魔王クリエイター

百合之花

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Ⅳ章

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僕は逃げる。

彼に対しては言いがかりも甚だしいが、今後は下手に道場には近寄らず、なんなら村や大都市なども無視してひたすらに首都にあるただ一つの醤油製造場所を目指す。
もう、道中の盗賊退治もしない。
魔王エルルちゃんの身体能力の全霊で、ひたすらに走り続けることにする。
ボロボロになったワンピースの予備を次元ポーチと名付けた道中で見つけた、というか盗賊から掻っ払ったウエストポーチから取り出して着替えながら、あとはひたすらに醤油を目指す。
魔王ミイデラゴミムシが暴れて注意を引いている間は、源流院とやらも僕を気にしたり指名手配したりする余裕は無かろう。
ちなみに、わざわざ源流院が魔王ミイデラゴミムシと繋がっていますよ的な言いがかりを言ったのはいつの間にか大郷寺と呼ばれた彼も近くに来ていたことに気付いたからである。
僕の言いがかりを聞いて仲間内で疑心暗鬼になって、さらなる時間稼ぎが出来ればラッキー程度の愚策ではあるけれどね。

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

「源流院先輩!!」
「大郷寺かっ!?良いところに来た!ワシは目の前のモノノ怪をヤる!お前は奴を…」
「源流院先輩があの女児を襲おうとしたのは本当ですかっ!?」
「な、何を言うておるのだ貴様はっ!?」

愚策に思われたエルルちゃんのホラ吹きだが、意外にもクリティカルヒットしていた。

「女の子の姿をしたモノノ怪なんて聞いたことがないし、よしんばそうだとしてもいきなり拳を振るなんて可笑しいと思ったんですっ!!実は、ここに誘い込んで…」
「阿呆っ!そんなわけないだろうがっ!!奴の言葉を間に受けるでない!ワシには妻子もおるのだぞっ!?」
「だったらなんで!?先輩の拳を受けて死なないどころか傷一つない様子でした!斃すための拳ではなく、吹き飛ばすための拳を振るったとしか考えられません!!」

大郷寺は源流院がエルルちゃんに向かって振り上げた拳に戸惑いつつも、エルルちゃんが飛んでいった様を目撃した外を出歩いていた村人達に、適当な嘘で気にしないように言い廻ってからここにきた。
ゆえに遅れたの。
さらには源流院の言うように殺さなくてはいけないモノノ怪であったらと言う場合に備えて、付近に気配を殺して潜伏していた。
魔王エルルちゃんが源流院の言うように殺すべき敵であったときに、不意打ちを喰らわすために。
しかし、エルルちゃんの口から漏れ出た衝撃の事実、いや嘘に彼はすっかり騙されてしまった。
だからといって彼が馬鹿なわけでも源流院が言うように阿呆だったわけでもない。

『偶然』が重なった故の、ラッキーヒットだった。
エルルちゃんにとっては幸運なことに、思いつきの愚策がたまたま通用する背景があった。

「それにそこのモノノ怪も全然攻撃をしてきませんしっ!先輩のしもべだからじゃないんですか!?」
「そ、そんなわけないだろうがっ!」
「じゃあっなんで、そいつは黙って此方を見たままなんですかっ!?」
「ワシが知るかっ!!」

実は黄泉国では少し前まで女児の誘拐が問題となっていた。
どこの国、時代、世界だろうと普通から外れる人間は出てくるもの。
この世界でも例外は無く、組織的な犯行にて女児が誘拐されると言う事件が立て続けに行われていたのだ。
幸い犯人は捕まったが、組織的な複数人による計画的犯行だったゆえにまだ捕まっていない人もいるやもしれない。
そうした事件が少し前にあったので少しばかりそれ系の悪いことに敏感であったと言うのがまず一つ。
二つ目は源流院の妻の容姿にある。
彼の妻は非常に幼く、年齢こそ近いが、その見た目は幼女とまでは行かないがかなり幼女に近い。
結果、源流院は陰でロリコンゴリラと言うあだ名で呼ばれていたりもした。
実際にはロリコンではなく、好きになった人がたまたまそういう容姿だったと言うだけの話で、完全なる誤解、むしろ見た目の好み度外視で結婚を決めた仲良し夫婦である。
源流院ロリコンゴリラが見た目で人を判断しない人というだけで、単なる容姿の好みだけの話ならば真逆のエッチな体つきの妖艶なお姉さんがタイプだったりする。
三つ目は源流院の武術の腕前にあった。
彼の武術の腕前は次期師範代と呼ばれるほどで、なんならすでに現師範代を超えていると自他共に認められているくらいだ。
その師範代の拳を受けて死なないどころか傷一つない生き物がいるはずがない、となれば手加減をした、殺すと言っておきながら手加減をする意味がわからない、となると手加減をして生かしたままアレコレするつもりだったのか?吹き飛んだのも、強力な拳で結果的に吹き飛んだのでは無く、初めから遠くに、すなわち、人の目の届かない場所に吹き飛ばしてからYESロリータYESタッチをするつもりだったからと邪推できる状況になってしまった。

以上の理由がたまたま重なることで、魔王エルルちゃんの去り際のデタラメが真実であるかのように受け止められてしまったのである。

もちろん全てはただの偶然に他ならない。

実はこの世界では犯罪が多い。
地球に比べて治安が悪いという訳ではなく、人が地球よりも圧倒的に多いために犯罪件数の絶対数が多いだけで、地球と比較して相対的に見た場合、むしろ犯罪件数は少ない。
人が生きる上で絶対に必要な食料が足りてないのだから、犯罪なんぞしている暇がない、するにしてもどうせするなら食料を盗むわ、とばかりに食料関連の窃盗罪が大半である。
だからこそ、珍しい女児誘拐の犯罪に対して必要以上に過敏になり、エルルちゃんの流言が間に受けいれられたと言うわけである。

「良いからお前はあの小娘を…」
「誤魔化さないでくださいっ!!事と次第によっては俺がここでっ」

目的は時間稼ぎなため、魔王ミイデラゴミムシには防御重視で戦えとエルルが言っていたのもあり、大郷寺は完全に源流院に疑いの目を向けていた。
彼は決して馬鹿や阿呆の類ではないが、些か思い込みの強い部分があるようで源流院の言葉を聞き入れる状態ではない。
いや、それを人は馬鹿や阿呆と言うのやもしれない。

いっそのことワシが追うか?と源流院は考えたが、大人しくしているとはいえ、どんな生き物で何を目的に出てきたのかも分からぬ魔王ミイデラゴミムシを見て放置するわけにもいかないと考え、ひとまず思い込みの激しい目の前の阿呆からしばき倒すかと拳を構えたところで魔王ミイデラゴミムシが動いた。

「いかんっ!大郷寺っ!避けろっ!!ぐおっ!?」
「っ!?くっ!!」

魔王ミイデラゴミムシの性格は大雑把だったようだ。
彼の初手は攻撃は最大の防御と言わんばかりの初手ブッパ。
初めから最大技のブッパなし。
彼が今まで動かなかったのはエルルに防御重視でと言われたのもあったが、この初手ブッパに少しの溜めを要するからでもあった。
ミイデラゴミムシはお尻を高くあげ、尻先の放屁するための非常に可動域の広い器官を前方に向けた。
ミイデラゴミムシの能力である放屁を、二つの化学物質を同時に瞬時に噴き出すために霧状に噴き出される高温の刺激物は大郷寺と源流院の2人を纏めて吹き飛ばした。



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