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百合之花

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Ⅵ章 衰亡

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サドラン皇帝の爆弾発言からしばらく。
場面は変わり、超大都市アイヌゥから1番近い大都市の軍事会議室にて。

「はぁっ?遅延行動に務めろ?援軍も寄越さずに上層部は何考えてんだよ?」
「上層部どころではない。これは皇帝からの直接命令だ」

この都市における最高責任者である都市長と、都市における軍部関係のトップである2人が話し合っていた。

「なおさら考えが分からなくなったぞ!」
「首都で迎え撃つとのことだ」
「はぁ!?皇帝様は正気かよ!?そこに行くまでの都市はどうなる?しかも、サドランで迎え撃つってそこまで攻め込まれたらもはや逃げ場がないじゃねぇーかっ!」
「…おそらくは皇帝直属の軍人しか知らぬ秘密兵器であり、最終防衛ラインとなるアレを使うつもりなのだろう」
「ああ、あの、軍学校で習ったあるかも分からん秘密兵器を当てにして迎え撃つと。だったら大丈夫だな…っとはならねーよっ!?
そんな胡散臭い…は言い過ぎにしても、ろくに詳細も分からんもんに後を任せるなんざ俺らからしたら、不安しかないわ!」
「私も同感だとも。しかし、かと言ってアイヌゥから送られた戦闘データを見るに、今ある兵力ではどうにもならないことは貴殿とて理解しているだろう?多少の援軍を寄越されたところで街ごと消し飛ばされるだけ。結果は変わらんよ」
「それは…分かってらぁ…ちきしょうめ」
「そして、私はこれから君たちに酷な命令を下さねばならない」

遅延行動に務めろとは具体的には何か?
それすなわち、街の人を避難させるための時間稼ぎに徹しろと言うことである。
そしてそれは現状においては死ねと言うのと同義であった。

当然ながら人口密度の高いこの世界での避難行為は非常に労力と時間とを使う行いであり、すぐには終わらず、敵を街に近づけてしまうと、守りを固めたところでその守りごと、人々が消しとばされてしまう。
となれば軍人達はこちらから攻めていき、避難のための時間稼ぎとして相手の足止めを行い続ける必要がある。
自分達を一撃で殺しうる強大な敵に対して、逃げずに立ち向かい続けなければならないのだ。
しかも長時間、避難が完了するその時までやり続けなければならない。
相手の戦闘力や攻撃手段を見るに、纏めて攻め込むと纏めてやられてしまうため、戦力を分散しながら小出しにして四方から無視できない程度の攻撃を行うと言う形になるだろう。
そんなやり方で敵を殺せるはずもなく、また、街を消し飛ばせる攻撃を持つ相手を前にずっと健在で生きていられるはずもなく。

初めから勝つ事を、生きて帰る事を諦めた上で出撃しなければならないのだ。

つまり。

「君たちには死んでもらいたい」
「…まあ、そうなるわな」
「さらに、だ。悪い知らせがある」
「これ以上の悪い知らせとかなんだよ?」
「今や最南端となったこの都市から避難させたところで避難先である最北端の都市群に避難民が辿り着くのは難しいとして、避難に関する支援すらもないのだ」
「…まじかよ?この都市にいる国民全部、切り捨てるってかっ!?」
「…やむをえん」
「ふざけんなっ!そんなこと受け入れられる筈がねぇだろうがっ!?」
「ああ、その憤りはもっともだ。しかし、やむを得ない。やむをえないのだ」
「せめて子供だけでもとか…」
「分かっているだろう?そう、君ならばわかる筈だ」
「…ああ、わかってる。分かってるさ。そう判断するのは普通だ。そうするしかないなんてのは…でもよ!!」

さらに彼らにとって悪い話が、先に命じられた遅延行動はこの都市の住民を救うためのものではなかったことである。
サドラン帝国上層部は今から避難したところで最南端の、いわば次の最前線となる都市の避難はまず間に合わないと判断。
初めから堕とされる前提での避難計画を各都市に発令した。
黒竜侵攻の遅延作戦は、後方にある各都市の避難時間を稼ぐためのものであり、最前線の人々の避難に関しては一切考えられていなかったと言うことである。
ふざけるなと憤りをおぼえるのは当然。
しかし、そう判断するのも当然。

「てことは何か?住民達もまた時間稼ぎのための囮ってか?」

敵が攻めてきた時、都市から逃げ出そうとする人々がワラワラと無軌道に逃げ出したら、それはさぞかし注意を引き、時間を稼げるだろうなと邪推してしまうのも無理はない。
ないしは彼らにも武器なり、戦車なりを配備して戦わせろとでも言いたいのか。

「当然ながら、そのようなつもりはないようだ。あくまで国から支援ができないだけであり、自力で逃げ出せるのであれば逃げ出してくれて構わないとのこと」
「そうかい。現状じゃ、なんの気休めにもなりはしないがな」
「…落ち着け。気持ちはわからないでもないが、怒りが先行して、気づいていないようだ」
「あん?何にだよ?」
「首都で迎え撃つという言葉の意味だ。貴殿は後がないと言ったな?
そう、まさにその通りだとも」

都市長は瞑目し、さらに続けた。

「事は一都市の話に収まらず、サドラン帝国が滅びるかの瀬戸際でもあると言うことになる。都市一つ、いやウチ以外の幾つかも切り捨てねばならないほどの大事が起きているのだ。サドラン様は亡命も既に選択肢に入れている」
「…おいおい、さすがに諦めるのが早い…ってことはないか。確かにまあ、そう判断するのはわからないでも…いや、それにしたって思い切りが良すぎるが…」
「その際には軍事機密を含む我が国の技術を手土産にある程度の避難民と技術者、さらには御子息を送り込むとのこと」
「…てことはつまり…」
「サドラン様は自らの命、そして首都すらも時間稼ぎの道具にするお考えのようだ」
「…さ、さすがに勝つ気が無さすぎるだろう?」
「まあな。だが、首都にある最終兵器の性能如何ではそうなってもおかしくはない。
そして、その詳細を知るはずのサドラン様がそう判断したということは、だ。
あまり考えたくはないが…こほん。
まあ、そのような現状で、避難へ割く力はないのだろうな」
「…余裕があるという勘違いをするなって言いたいのかよ?」
「さて、どう解釈するかは貴殿に任せるよ。どちらにせよ命令は命令だ。我々はそれに従うしかない。
レジン大佐。出撃準備をしたまえ」
「……了解」

こうして都市から数々の戦車や兵士が出撃。
彼らは数時間後に接敵。
全滅。
数十分後に、後発組が接敵。
全滅。
さらに数十分後。
全滅。
最後の出撃。
全滅。


この会議から半日ほど。

この都市もまた地上から消えたのだった。


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