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第二章 恋におちたら
20 side哉
しおりを挟むカット用の椅子をくるくる回しながら楽しそうに笑っているのは、次能都織(つぐのうとおる)。哉のひとつ上の先輩で、哉の親友を執行部長に任命したその人だ。
哉の親友も、やることなすこと非常識ではあったが、多分この人も別の意味で負けていなかったと思い出す。
高校時代はもとより、大学に入ってからも哉たちは時々都織の異母兄にあたると言う後ろではさみを操る緒方未来の練習台になってきた。練習台とはいえ、未来は本当に腕のたつ美容師だったし、ただでしてもらえるのならありがたいくらいだったのだが、ただより高いものはないの例えどおり、このやかましい人がオマケについてくるのだ。
「ほーんとにねぇ びっくりしたよぅ 哉ちゃんが副社長! 大学入った辺りから徐々にしゃべるようになってたとはいえ、人の上に立てるくらい意思表示が可能になったなんてお兄様ってばびっくりよ」
くるくる回りながらそういった後、止まって、運ばれてきた普通のグラスに入ったマンゴージュースからストローを抜き取って直にグラスに口をつけておいしそうに一気飲みして、やっぱりバケツで飲みたいと量の少なさに不満を漏らしている。
「可能ですよ。物心ついたときにはトップに立つことを教え込まれて育ちましたからね、あなたと同じく」
「うわー 嫌味まで言うようになった。成長したねというべきか、前のほうがかわいかったのにって残念がるべきか、どっちにしようかな」
先ほどとは逆に回りながら、言葉とは裏腹に楽しそうだ。
「先輩こそどうなんですか? 観念して事業を継いだら? その顔ならコマーシャルだって自分で出られるでしょう」
「顔がいいのは事実だから素直にほめ言葉と受け取っておこう。でもウチはまだ母上がバリバリ現役だからねぇ 僕の入る隙はナシ。それに顔さらしたら面倒だし。いろいろ」
都織の母は一代でエステサロンを立ち上げ、今や全国展開の最大手まで成長させた超やり手の女性事業家だ。もちろん、コマーシャルは顔もスタイルも知名度も抜群の女優を使って全国ネットで流れている。
最後のほうの少しトーンを落とした言いかたに、哉も思い当り、さすがに相手のペースに従いすぎたかと口をつぐむ。が、相手はそうではなかった。なにやら思いついたらしく、もともと星が浮いたようなきれいな瞳をさらにきらきらと瞬かせて夢を見るような口調でうっとりとのたまわった。
「……ああ……でも芸能界入ったら好葉(このは)ちゃんともっと一緒にいる時間が増えるかなぁ」
「増えない。むしろ減る。確実に減る。やめときなさい、都織」
うふふふふーととろけたように微笑む顔はキラキラと輝いている。そんな都織をちらりと一瞥して、しゃべらずにはさみを動かしていた未来が断言した。
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