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Ⅵ章 ポリプス騎士街
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そんな出来事があって数日が経ったころのことである。
「・・・ううむ・・・。」
「ふふふ、私を覚えているかな?頭の人。」
「どうにもならないなぁ。」
「・・・くっ。またもや無視か。だが、無視していられるのも今のうちだ。今度の私は本気だからな!本気なんだぞっ!」
「ううむ、いかんせん分からない。」
「ほら、これを見ろっ!どうだっ!強そうな剣だろぉっ!!」
「あ、そういえば君はこの地図読める?」
「私の話を無視するにゃーーーっ!!」
僕はいきり立ち、腕をぶんぶん振り回すおかっぱ少女を目の前にしつつ地図とにらめっこしていた。
今までどこの家屋にも地図というものが無かったので、てっきり測量技術が未発達なのか、ないしはそこまで重要視されていないのではないかと思っていたのだがとある民家、いや、豪邸に入り込んだ際に手に入れたものである。
というか、民家だとさすがにちょっとした盗みが家計に大打撃になっちゃうかなぁという気遣いからあまり入らないのだが。
いや、犯罪行為に気遣いもくそもあったものでもないけれども。心情的な問題である。なんて話はともかくとして。
この街はポリプスと呼び、この街に訪れる人たちはそろって騎士街と呼ぶ。
いや、正確には周りの村々はこの街の直轄であり、半ば自治区であるらしく小国家と呼んでも良いかも知れない。
さすがに街道で話す人間の盗み聞き程度ではニュアンスか、それよりも今一歩という程度の情報しか手に入らないため詳しく絶対というほどの情報は分からないのだが、この小国、もといポリプス騎士街はライフィリア帝国に帰属する国の一つ、のようだ。帝国の定義って確か小国家が集まって出来た国のことだっけ?とか関係ないことも思いつつ。
そのライフィリアに勤める騎士として一番多くの人間を輩出してることからついた名前らしい。
また騎士と称される人間は大抵この国における貴族に値する身分の人々から出る。また、良くあるファンタジー小説のかませ犬役にまま使われるような横暴、傲慢といった性格ではないとのこと。
さて、一見取りとめもない話だが何が言いたいかをまとめると以下のようになる。
貴族の家と思われる豪邸に入ったら地図が手に入ったよ!
貴族=騎士であることがままあるらしい。
騎士=国家兵力。
その家にある地図。それも割と重要そうに保管されていた。
さて、どうなるでしょう?
盗むときはラッキーと思いながら拝借した、否、これも弱肉強食、警備が貧弱だから悪いのだと良心の呵責をごまかしつつかっぱらった、すなわち盗んだのだったけれど騎士が持っているって事は結構重要なんじゃないだろうか?
人工衛星の無いと思われるこの世界で地図というものの重要度がどれほどのものか想像に難くない。
あまり詳しくは無いが地形というのは白兵戦に置いて重要なんだよ的なことを漫画とかで見たことがある。どこで水分補給できるかとか待ち伏せならどこでやるかとか、それが他の国の人間に渡ったら戦争のときにかなり困ることになるのは―素人でも思いつく。
これって・・・ちょっとやばいものを盗んできてしまったのではないだろうか?ちょっと考えなしすぎたか。いや、でもその辺をタコに求めるのは酷な気もする。いや、タコというか中身は人なんですが。
しかも地図が読めないというオチまで付いている。
いや、まぁ見て、考えればなんとか分かるんじゃない?と思ってたころが僕にもありました。
社会の教科書に載ってる地図がどれほど親切で綺麗なのかを実感したしだいであります。
いや、ね。
分かるんだ。
かなり綺麗に書かれているんだろうなってことは分かっている。
手書きで極力綺麗に書こうとしたらこうなるんじゃないかなぁというものではあるのだ。が。
これを書いた測量士には悪いのだが、汚くて細かい部分が分からん、というかそもそも地図記号が分からん、文字が分からん、方角が分からん、現在位置が分からんという分からん分からん三昧。もうお腹いっぱいです。
フェルマーの最終定理の方がまだ分かるという物だ。
いや、実際は名前くらいとそれが何であるか、数学の問題であるということしか分かっていない点でこの地図と大差ないのだが。
となると別にどっちもどっち、どんぐりの背比べだった。
結局どっちも分からないことが分かっただけだった。いや、後者は別に分からなくても一向に構わないのだが。
せめて分かるのが現在位置らしき場所。
これはたとえるなら小中高と学校で習う上でまず一度は見るであろう世界地図。どこにどの国があるかとまでは分からない人がいても、日本がどこにあるかくらいは誰しもが学び、忘れることはないだろう。
その世界地図を見て思ったことはないだろうか?
あれ?日本が真ん中にあるな?と。日本は極東の国とか言われるけどぜんぜん東じゃないぞ?と。そもそも地球に中心なんてあるの?と。
当然ながら中心などは無い。これは自分の国本位で考えられている位置取りであって、外国の地図ではユーラシア大陸あたりが真ん中にあって・・・となり、そのため外国の人の国籍によっては日本人のことを極東の人と呼ぶことがあるというだけの話。
つまりこの地図の中心にある街らしきマークと文字がこの街の場所であり、ポリプスという文字なのではないか?という推測を立てることが出来る。
こほん。
そんなうんちくはさておき、まじでどうしよう。
あくまでも推測は推測。外れることもあるだろうし、地球とここは違う世界だ。
そもそもそういう結局のところ自分が一番!みたいな心理が地図に働いているのかも分からない。
結論。
僕はこんなしょうもない、解読もできない紙切れ一つでもしかしたらこの国の人間に命を狙われるかもしれないという。
ナンテコッタイ!
盗んだバチが当たったんだよ!といわれたらそれまでなんだけれど敢えてそこは考えないようにする。
なおかつ地図を見ててふと気づいたことがあるのだが、それもまた考えないようにする。と行きたいけどそうは行かないだろうな。
今が何年の何月何日なのか。
そもそもこの場所ってグリューネたちがいた世界なの?と。
まさかそんなことは無いとは思うが地球からこっち?に来た僕だ。二度目があっても不思議は無い。
もしも違う場所ならばもう二度と彼女達には会えなくなってしまう。
というか僕がこうして情報収集なんて面倒なことをしてまで豊饒の森に帰ろうとしてるのだって、やまいがちゃんと無事に帰れたのかの確認をしたいからである。いや、やまいの能力を考えるに、多分大丈夫だと―あの部屋の崩落に巻き込まれたとしても大した怪我は無いと分かっているし、リシュテルさんたちも探すくらいはしてくれるだろうから・・・そこはほら。
保護者魂で無事な姿を見ておきたいって言うかね?
でなければわざわざ保護色擬態を使ってまで情報を得ようとするのではなく、体が成長するのを待ってから人に擬態して人に聞いて回ったほうがはるかに楽だし。ちなみに現在の体長は触腕を除いて約60センチ。まだまだである。
(現状は人の姿を取るための体積が足らないため、人の姿をとるといびつになる。)
「まったく、まったくまったくまったくもう!」
「まぁまぁ少女よ、そうカッカするものじゃないよ。」
「うるさいよ!
人を無視しておいて自分の用件だけ通そうとするなんて一体どういう教育を受けてきたんだよ!まったく!」
「教育もスラムに居る以上まったく受けてないよ。」
「・・・むっ。のわりにはやたらと理知的だけど・・・もう。見せて。」
僕の言葉に思うところでもあったのだろう。
少し気遣わしげに僕を見やった後に、重くなった(ように見せかけた)空気をごまかすように地図に目を向けた少女。
自分が捨てられたよ!みたいな不幸アピールで彼女の怒りをあやふやにしようと思っていたのだが、思いのほか上手くいってしまった。
言わずもがな捨てられたとしてもぜんぜん気にしてないのは僕の中身がすでにアレだからだ。
なんか最近、盗みの所業と良い、汚い大人になってる気がする。
悪役は悪役でも、子悪党にすら匹敵しないようなしょうもないモブ悪党のような。
要反省。
「そ、そんなに沈んだ顔をしなくてもいいじゃない・・・これを読んであげるからチャラだからねっ!
そして、数日前のこととはまた別の問題なんだからっ!!許してないからね!!」
なん・・・だと?
こいつは・・・僕のタコ顔に判別が付くというのか?
はっきり言おう。いまだに僕は自分の表情が分からん。だってタコなんだもの。
というか数日前にあったときから疑問だったのだが、この子は何者だろうか?
頼んでおいてなんだけれどこのスラム区画にいるにしては雰囲気が場違いなような・・・何者だ?
それを聞いてみると。
「・・・す、すす・・・す、数日前に散々自己紹介したでしょうがぁぁっ!!」
「ごめんね。子供のおままごとには付き合っていられなかったというか・・・」
顔を真っ赤にして怒り出す少女。
「というか名前さえ知らないんだけど。」
「だから自己紹介したでしょうがぁっ!!」
「ごめんなさい、聞いてませんでした。」
「あら、正直。っじぁねぇっ!
それすらも聞いてなかったのっ!?
ソレもはや私の独り言じゃないっ!?
独り言じゃん!!
独り言だよね!?」
「・・・まぁそうなるかな。」
「・・・なにがそうなるかな。だぁっ!!もう我慢なら無いっ!!
この前も言ったが、ちょっと痛い目にあわせてあげようじゃないかっ!
私の持つこの鼓動する紅き剣でっ!」
「ぷっ」
そう言って彼女は剣を構えるがその構えはちょっとへっぴり腰で、ちょっとだけ扱えてるけど、扱えてるというにはちょっと・・・。という微妙なラインの微妙な動きについおかしくて笑ってしまった。
そして厨二風味な剣の名前でもおかしかった。
もとい彼女は全体的におかしかったのだ。
こういうと彼女自身がおかしいように思えるが・・・まぁおかしいとしても問題ないと思う。
「あるわっ!ばかものがぁっ!!」
そういって振るう紅い大層な装飾のされたヴぁるヴぁにーるとやらを僕にめがけて振るってくる少女。
少し子供をからかいすぎたなぁと思う反面、やっぱり人恋しいと思っていた部分もあったのかなと、自分のうちに膨れ上がる楽しい思いを自覚しつつ。やはり会話は楽しい。
とはいえ彼女には悪いことをしてしまっただろう。適当にこれを受けてちゃんと謝ることにしよう。
いつぞやの竜の一撃に比べればなんてことはない。
この一撃は大人気なくも彼女をからかいすぎて調子に乗ってしまった罰として甘んじて受けるとした。
これもまた反省する必要がある。
だが。
ばっきーんと軽い音を発てて舞う金属の塊が視界に入った。
「え゛?」
「うん?」
ザクと突き立つ半ばから折れた鼓動する紅き剣かっこわらいかっことじ。
うん?
ううううん?
あれ?
一応いくら頑丈でも子供の力と圧縮作業をしてない程度の防御力である僕に、さすがにヴァルヴァニールなんていう大層な名前を持つ、いかにもな名剣っぽい何かを叩きつけたところでそう簡単に折れるはずが無いのだけれど。
・・・なるほど。すべてなぞは解けた。
じっちゃんの名にかけてこれは鼓動する紅き剣が名前負けしていただけのただの安物の剣だったに違いない!
真実はいつも一つ!!
とごまかしてみたものの・・・
「・・・わ、わたひの・・・わたひの・・・剣がゃぁ・・・こつこつ・・・こつこつと・・・お金を溜めて・・・毎日小銭を拾って・・・ようやく・・・買った・・・剣が・・・なまえをつげて・・・がっだ・・・剣がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!
うわぁああああああああんっ!
ひどいよっ!
ひどいよぅっ!!
こんなのってないよぉぉっ!!」
ガチ泣きである。
・・・これは僕のせい・・・ですよね。
元はといえば僕が無視し続けたのが悪かったのである。
ちなみに当然ながら、話は聞いていました。
彼女の名前がティキで・・・えと・・・影の支配人であることは分かってる。
何の支配人なんだろうか?
なぞがなぞを呼ぶ難事件。
うん。ぶっちゃけちゃうとそのときそれどころじゃなかったので実は聞いていたと言ってもこれだけだったりする。
いや、だって漆黒がなぜここにあるのか不思議だったし・・・とか言ってる場合ではない。
今回は久しぶりのコミュニケーションって事ではしゃぎすぎた上に子供を泣かせてはしまった。
良い歳こいてやらかしてしまったことを本気で反省しながら必死にティキをなだめるのであった。
「・・・ううむ・・・。」
「ふふふ、私を覚えているかな?頭の人。」
「どうにもならないなぁ。」
「・・・くっ。またもや無視か。だが、無視していられるのも今のうちだ。今度の私は本気だからな!本気なんだぞっ!」
「ううむ、いかんせん分からない。」
「ほら、これを見ろっ!どうだっ!強そうな剣だろぉっ!!」
「あ、そういえば君はこの地図読める?」
「私の話を無視するにゃーーーっ!!」
僕はいきり立ち、腕をぶんぶん振り回すおかっぱ少女を目の前にしつつ地図とにらめっこしていた。
今までどこの家屋にも地図というものが無かったので、てっきり測量技術が未発達なのか、ないしはそこまで重要視されていないのではないかと思っていたのだがとある民家、いや、豪邸に入り込んだ際に手に入れたものである。
というか、民家だとさすがにちょっとした盗みが家計に大打撃になっちゃうかなぁという気遣いからあまり入らないのだが。
いや、犯罪行為に気遣いもくそもあったものでもないけれども。心情的な問題である。なんて話はともかくとして。
この街はポリプスと呼び、この街に訪れる人たちはそろって騎士街と呼ぶ。
いや、正確には周りの村々はこの街の直轄であり、半ば自治区であるらしく小国家と呼んでも良いかも知れない。
さすがに街道で話す人間の盗み聞き程度ではニュアンスか、それよりも今一歩という程度の情報しか手に入らないため詳しく絶対というほどの情報は分からないのだが、この小国、もといポリプス騎士街はライフィリア帝国に帰属する国の一つ、のようだ。帝国の定義って確か小国家が集まって出来た国のことだっけ?とか関係ないことも思いつつ。
そのライフィリアに勤める騎士として一番多くの人間を輩出してることからついた名前らしい。
また騎士と称される人間は大抵この国における貴族に値する身分の人々から出る。また、良くあるファンタジー小説のかませ犬役にまま使われるような横暴、傲慢といった性格ではないとのこと。
さて、一見取りとめもない話だが何が言いたいかをまとめると以下のようになる。
貴族の家と思われる豪邸に入ったら地図が手に入ったよ!
貴族=騎士であることがままあるらしい。
騎士=国家兵力。
その家にある地図。それも割と重要そうに保管されていた。
さて、どうなるでしょう?
盗むときはラッキーと思いながら拝借した、否、これも弱肉強食、警備が貧弱だから悪いのだと良心の呵責をごまかしつつかっぱらった、すなわち盗んだのだったけれど騎士が持っているって事は結構重要なんじゃないだろうか?
人工衛星の無いと思われるこの世界で地図というものの重要度がどれほどのものか想像に難くない。
あまり詳しくは無いが地形というのは白兵戦に置いて重要なんだよ的なことを漫画とかで見たことがある。どこで水分補給できるかとか待ち伏せならどこでやるかとか、それが他の国の人間に渡ったら戦争のときにかなり困ることになるのは―素人でも思いつく。
これって・・・ちょっとやばいものを盗んできてしまったのではないだろうか?ちょっと考えなしすぎたか。いや、でもその辺をタコに求めるのは酷な気もする。いや、タコというか中身は人なんですが。
しかも地図が読めないというオチまで付いている。
いや、まぁ見て、考えればなんとか分かるんじゃない?と思ってたころが僕にもありました。
社会の教科書に載ってる地図がどれほど親切で綺麗なのかを実感したしだいであります。
いや、ね。
分かるんだ。
かなり綺麗に書かれているんだろうなってことは分かっている。
手書きで極力綺麗に書こうとしたらこうなるんじゃないかなぁというものではあるのだ。が。
これを書いた測量士には悪いのだが、汚くて細かい部分が分からん、というかそもそも地図記号が分からん、文字が分からん、方角が分からん、現在位置が分からんという分からん分からん三昧。もうお腹いっぱいです。
フェルマーの最終定理の方がまだ分かるという物だ。
いや、実際は名前くらいとそれが何であるか、数学の問題であるということしか分かっていない点でこの地図と大差ないのだが。
となると別にどっちもどっち、どんぐりの背比べだった。
結局どっちも分からないことが分かっただけだった。いや、後者は別に分からなくても一向に構わないのだが。
せめて分かるのが現在位置らしき場所。
これはたとえるなら小中高と学校で習う上でまず一度は見るであろう世界地図。どこにどの国があるかとまでは分からない人がいても、日本がどこにあるかくらいは誰しもが学び、忘れることはないだろう。
その世界地図を見て思ったことはないだろうか?
あれ?日本が真ん中にあるな?と。日本は極東の国とか言われるけどぜんぜん東じゃないぞ?と。そもそも地球に中心なんてあるの?と。
当然ながら中心などは無い。これは自分の国本位で考えられている位置取りであって、外国の地図ではユーラシア大陸あたりが真ん中にあって・・・となり、そのため外国の人の国籍によっては日本人のことを極東の人と呼ぶことがあるというだけの話。
つまりこの地図の中心にある街らしきマークと文字がこの街の場所であり、ポリプスという文字なのではないか?という推測を立てることが出来る。
こほん。
そんなうんちくはさておき、まじでどうしよう。
あくまでも推測は推測。外れることもあるだろうし、地球とここは違う世界だ。
そもそもそういう結局のところ自分が一番!みたいな心理が地図に働いているのかも分からない。
結論。
僕はこんなしょうもない、解読もできない紙切れ一つでもしかしたらこの国の人間に命を狙われるかもしれないという。
ナンテコッタイ!
盗んだバチが当たったんだよ!といわれたらそれまでなんだけれど敢えてそこは考えないようにする。
なおかつ地図を見ててふと気づいたことがあるのだが、それもまた考えないようにする。と行きたいけどそうは行かないだろうな。
今が何年の何月何日なのか。
そもそもこの場所ってグリューネたちがいた世界なの?と。
まさかそんなことは無いとは思うが地球からこっち?に来た僕だ。二度目があっても不思議は無い。
もしも違う場所ならばもう二度と彼女達には会えなくなってしまう。
というか僕がこうして情報収集なんて面倒なことをしてまで豊饒の森に帰ろうとしてるのだって、やまいがちゃんと無事に帰れたのかの確認をしたいからである。いや、やまいの能力を考えるに、多分大丈夫だと―あの部屋の崩落に巻き込まれたとしても大した怪我は無いと分かっているし、リシュテルさんたちも探すくらいはしてくれるだろうから・・・そこはほら。
保護者魂で無事な姿を見ておきたいって言うかね?
でなければわざわざ保護色擬態を使ってまで情報を得ようとするのではなく、体が成長するのを待ってから人に擬態して人に聞いて回ったほうがはるかに楽だし。ちなみに現在の体長は触腕を除いて約60センチ。まだまだである。
(現状は人の姿を取るための体積が足らないため、人の姿をとるといびつになる。)
「まったく、まったくまったくまったくもう!」
「まぁまぁ少女よ、そうカッカするものじゃないよ。」
「うるさいよ!
人を無視しておいて自分の用件だけ通そうとするなんて一体どういう教育を受けてきたんだよ!まったく!」
「教育もスラムに居る以上まったく受けてないよ。」
「・・・むっ。のわりにはやたらと理知的だけど・・・もう。見せて。」
僕の言葉に思うところでもあったのだろう。
少し気遣わしげに僕を見やった後に、重くなった(ように見せかけた)空気をごまかすように地図に目を向けた少女。
自分が捨てられたよ!みたいな不幸アピールで彼女の怒りをあやふやにしようと思っていたのだが、思いのほか上手くいってしまった。
言わずもがな捨てられたとしてもぜんぜん気にしてないのは僕の中身がすでにアレだからだ。
なんか最近、盗みの所業と良い、汚い大人になってる気がする。
悪役は悪役でも、子悪党にすら匹敵しないようなしょうもないモブ悪党のような。
要反省。
「そ、そんなに沈んだ顔をしなくてもいいじゃない・・・これを読んであげるからチャラだからねっ!
そして、数日前のこととはまた別の問題なんだからっ!!許してないからね!!」
なん・・・だと?
こいつは・・・僕のタコ顔に判別が付くというのか?
はっきり言おう。いまだに僕は自分の表情が分からん。だってタコなんだもの。
というか数日前にあったときから疑問だったのだが、この子は何者だろうか?
頼んでおいてなんだけれどこのスラム区画にいるにしては雰囲気が場違いなような・・・何者だ?
それを聞いてみると。
「・・・す、すす・・・す、数日前に散々自己紹介したでしょうがぁぁっ!!」
「ごめんね。子供のおままごとには付き合っていられなかったというか・・・」
顔を真っ赤にして怒り出す少女。
「というか名前さえ知らないんだけど。」
「だから自己紹介したでしょうがぁっ!!」
「ごめんなさい、聞いてませんでした。」
「あら、正直。っじぁねぇっ!
それすらも聞いてなかったのっ!?
ソレもはや私の独り言じゃないっ!?
独り言じゃん!!
独り言だよね!?」
「・・・まぁそうなるかな。」
「・・・なにがそうなるかな。だぁっ!!もう我慢なら無いっ!!
この前も言ったが、ちょっと痛い目にあわせてあげようじゃないかっ!
私の持つこの鼓動する紅き剣でっ!」
「ぷっ」
そう言って彼女は剣を構えるがその構えはちょっとへっぴり腰で、ちょっとだけ扱えてるけど、扱えてるというにはちょっと・・・。という微妙なラインの微妙な動きについおかしくて笑ってしまった。
そして厨二風味な剣の名前でもおかしかった。
もとい彼女は全体的におかしかったのだ。
こういうと彼女自身がおかしいように思えるが・・・まぁおかしいとしても問題ないと思う。
「あるわっ!ばかものがぁっ!!」
そういって振るう紅い大層な装飾のされたヴぁるヴぁにーるとやらを僕にめがけて振るってくる少女。
少し子供をからかいすぎたなぁと思う反面、やっぱり人恋しいと思っていた部分もあったのかなと、自分のうちに膨れ上がる楽しい思いを自覚しつつ。やはり会話は楽しい。
とはいえ彼女には悪いことをしてしまっただろう。適当にこれを受けてちゃんと謝ることにしよう。
いつぞやの竜の一撃に比べればなんてことはない。
この一撃は大人気なくも彼女をからかいすぎて調子に乗ってしまった罰として甘んじて受けるとした。
これもまた反省する必要がある。
だが。
ばっきーんと軽い音を発てて舞う金属の塊が視界に入った。
「え゛?」
「うん?」
ザクと突き立つ半ばから折れた鼓動する紅き剣かっこわらいかっことじ。
うん?
ううううん?
あれ?
一応いくら頑丈でも子供の力と圧縮作業をしてない程度の防御力である僕に、さすがにヴァルヴァニールなんていう大層な名前を持つ、いかにもな名剣っぽい何かを叩きつけたところでそう簡単に折れるはずが無いのだけれど。
・・・なるほど。すべてなぞは解けた。
じっちゃんの名にかけてこれは鼓動する紅き剣が名前負けしていただけのただの安物の剣だったに違いない!
真実はいつも一つ!!
とごまかしてみたものの・・・
「・・・わ、わたひの・・・わたひの・・・剣がゃぁ・・・こつこつ・・・こつこつと・・・お金を溜めて・・・毎日小銭を拾って・・・ようやく・・・買った・・・剣が・・・なまえをつげて・・・がっだ・・・剣がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!
うわぁああああああああんっ!
ひどいよっ!
ひどいよぅっ!!
こんなのってないよぉぉっ!!」
ガチ泣きである。
・・・これは僕のせい・・・ですよね。
元はといえば僕が無視し続けたのが悪かったのである。
ちなみに当然ながら、話は聞いていました。
彼女の名前がティキで・・・えと・・・影の支配人であることは分かってる。
何の支配人なんだろうか?
なぞがなぞを呼ぶ難事件。
うん。ぶっちゃけちゃうとそのときそれどころじゃなかったので実は聞いていたと言ってもこれだけだったりする。
いや、だって漆黒がなぜここにあるのか不思議だったし・・・とか言ってる場合ではない。
今回は久しぶりのコミュニケーションって事ではしゃぎすぎた上に子供を泣かせてはしまった。
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