竜の背に乗り見る景色は

蒼之海

文字の大きさ
68 / 80
第一章

第67話 カズキの決意

しおりを挟む
 普段はおちゃらけたクラウスが語気を強めて言うのに対し、ボクもキッと睨んで真っ向から張り合った。

 ここは一歩も引く訳にはいかない。


「……詳細を説明して欲しい」


 ヴェルナードが静かにそう言うと、ボクは昨日の出来事を説明した。

 正直な所『モン・フェリヴィント』に存在しないラジオ波については上手く伝える自信がない。

 ボクの拙い説明に案の定ヴェルナードが事細かにつっこみを入れてきたけど、それに何とか答えていると、意外にもスムーズに納得してくれた。


「……つまりは、カズキのいた世界には音を遠方に拡散する技術があり、その受信装置が銀幕に近付いたら作動した、と言う事で相違ないだろうか」

「そう! まさにその通りだよ! さっすがヴェルナードさん、理解が早い!」

「……カズキの言っている事は本当じゃよ。ワシもその音を聞いたでのぅ。ワシはそれを証言する為に、この場に呼ばれたって訳じゃ」

「まさか、銀幕の内部はカズキの世界と繋がっているとでも言うのか……?」


 ヘルゲが証人としてボクの説明を後押すと、ヴェルナードが眉根を寄せて考え込む。

 他の皆もラジオが鳴った事象について、それが心許ない細い糸だけどボクの世界へ繋がる可能性だと、それなりに理解してくれた様だ。


「ちょい待ってくれよ……詳しい理屈はからっきしだが、嬢ちゃんの元の世界に帰る手がかりが、銀幕内にあるかもしれないってのは俺にも分かった。それに嬢ちゃんの気持ちだって分かる。だけど飛行に関してはまだ素人同然の嬢ちゃんには危険すぎるだろう? ……今回は俺たち突撃隊が嬢ちゃんの分まで調査してくるってんじゃ、ダメなのかい?」


 理解した上でそう言ったクラウスは、本気でボクの身を心配してくれているのだと心の芯がじんわりと熱くなる。普段の飄々とした表情は一片も見当たらない。


「……心配ありがとうクラウスさん。だけどさ、銀幕の破壊はこの世界の創造者……母竜の意思で『モン・フェリヴィントみんな』はそれに全力を尽くして欲しいんだ。ボクがボクの世界に帰る方法を見つけるのは、あくまでもボク個人の問題だよ。ボクはね『モン・フェリヴィントみんな』の事を仲間だと思っているんだ。ジェスターだってそうさ。自分の出来る事を見つけ出し、精一杯努力している。……そんな仲間たちに、自分だけの都合を押し付けて自分一人がのうのうと留守番しているなんて、ボクにはできないんだよ!」


 皆を仲間だと思う気持ちに嘘はない。だからこそ、これはボクだけの問題なのだ。

 地上で手がかりが得られなかった時には落胆したけど、心のどこかに少しだけ安堵の気持ちもあった事は事実だ。

 帰れないのであれば、このままでもいいかもしれないとも思ってた。


 ……なのに、それなのに。


 いざ元の世界への繋がりが現れれば、惨めにもそれにしがみついてしまう自分がいる。『モン・フェリヴィント』を去る離愁りしゅうの念と比べてしまう、卑怯で軟弱で矮小な自分だ。

 そんなどっちつかずの煮え切らない気持ちのままで、ボクの個人的な都合の為に仲間と認めた人たちへ「ここでの生活は名残惜しいけど、帰る方法もあれば知っときたいので、すみませんが命を賭けてください」なんて絶対に言いたくない。

 ———言えるもんか!


 唇を噛み締めるボクをヴェルナードの視線が射抜く。普段から感情を表に出さないこの人は、本当につかみどころがない。

 だけど、その瞳には『モン・フェリヴィント』の皆を見る時と変わらない、威厳の奥に見え隠れする優しい光が感じられた。


「……次の銀幕までは12日後だ。それまでにボートの改造を終え、且つ三日間の飛行訓練を修了出来たのなら、カズキの同行も許可しよう」


「———ありがとう、ヴェルナードさん!」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...