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第一章
第67話 カズキの決意
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普段はおちゃらけたクラウスが語気を強めて言うのに対し、ボクもキッと睨んで真っ向から張り合った。
ここは一歩も引く訳にはいかない。
「……詳細を説明して欲しい」
ヴェルナードが静かにそう言うと、ボクは昨日の出来事を説明した。
正直な所『モン・フェリヴィント』に存在しないラジオ波については上手く伝える自信がない。
ボクの拙い説明に案の定ヴェルナードが事細かにつっこみを入れてきたけど、それに何とか答えていると、意外にもスムーズに納得してくれた。
「……つまりは、カズキのいた世界には音を遠方に拡散する技術があり、その受信装置が銀幕に近付いたら作動した、と言う事で相違ないだろうか」
「そう! まさにその通りだよ! さっすがヴェルナードさん、理解が早い!」
「……カズキの言っている事は本当じゃよ。ワシもその音を聞いたでのぅ。ワシはそれを証言する為に、この場に呼ばれたって訳じゃ」
「まさか、銀幕の内部はカズキの世界と繋がっているとでも言うのか……?」
ヘルゲが証人としてボクの説明を後押すと、ヴェルナードが眉根を寄せて考え込む。
他の皆もラジオが鳴った事象について、それが心許ない細い糸だけどボクの世界へ繋がる可能性だと、それなりに理解してくれた様だ。
「ちょい待ってくれよ……詳しい理屈はからっきしだが、嬢ちゃんの元の世界に帰る手がかりが、銀幕内にあるかもしれないってのは俺にも分かった。それに嬢ちゃんの気持ちだって分かる。だけど飛行に関してはまだ素人同然の嬢ちゃんには危険すぎるだろう? ……今回は俺たち突撃隊が嬢ちゃんの分まで調査してくるってんじゃ、ダメなのかい?」
理解した上でそう言ったクラウスは、本気でボクの身を心配してくれているのだと心の芯がじんわりと熱くなる。普段の飄々とした表情は一片も見当たらない。
「……心配ありがとうクラウスさん。だけどさ、銀幕の破壊はこの世界の創造者……母竜の意思で『モン・フェリヴィント』はそれに全力を尽くして欲しいんだ。ボクがボクの世界に帰る方法を見つけるのは、あくまでもボク個人の問題だよ。ボクはね『モン・フェリヴィント』の事を仲間だと思っているんだ。ジェスターだってそうさ。自分の出来る事を見つけ出し、精一杯努力している。……そんな仲間たちに、自分だけの都合を押し付けて自分一人がのうのうと留守番しているなんて、ボクにはできないんだよ!」
皆を仲間だと思う気持ちに嘘はない。だからこそ、これはボクだけの問題なのだ。
地上で手がかりが得られなかった時には落胆したけど、心のどこかに少しだけ安堵の気持ちもあった事は事実だ。
帰れないのであれば、このままでもいいかもしれないとも思ってた。
……なのに、それなのに。
いざ元の世界への繋がりが現れれば、惨めにもそれにしがみついてしまう自分がいる。『モン・フェリヴィント』を去る離愁の念と比べてしまう、卑怯で軟弱で矮小な自分だ。
そんなどっちつかずの煮え切らない気持ちのままで、ボクの個人的な都合の為に仲間と認めた人たちへ「ここでの生活は名残惜しいけど、帰る方法もあれば知っときたいので、すみませんが命を賭けてください」なんて絶対に言いたくない。
———言えるもんか!
唇を噛み締めるボクをヴェルナードの視線が射抜く。普段から感情を表に出さないこの人は、本当につかみどころがない。
だけど、その瞳には『モン・フェリヴィント』の皆を見る時と変わらない、威厳の奥に見え隠れする優しい光が感じられた。
「……次の銀幕までは12日後だ。それまでにボートの改造を終え、且つ三日間の飛行訓練を修了出来たのなら、カズキの同行も許可しよう」
「———ありがとう、ヴェルナードさん!」
ここは一歩も引く訳にはいかない。
「……詳細を説明して欲しい」
ヴェルナードが静かにそう言うと、ボクは昨日の出来事を説明した。
正直な所『モン・フェリヴィント』に存在しないラジオ波については上手く伝える自信がない。
ボクの拙い説明に案の定ヴェルナードが事細かにつっこみを入れてきたけど、それに何とか答えていると、意外にもスムーズに納得してくれた。
「……つまりは、カズキのいた世界には音を遠方に拡散する技術があり、その受信装置が銀幕に近付いたら作動した、と言う事で相違ないだろうか」
「そう! まさにその通りだよ! さっすがヴェルナードさん、理解が早い!」
「……カズキの言っている事は本当じゃよ。ワシもその音を聞いたでのぅ。ワシはそれを証言する為に、この場に呼ばれたって訳じゃ」
「まさか、銀幕の内部はカズキの世界と繋がっているとでも言うのか……?」
ヘルゲが証人としてボクの説明を後押すと、ヴェルナードが眉根を寄せて考え込む。
他の皆もラジオが鳴った事象について、それが心許ない細い糸だけどボクの世界へ繋がる可能性だと、それなりに理解してくれた様だ。
「ちょい待ってくれよ……詳しい理屈はからっきしだが、嬢ちゃんの元の世界に帰る手がかりが、銀幕内にあるかもしれないってのは俺にも分かった。それに嬢ちゃんの気持ちだって分かる。だけど飛行に関してはまだ素人同然の嬢ちゃんには危険すぎるだろう? ……今回は俺たち突撃隊が嬢ちゃんの分まで調査してくるってんじゃ、ダメなのかい?」
理解した上でそう言ったクラウスは、本気でボクの身を心配してくれているのだと心の芯がじんわりと熱くなる。普段の飄々とした表情は一片も見当たらない。
「……心配ありがとうクラウスさん。だけどさ、銀幕の破壊はこの世界の創造者……母竜の意思で『モン・フェリヴィント』はそれに全力を尽くして欲しいんだ。ボクがボクの世界に帰る方法を見つけるのは、あくまでもボク個人の問題だよ。ボクはね『モン・フェリヴィント』の事を仲間だと思っているんだ。ジェスターだってそうさ。自分の出来る事を見つけ出し、精一杯努力している。……そんな仲間たちに、自分だけの都合を押し付けて自分一人がのうのうと留守番しているなんて、ボクにはできないんだよ!」
皆を仲間だと思う気持ちに嘘はない。だからこそ、これはボクだけの問題なのだ。
地上で手がかりが得られなかった時には落胆したけど、心のどこかに少しだけ安堵の気持ちもあった事は事実だ。
帰れないのであれば、このままでもいいかもしれないとも思ってた。
……なのに、それなのに。
いざ元の世界への繋がりが現れれば、惨めにもそれにしがみついてしまう自分がいる。『モン・フェリヴィント』を去る離愁の念と比べてしまう、卑怯で軟弱で矮小な自分だ。
そんなどっちつかずの煮え切らない気持ちのままで、ボクの個人的な都合の為に仲間と認めた人たちへ「ここでの生活は名残惜しいけど、帰る方法もあれば知っときたいので、すみませんが命を賭けてください」なんて絶対に言いたくない。
———言えるもんか!
唇を噛み締めるボクをヴェルナードの視線が射抜く。普段から感情を表に出さないこの人は、本当につかみどころがない。
だけど、その瞳には『モン・フェリヴィント』の皆を見る時と変わらない、威厳の奥に見え隠れする優しい光が感じられた。
「……次の銀幕までは12日後だ。それまでにボートの改造を終え、且つ三日間の飛行訓練を修了出来たのなら、カズキの同行も許可しよう」
「———ありがとう、ヴェルナードさん!」
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