない ~定時に帰りたいので、一歩も動かず事件を解きます~

ぱすた屋さん
ファンタジー
ギルドの受付嬢アイラは、冒険者たちから「鉄の女」と呼ばれ、畏怖されている。 絶世の美貌を持ちながら、常に無表情。そして何より、彼女は窓口から一歩も動かない。 彼女の前世は、某大手企業のコールセンター勤務。 営業成績トップを走り抜け、最後には「地獄のクレーム処理専門部署」で数多の暴言を鎮めてきた、対話術の怪物。 「次の方、どうぞ。……ご相談ですか?(クローズド・クエスチョン)」 転生した彼女に備わったのは、声の「真偽」が色で見える地味な能力。 だが、彼女の真の武器は能力ではなく、前世で培った「声のトーン操作」と「心理誘導」だった。 ある日、窓口に現れたのは「相棒が死んだ」と弔慰金をせしめようとする嘘つきな冒険者。 周囲が同情し、ギルドマスターさえ騙されかける中、アイラは座ったまま、静かにペンを走らせる。 「……五秒だけ、沈黙を差し上げます。その間に、嘘を塗り直すおつもりですか?」 戦略的沈黙、オウム返し、そして逃げ場を塞ぐイエス・セット。 現代のコールセンター術を叩きつけられた犯人は、自らその罪を吐き散らし、崩れ落ちる。 「あー、疲れた。一五分も残業しちゃった。……マスター、残業代三倍でお願いしますね」 これは、一歩も動きたくない受付嬢が、口先だけで悪を断罪し、定時退勤を目指す物語。

処理中です...