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第一章 幸せのありか
51 side樹理
しおりを挟むカレイの煮付け、ほうれん草とちりめんじゃこのおひたし、鳥ごぼうご飯、かぼちゃの味噌汁。
それを見た瞬間、哉がなんだか複雑そうな顔をした。
「あの、理右湖さんに聞いて……その、氷川さんの好きなもの……あっ おみかんも買ってきました!」
昨日の昼食の片づけを手伝っていたら、理右湖が教えてくれたのだ。以前無理やり遊びに来させた時に好きなものを作ってあげるからと言ったら哉のリクエストはこれだったらしい。もっともその日は桜と椿にしこたま遊ばれたそうなので、好物に釣られて行ったモトが取れているかどうかはあやしいのだが。
みかんの方の情報源は速人だ。なんでも冬場は寮の部屋に箱で買ってきて置いて、毎日毎日食べていたらしい。金などいくらでも持っているのだからメロンかナニか買って来いよと言ったら、メロンはきらいだからとそっけなく言われたそうだ。金銭感覚はおかしいのに、なぜか舌だけ庶民感覚を忘れないのは、絶対どこか回路が変なのだと速人が力説していた。みかんについては勝手に食べても怒らなかったそうなので、箱で買っても半分は誰かに集(たか)られていたらしい。
「あの……嫌いなものとか、ありましたか?」
あの理右湖が嘘を言うことはないだろうがそれから後に嫌いになったものがあったかもしれない。眉を動かしただけの哉に樹理はだんだん不安になってくる。
無言の否定で哉がそのまま席につくのを見て樹理がほっと息をついて哉の前の席につく。
「いただきます」
きちんと両手を合わせてそう言った樹理に目を向ける。自然と哉の視界に樹理の前の食事が映った。
哉のぶんに盛られた量の三分の一ほどしか入っていない。
「どうしてそれだけしかいれないんだ」
「え? あ、えっと、私、先に、少しいただいて………」
じっと哉に睨まれて、樹理の弁解が途切れて、正直に白状した。
「……すいません。どうせ私、食べないから、あんまりたくさん作ってなかったんです」
作りすぎてももったいないからとほとんど毎日哉の分に少し足しただけしか作っていなかった。カレイの煮付けは失敗したら困るから、予備にと二切れ作ったのだが。
しゅんと俯いてそう言った樹理に、哉がため息をついた音と立ちあがる音が聞こえた。
次の瞬間、量の少ないご飯茶碗に、がつ、とご飯が入れられる。
見上げるとわざわざ立って……立たないと届かないのだから仕方がないのだが……立って、樹理の茶碗に自分の分を半分、入れ終わって座りかけた哉が見えた。
「あ、の……?」
「いいから食え。でないと俺がまた速人に殴られる。明日からはちゃんと二人分用意しておけ」
再びイスに掛け直して、目をそらしたまま哉がそう言って、そのあとはもうなにも喋る気がないとでも言うようなそぶりで箸を動かしている。
「……はい」
この気遣いが誰かに強制されたものだとしても、嬉しかった。ずっと、哉とこうして食べたかったのだと、気付いてまた切なくなった。
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