62 / 80
第一章
第61話 航行部と今後の戦略 〜その2〜
しおりを挟む
「ナターエル。諸々の事情により其方への連絡が遅くなってすまない」
「いえ、お気になさらず。我らの任務は風竜の航路管理が第一優先です。『モン・フェリヴィント』内での禍乱には動じる事なかれと、常々部員に下知しております故」
軽く頭を下げたヴェルナードに対し、ナターエルと呼ばれたその人は掌を見せ恐縮の意を表した。
「……昨日伝書に認めた通り、早速説明を願いたい」
「かしこまりました。ではこちらへ」
護衛の保安部員をその場に残し、ボクとヴェルナード、アルフォンス、クラウスの四人は部屋中央にある緑色の球体の側までナターエルに導かれる。
球体の真下の台座に向かい作業をする部員に声を掛けると、緑色の球体上の一つの光点が強く輝き出す。そしてその光点から一筋の線が延び始めると、球体をぐるりと一周した。
「この光点が風竜の現在位置です。今描かれた軌跡が風竜の航路となります」
ナターエルが台座の部員にもう一度合図を送ると、今度は新しく四つの光点が出現した。四つとも、風竜の航路と言われた光の線にほど近い。
「風竜の航路上から目視するしか手段はなく、この四つの光が、現在航行部が把握している銀幕の所在です」
皆がナターエルの説明を聞きながら球体を凝視しているその間、きっとボクだけは全く別の事を考えていたに違いない。
……こんなSFチックな部署があるだなんて! この部署で働くのも悪くないかも!
ただ、よーく見ると台座の大部分は木製で鉄はあまり使われていなかったり、SF映画でよくある様なスイッチやメカニカルな計器類と言ったものはない。
台座に座るほとんどの部員が鉄製のレバーの様なものを握っているだけだったりと、製作費の安い映画のセットの様ではあるが、マシンやボートをこよなく愛するボクと通づる所は随所にある筈だ。
きっとここの長であるナターエルとは、熱く語り合える気がしてならない。
だけど、この未完成な地球儀みたいなものは一体どういう仕組みなのだろうか。まさかこれも例の加護の力……?
「……ねえ、この緑の球体ももしかして、加護の力ってヤツを使って作っているの?」
「うむ。航行部員が加護の力で、風竜の航路図を具現化しているのだ」
アルフォンスが球体を見上げたままそう答える。
「航路図と言っても、残念ながらそんなに大層なものではないのです。航路を変えない風竜ですから、地形の把握範囲はとても狭いのです」
アルフォンスの返答に、ナターエルが補足した。
確かに言われてみれば、航路を示す光の線の周りには、うっすらとだけど陸地と海を隔てる海岸線らしきものも見える。
ただ、その範囲はあまりにも狭い。他の部分はツルッとした緑色の球体のままだ。
「だけど航行部の任務はそれだけではないのですよ、お嬢さん。この建物の両側に太い鉄管があったでしょう? あれは『風力管』と言って、風竜の両翼まで延びていて、そこに排出口があるのです。航行部は加護の力を『風力管』に送り込み、風竜の航路を変えて、デブリの衝突や厚い雲に覆われない様にしているのです。まあもっとも、航路を変えると言っても、舵を切るくらいの事しかできませんけどね」
なんと数十人がかりでこの風竜を微力ながらも操縦していると言うではないか!
これはもう、立派な操縦者と言っても過言ではないだろう。それにボクを「お嬢さん」と呼んだ事にも、高ポイントを付けたいと思う。
……うん! このダンディーなオジサマとはマブダチになれそうな予感がするよ!
引き締まった表情に心地よい笑みを浮かべたナターエルに、ボクもとびっきりの笑顔で返す。操縦者同士の気持ちが通い合った瞬間だ。
「さて、『モン・フェリヴィント』について全くの知識がないカズキへの講習会はこれで終了しても良いだろうか。そろそろ本題へと入りたいのだが、まだ何か聞き足りない事があるのなら、後々になると煩わしいので今のうちに拝聴するがいい」
せっかくのいい気分がぶち壊しだよヴェルナードさん!! 言い方! 言い方をもっと考えようよ!
ボクがプイッと横を向くと、ヴェルナードがため息と同時に本題に入る。
「ナターエル。一番近い銀幕と次に近い銀幕までの日程を算出して欲しい」
「かしこまりました。……皆、聞いたであろう。すぐに準備に取り掛かるのだ」
航行部員たちの小気味よい返事が、ナターエルの言葉の後を追った。
「いえ、お気になさらず。我らの任務は風竜の航路管理が第一優先です。『モン・フェリヴィント』内での禍乱には動じる事なかれと、常々部員に下知しております故」
軽く頭を下げたヴェルナードに対し、ナターエルと呼ばれたその人は掌を見せ恐縮の意を表した。
「……昨日伝書に認めた通り、早速説明を願いたい」
「かしこまりました。ではこちらへ」
護衛の保安部員をその場に残し、ボクとヴェルナード、アルフォンス、クラウスの四人は部屋中央にある緑色の球体の側までナターエルに導かれる。
球体の真下の台座に向かい作業をする部員に声を掛けると、緑色の球体上の一つの光点が強く輝き出す。そしてその光点から一筋の線が延び始めると、球体をぐるりと一周した。
「この光点が風竜の現在位置です。今描かれた軌跡が風竜の航路となります」
ナターエルが台座の部員にもう一度合図を送ると、今度は新しく四つの光点が出現した。四つとも、風竜の航路と言われた光の線にほど近い。
「風竜の航路上から目視するしか手段はなく、この四つの光が、現在航行部が把握している銀幕の所在です」
皆がナターエルの説明を聞きながら球体を凝視しているその間、きっとボクだけは全く別の事を考えていたに違いない。
……こんなSFチックな部署があるだなんて! この部署で働くのも悪くないかも!
ただ、よーく見ると台座の大部分は木製で鉄はあまり使われていなかったり、SF映画でよくある様なスイッチやメカニカルな計器類と言ったものはない。
台座に座るほとんどの部員が鉄製のレバーの様なものを握っているだけだったりと、製作費の安い映画のセットの様ではあるが、マシンやボートをこよなく愛するボクと通づる所は随所にある筈だ。
きっとここの長であるナターエルとは、熱く語り合える気がしてならない。
だけど、この未完成な地球儀みたいなものは一体どういう仕組みなのだろうか。まさかこれも例の加護の力……?
「……ねえ、この緑の球体ももしかして、加護の力ってヤツを使って作っているの?」
「うむ。航行部員が加護の力で、風竜の航路図を具現化しているのだ」
アルフォンスが球体を見上げたままそう答える。
「航路図と言っても、残念ながらそんなに大層なものではないのです。航路を変えない風竜ですから、地形の把握範囲はとても狭いのです」
アルフォンスの返答に、ナターエルが補足した。
確かに言われてみれば、航路を示す光の線の周りには、うっすらとだけど陸地と海を隔てる海岸線らしきものも見える。
ただ、その範囲はあまりにも狭い。他の部分はツルッとした緑色の球体のままだ。
「だけど航行部の任務はそれだけではないのですよ、お嬢さん。この建物の両側に太い鉄管があったでしょう? あれは『風力管』と言って、風竜の両翼まで延びていて、そこに排出口があるのです。航行部は加護の力を『風力管』に送り込み、風竜の航路を変えて、デブリの衝突や厚い雲に覆われない様にしているのです。まあもっとも、航路を変えると言っても、舵を切るくらいの事しかできませんけどね」
なんと数十人がかりでこの風竜を微力ながらも操縦していると言うではないか!
これはもう、立派な操縦者と言っても過言ではないだろう。それにボクを「お嬢さん」と呼んだ事にも、高ポイントを付けたいと思う。
……うん! このダンディーなオジサマとはマブダチになれそうな予感がするよ!
引き締まった表情に心地よい笑みを浮かべたナターエルに、ボクもとびっきりの笑顔で返す。操縦者同士の気持ちが通い合った瞬間だ。
「さて、『モン・フェリヴィント』について全くの知識がないカズキへの講習会はこれで終了しても良いだろうか。そろそろ本題へと入りたいのだが、まだ何か聞き足りない事があるのなら、後々になると煩わしいので今のうちに拝聴するがいい」
せっかくのいい気分がぶち壊しだよヴェルナードさん!! 言い方! 言い方をもっと考えようよ!
ボクがプイッと横を向くと、ヴェルナードがため息と同時に本題に入る。
「ナターエル。一番近い銀幕と次に近い銀幕までの日程を算出して欲しい」
「かしこまりました。……皆、聞いたであろう。すぐに準備に取り掛かるのだ」
航行部員たちの小気味よい返事が、ナターエルの言葉の後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる