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第一章
第62話 航行部と今後の戦略 〜その3〜
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ナターエルが指示を出すと、球体下の部員たちが台座に付いている連なった小さな球体をパチパチ弾き出す。
あれは確か……おじいちゃんの家で見た事がある算盤ってヤツに似ていると思う。ここ『モン・フェリヴィント』の計算機なのだろうか。
パチパチ鳴り響く音が次第に鳴り止むと、緑色の球体上の風竜を表す光点から一番近い銀幕を表す光点まで、航路を表す線の上に、別の色の破線が浮かび上がる。
続いて二番目の銀幕を表す光点まで、さらに別の色の破線が出現した。破線の上には数字も表示されている。
「一番近い銀幕までは五日後、二番目に近い銀幕までは18日後となります」
ナターエルの回答を、目を瞑りながらヴェルナードは聞いていた。他の二本の銀幕の日数をあえて表示しなかったのは、その光点が風竜の進行方向とは逆側に位置しているからだろう。
「ナターエル、仮に現航路上から途中進路を変え、最短距離で銀幕に進んだ場合の所要時間を算出して欲しい。……カズキ。マクリー殿をこれへ」
ナターエル指示の元、新たに計算を始めるパチパチ音が鳴り響く中、ボクは背負ったリュックを下ろして、中にいるマクリーをズボっと引っこ抜いた。
ナターエルを始め周りにいた航行部の面々が、驚きの声を上げる。
「マクリー。マクリーったら! 起きて! アンタ寝ている時間が長いのよ! いっつもアンタを背負っている、ボクの身にもなってくれよ!」
寝ぼけ眼のマクリーの頭をペチペチ叩くボクを見て、アルフォンスが「カズキ、余り手荒なマネは……」と困った顔で狼狽えている。
その存在はヴェルナードから伝えられていたとは言えマクリーを初めて見たナターエルは見開いた目を、欠伸をしながら目を擦る小さい竜から離せないでいた。
「むにゃむにゃ……おはようですカズキ。もうご飯の時間ですか?」
「ご飯はここに来る前に食べたでしょ! ……ってアンタとそんなコントやってる場合じゃないの! マクリーの出番よ! ほら、しっかり目を開けて!」
ボクがマクリーをペシペシ叩き、ユサユサ揺すっているその間に、航行部員の一人から「算出、出ます!」との声が響く。緑色の球体には銀幕まで繋がる新たな破線と数字が表示された。その数字は「1.2」と「2」だ。
「マクリー殿。二時間ほど風竜と意思を通わせ、その航路を意のままに変更する事は可能だろうか」
「むにゃ……二時間ですか。……ええ、それ位ならなんて事ないのです。吾輩、風竜の後継竜ですから」
場を取り巻く一同から「おお!」とどよめきが響く。
今まで同じルートしか航行しなかった風竜を操れると言ったのだ。航行部員からしてみればその発言は驚愕に値するのだろう。
「で、どうしますか? 五日後の一番近い銀幕から攻めますかね?」
「いや……最初の銀幕は、まず航空戦闘部による偵察だけとする。その結果報告を吟味した後、18日後に近づく二番目の銀幕破壊を目標に据え、戦略を組み立てるとしよう」
クラウスの進言にヴェルナードがそう答える。
確かに慎重なヴェルナードじゃないにしろ、いきなり無策で銀幕に近づくのは危険だと思う。ボクもその意見に賛成だ。
「これでようやく航空戦闘部にもお鉢が回ってきたぜ」と、アルフォンスの方を向き挑発的な態度をとるクラウスは、どこか気持ちがはやっている様にも見える。
五日後は厳しいとしても……18日後か。それまでに、ボクのボートの改造は終わるかな?
半ば強制的でも、明日から航空戦闘部に転属になるのだ。
そしてボートの改造が終われば、またあの雲の海原を疾走できるかもしれない。それには大義名分が必要だ。ボクもその『銀幕破壊大作戦』の仲間に入れてもらわないと!
「前方2000に大雲海を確認! 北東へ向けて旋回します! 左翼の風力管より風力を放出! 出力七割でいきます!」
突然、前方のガラス窓に面して座る航行部員の一人が、連なる伝声管の一つに耳を当てながらそう叫ぶと、部員たちの握るレバーが緑色に発光する。
加護の力をレバーに送り込んでいるのだろうか。
暫くすると軽い振動と共に、前方を映し出すガラス窓の景色が右へ右へと向かって行き、風竜の航路がわずかに右へと修正された。
『モン・フェリヴィント』で暮らす日々の中、時々僅かな振動を感じる事があった。マシンで走っていれば気付きさえしない微弱な振動だ。その原因は航行部による風竜の、微弱ながらも航路変更だったのかと、ボクは納得した。
「ナターエル様! 無理をなさらず!」
航行部員の何人かが、心配そうにナターエルに駆け寄った。
毅然とした立ち姿のナターエルはそれを手で制す。
だけど何かおかしい。顔中には脂汗を滲ませている。
「ヴェルナード様の御前である。無様な姿を晒す訳には…………」
「……ナターエル。無理をするな。私に構わず横になるがいい」
「……航行部のリーダーとしてこの体たらく。誠に申し訳なく…………うぷ」
口を押さえたナターエルは、航行部員に肩を借りながらその場を後にした。
「ど、どうしたのナターエルさん……急に具合が悪くなったみたいだけど。もしかして持病とか持っているの?」
「……ナターエル殿は非常に優秀な将校なのだが、異常なまでに乗り物酔いしやすい体質なのだ……」
アルフォンスが憐れみの表情を向けた先には、椅子を並べて横になっているナターエルの姿が見えた。
額には、濡れた布が置かれている。
それを見てボクは、やっぱりナターエルとは分かり合えないなと思いつつ、結局のところ『モン・フェリヴィント』の将校にはまともな人は少ないのかなと、不安を感じざるを得なかった。
あれは確か……おじいちゃんの家で見た事がある算盤ってヤツに似ていると思う。ここ『モン・フェリヴィント』の計算機なのだろうか。
パチパチ鳴り響く音が次第に鳴り止むと、緑色の球体上の風竜を表す光点から一番近い銀幕を表す光点まで、航路を表す線の上に、別の色の破線が浮かび上がる。
続いて二番目の銀幕を表す光点まで、さらに別の色の破線が出現した。破線の上には数字も表示されている。
「一番近い銀幕までは五日後、二番目に近い銀幕までは18日後となります」
ナターエルの回答を、目を瞑りながらヴェルナードは聞いていた。他の二本の銀幕の日数をあえて表示しなかったのは、その光点が風竜の進行方向とは逆側に位置しているからだろう。
「ナターエル、仮に現航路上から途中進路を変え、最短距離で銀幕に進んだ場合の所要時間を算出して欲しい。……カズキ。マクリー殿をこれへ」
ナターエル指示の元、新たに計算を始めるパチパチ音が鳴り響く中、ボクは背負ったリュックを下ろして、中にいるマクリーをズボっと引っこ抜いた。
ナターエルを始め周りにいた航行部の面々が、驚きの声を上げる。
「マクリー。マクリーったら! 起きて! アンタ寝ている時間が長いのよ! いっつもアンタを背負っている、ボクの身にもなってくれよ!」
寝ぼけ眼のマクリーの頭をペチペチ叩くボクを見て、アルフォンスが「カズキ、余り手荒なマネは……」と困った顔で狼狽えている。
その存在はヴェルナードから伝えられていたとは言えマクリーを初めて見たナターエルは見開いた目を、欠伸をしながら目を擦る小さい竜から離せないでいた。
「むにゃむにゃ……おはようですカズキ。もうご飯の時間ですか?」
「ご飯はここに来る前に食べたでしょ! ……ってアンタとそんなコントやってる場合じゃないの! マクリーの出番よ! ほら、しっかり目を開けて!」
ボクがマクリーをペシペシ叩き、ユサユサ揺すっているその間に、航行部員の一人から「算出、出ます!」との声が響く。緑色の球体には銀幕まで繋がる新たな破線と数字が表示された。その数字は「1.2」と「2」だ。
「マクリー殿。二時間ほど風竜と意思を通わせ、その航路を意のままに変更する事は可能だろうか」
「むにゃ……二時間ですか。……ええ、それ位ならなんて事ないのです。吾輩、風竜の後継竜ですから」
場を取り巻く一同から「おお!」とどよめきが響く。
今まで同じルートしか航行しなかった風竜を操れると言ったのだ。航行部員からしてみればその発言は驚愕に値するのだろう。
「で、どうしますか? 五日後の一番近い銀幕から攻めますかね?」
「いや……最初の銀幕は、まず航空戦闘部による偵察だけとする。その結果報告を吟味した後、18日後に近づく二番目の銀幕破壊を目標に据え、戦略を組み立てるとしよう」
クラウスの進言にヴェルナードがそう答える。
確かに慎重なヴェルナードじゃないにしろ、いきなり無策で銀幕に近づくのは危険だと思う。ボクもその意見に賛成だ。
「これでようやく航空戦闘部にもお鉢が回ってきたぜ」と、アルフォンスの方を向き挑発的な態度をとるクラウスは、どこか気持ちがはやっている様にも見える。
五日後は厳しいとしても……18日後か。それまでに、ボクのボートの改造は終わるかな?
半ば強制的でも、明日から航空戦闘部に転属になるのだ。
そしてボートの改造が終われば、またあの雲の海原を疾走できるかもしれない。それには大義名分が必要だ。ボクもその『銀幕破壊大作戦』の仲間に入れてもらわないと!
「前方2000に大雲海を確認! 北東へ向けて旋回します! 左翼の風力管より風力を放出! 出力七割でいきます!」
突然、前方のガラス窓に面して座る航行部員の一人が、連なる伝声管の一つに耳を当てながらそう叫ぶと、部員たちの握るレバーが緑色に発光する。
加護の力をレバーに送り込んでいるのだろうか。
暫くすると軽い振動と共に、前方を映し出すガラス窓の景色が右へ右へと向かって行き、風竜の航路がわずかに右へと修正された。
『モン・フェリヴィント』で暮らす日々の中、時々僅かな振動を感じる事があった。マシンで走っていれば気付きさえしない微弱な振動だ。その原因は航行部による風竜の、微弱ながらも航路変更だったのかと、ボクは納得した。
「ナターエル様! 無理をなさらず!」
航行部員の何人かが、心配そうにナターエルに駆け寄った。
毅然とした立ち姿のナターエルはそれを手で制す。
だけど何かおかしい。顔中には脂汗を滲ませている。
「ヴェルナード様の御前である。無様な姿を晒す訳には…………」
「……ナターエル。無理をするな。私に構わず横になるがいい」
「……航行部のリーダーとしてこの体たらく。誠に申し訳なく…………うぷ」
口を押さえたナターエルは、航行部員に肩を借りながらその場を後にした。
「ど、どうしたのナターエルさん……急に具合が悪くなったみたいだけど。もしかして持病とか持っているの?」
「……ナターエル殿は非常に優秀な将校なのだが、異常なまでに乗り物酔いしやすい体質なのだ……」
アルフォンスが憐れみの表情を向けた先には、椅子を並べて横になっているナターエルの姿が見えた。
額には、濡れた布が置かれている。
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