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第一章 幸せのありか
38 side樹理
しおりを挟むあんかけのチャーハンと中華スープ。野菜餃子。
神崎家の昼食はいつもの倍やかましくて時間がかかった。
桜も椿も樹理に構いたくて仕方なかったらしい。
眠っている樹理は本当にお人形のようで、彼女達は用もないのに何度も寝ているところを見に行っていた。綺麗なお姉さんは起きても綺麗でしかもその瞳がとてもやさしくて、桜も椿も一瞬で樹理のことが好きになった。にっこりと笑って綺麗な声で名前を呼んでほしくて、どうにかして自分のほうに樹理の興味を引きたくてたまらないのだ。
「お前等もうちょっと静かに食え!! 静かに!!」
耐えきれなくなった速人が叱っても二人の娘たちはへこたれることなく樹理ちゃん樹理ちゃんと病みあがりの人間にべたべたとくっついてあれもこれもと樹理の皿に盛っていく。樹理に食事を摂らせることについては速人も反対しないで見ている。
「そうそう、樹理ちゃんたくさん食べないとだめよ? ダイエットとかしてるの?」
「いえ……しようと思ってもいつも失敗してるから……最近は特にしてないです」
「じゃあご飯、ちゃんと食べてるの?」
理右湖に問われて、答えられなかった。最近は、確かに意識してダイエットしようとは思わなかったけれど家では味見に毛が生えたくらいしか食べていない。学食もミニうどんとかおにぎりだけでお腹がいっぱいになるのでちゃんと食べていないことは事実だ。
「今日のご飯、おいしかった?」
「はい。すごくおいしかったです」
本当に、おいしかった。久しぶりに、ご飯がおいしいと感じた。誰かが作ってくれたものを誰かと、こんな風に食べるだけで、何倍も料理がおいしくなるのだということを忘れかけていた。
学校でも、通学時間が増えたことと、家事をすることで放課後はすぐに帰ってしまうようになった樹理はもともと少なかった友人とも疎遠になってしまった。誘っても断る樹理をだれも遊びに誘わなくなった。テレビを見ることもなくなったので、話題について行けなくなった。三学期が始まった時には昼休みも一人になってしまって学校でも必要最低限の挨拶や伝言くらいしかしゃべることはなくなった。誰かにこんな風に構ってもらったのは、本当に久しぶりだった。
「そう? 良かった」
理右湖がふわりと微笑んだ。誰かにこんな風に笑いかけてもらったのは、どのくらい前だっただろう。話の間にいつ切り込もうかと、うずうずしながら狙っていた桜と椿が『お母さんの料理はいっつもおいしいよ』『おべんとうもすごいんだよ』とまたぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
「……ちゃんとご飯、食べてるかなぁ」
箸を置いた樹理が、小さな声でつぶやくのを速人は聞き逃さなかったらしい。
「育ち盛りがあんな偏食に付き合う必要なんかない。大体金持ちのくせに肉が鳥しか食えないなんてどうかしてる。だからアイツが一番チビなんだよ」
それだけ言うと、娘二人の余りのやかましさに速人は早々に食事を切り上げて表の診療所に逃げてしまった。その背中を見送りながら理右湖が男ってだらしがないわねぇと笑っていた。
「神崎さんって確かに背が高いけど……」
チビ。と言われても、哉の身長は百七十は越えているだろう。確かにこの家のかもいで頭を打ちそうな速人に比べたら小さいかもしれないけれど百五十しか身長のない樹理からしてみたら哉だって充分背が高いと思う。ただし横幅が足らないので、実際より小さく見えるのは事実だけれど。
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