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第一章
第53話 カシャーレとの戦い 〜その6〜
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「……すまないギスタ。礼を言う」
ヴェルナードは馬を反転させると、直ちに号令を出した。
「搭乗を急ぐのだ! もう時間がない!」
その声にリフトを見上げると、三基の荷台はもう目線の高さまで下がっていた。その一基に数人でボートを運び込むと、ボクも一緒に搭乗する。
「よし! 引き上げろ!」
合図とともに、荷台がゆっくりと上がっていく。荷台が真ん中あたりまで差し掛かった時、三回目の咆哮が響き渡った。
その咆哮に荷台は激しく揺れ、隣の荷台からも悲鳴が上がる。
ボクはボートと荷台の手すりに必死にしがみついた。
ぶらんぶらんと荷台が大きく揺れる中、手すりに立てかけていたボートがガクンと角度を変える。
ボートの傾きを直す為、咄嗟にボクが立ち上がったのと、風竜からの振動で荷台が更に大きく揺れたのは、ほぼ同時だった。
ボクの体は荷台から溢れ落ち、そのまま宙に投げ出された。
「———う、うわわわああああああ!」
「カズキ———!!」
遙か下からジェスターの声が聞こえた気がした。
まさか、こんな呆気ない死に方なんて、神様も本当に意地が悪い。
「……ああ、最後にボートに乗りたかったなぁ」
遠ざかりゆく荷台の上のボートを眺めながら心残りを口にすると、急に視界が覆われて、体がふわっと軽くなった。
……あれ? 一体どうなった? なんか浮いている様な……。
自分の状況がよく分からず、きょときょと周りを見渡してようやく事態を飲み込むことができた。と、同時に耳元で声がした。
「……ふぅ、間一髪だったな嬢ちゃん」
ボクを助けた人翼滑空機はそのまま風竜の上まで上昇すると、リフトの側に着陸した。
「あ、ありがとう……」
「何、礼なんていらねえよ」
水色の戦闘服に身を包み、耳あたりまである茶色の髪を靡かせながら、男はニマっと笑う。
……でも待って! それどころじゃないよ!
三回目の咆哮が聞こえたのだ。ここままでは風竜は、すぐにでも飛び立ってしまう。
断崖まで駆け寄ると風竜は畳んでいた翼をゆっくりと広げようとしていた。もう本当に時間がない!
どうしよう!? ヴェルナードさんを始め、30人近くがまだ下にいる。
ボクは頭をフル回転させて考えた。だけど、良い考えなんてすぐに思いつくものではない。
……そんな、あんまりだ……こんな……こんなのってないよ。
ヴェルナードやアルフォンス、ジェスターや助けに来てくれたゲートルードにだって、まだちゃんとお礼を言えていない。
皆がいたから何とか風竜までたどり着く事ができた。ボク一人じゃ、何もできやしなかった。それなのに、ボクとマクリーだけが助かるなんて……。
……んん? マクリー?
ボクは急いでリュックを下ろすと、中からズボッとマクリーを引っこ抜いた。周りは皆ギョッと驚いているけど、今はそんな事関係ない!
「———マクリー! 起きてマクリー!」
「……んん? むにゃ。なんですかカズキ。吾輩泣き疲れてもう少し……」
「アンタ! もうとっくに一日以上寝てるわよ! ちょっとマクリー! 風竜が飛び立とうとしてるの! まだ皆が下にいるの! ちょっとだけでもいいから、アンタ何とかできないの!?」
寝ぼけ眼のマクリーは、何とか事情を把握した様だ。
あくびまじりに「わかりました。ちょっと吾輩から言ってみますね」と言うと、トーンの高い幼い咆哮を放った。
その咆哮に応じる様に、風竜の開き始めていた翼がピタッ止まり、小刻みに揺れる振動が収まっていく。
「———早く! 今のうちに皆を引き上げて!」
ボクらの挙動をポカンと見ていたリフトの作業員は、急にスイッチが入ったかの様に動き出す。
早く……早く、上がってきて!
「おいてめえら! なにぼやっと突っ立てるんだ。奴らが乗れる様に手伝ってやれ!」
祈る様な気持ちで見守っていると、地上からギスタの声も響いてきた。
「よし! これで全員無事に搭乗したぞ!」
リフトを操作する部員がそう言うと、マクリーが再度咆哮を放つ。
風竜はその呼び掛けに応え、再び翼を広げ出した。
「ヴェルナード! 約束を忘れたら承知しねえからな!」
風竜の断崖に立つボクたちに、見上げるギスタの声が届いてきた。それを見つめるヴェルナードは小さく頷く。
風竜は完全に翼を広げ、振動と共に動き出す。
そしてゆっくりと浮上を始めると、ボクたちを背に乗せて、再び空の航路へと舵を取るのだった。
ヴェルナードは馬を反転させると、直ちに号令を出した。
「搭乗を急ぐのだ! もう時間がない!」
その声にリフトを見上げると、三基の荷台はもう目線の高さまで下がっていた。その一基に数人でボートを運び込むと、ボクも一緒に搭乗する。
「よし! 引き上げろ!」
合図とともに、荷台がゆっくりと上がっていく。荷台が真ん中あたりまで差し掛かった時、三回目の咆哮が響き渡った。
その咆哮に荷台は激しく揺れ、隣の荷台からも悲鳴が上がる。
ボクはボートと荷台の手すりに必死にしがみついた。
ぶらんぶらんと荷台が大きく揺れる中、手すりに立てかけていたボートがガクンと角度を変える。
ボートの傾きを直す為、咄嗟にボクが立ち上がったのと、風竜からの振動で荷台が更に大きく揺れたのは、ほぼ同時だった。
ボクの体は荷台から溢れ落ち、そのまま宙に投げ出された。
「———う、うわわわああああああ!」
「カズキ———!!」
遙か下からジェスターの声が聞こえた気がした。
まさか、こんな呆気ない死に方なんて、神様も本当に意地が悪い。
「……ああ、最後にボートに乗りたかったなぁ」
遠ざかりゆく荷台の上のボートを眺めながら心残りを口にすると、急に視界が覆われて、体がふわっと軽くなった。
……あれ? 一体どうなった? なんか浮いている様な……。
自分の状況がよく分からず、きょときょと周りを見渡してようやく事態を飲み込むことができた。と、同時に耳元で声がした。
「……ふぅ、間一髪だったな嬢ちゃん」
ボクを助けた人翼滑空機はそのまま風竜の上まで上昇すると、リフトの側に着陸した。
「あ、ありがとう……」
「何、礼なんていらねえよ」
水色の戦闘服に身を包み、耳あたりまである茶色の髪を靡かせながら、男はニマっと笑う。
……でも待って! それどころじゃないよ!
三回目の咆哮が聞こえたのだ。ここままでは風竜は、すぐにでも飛び立ってしまう。
断崖まで駆け寄ると風竜は畳んでいた翼をゆっくりと広げようとしていた。もう本当に時間がない!
どうしよう!? ヴェルナードさんを始め、30人近くがまだ下にいる。
ボクは頭をフル回転させて考えた。だけど、良い考えなんてすぐに思いつくものではない。
……そんな、あんまりだ……こんな……こんなのってないよ。
ヴェルナードやアルフォンス、ジェスターや助けに来てくれたゲートルードにだって、まだちゃんとお礼を言えていない。
皆がいたから何とか風竜までたどり着く事ができた。ボク一人じゃ、何もできやしなかった。それなのに、ボクとマクリーだけが助かるなんて……。
……んん? マクリー?
ボクは急いでリュックを下ろすと、中からズボッとマクリーを引っこ抜いた。周りは皆ギョッと驚いているけど、今はそんな事関係ない!
「———マクリー! 起きてマクリー!」
「……んん? むにゃ。なんですかカズキ。吾輩泣き疲れてもう少し……」
「アンタ! もうとっくに一日以上寝てるわよ! ちょっとマクリー! 風竜が飛び立とうとしてるの! まだ皆が下にいるの! ちょっとだけでもいいから、アンタ何とかできないの!?」
寝ぼけ眼のマクリーは、何とか事情を把握した様だ。
あくびまじりに「わかりました。ちょっと吾輩から言ってみますね」と言うと、トーンの高い幼い咆哮を放った。
その咆哮に応じる様に、風竜の開き始めていた翼がピタッ止まり、小刻みに揺れる振動が収まっていく。
「———早く! 今のうちに皆を引き上げて!」
ボクらの挙動をポカンと見ていたリフトの作業員は、急にスイッチが入ったかの様に動き出す。
早く……早く、上がってきて!
「おいてめえら! なにぼやっと突っ立てるんだ。奴らが乗れる様に手伝ってやれ!」
祈る様な気持ちで見守っていると、地上からギスタの声も響いてきた。
「よし! これで全員無事に搭乗したぞ!」
リフトを操作する部員がそう言うと、マクリーが再度咆哮を放つ。
風竜はその呼び掛けに応え、再び翼を広げ出した。
「ヴェルナード! 約束を忘れたら承知しねえからな!」
風竜の断崖に立つボクたちに、見上げるギスタの声が届いてきた。それを見つめるヴェルナードは小さく頷く。
風竜は完全に翼を広げ、振動と共に動き出す。
そしてゆっくりと浮上を始めると、ボクたちを背に乗せて、再び空の航路へと舵を取るのだった。
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