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第二章 恋におちたら
37 side樹理
しおりを挟む一皮向けるとはこういうことを言うのか。あるいは、一回り縮まると言うのか。
顎が細くなったとか、肌の色が良くなったとか、ぱっと見てわかる以外にも、体が軽くなったのだ。二時間ほどの間に。体験しろと言った香織が自信たっぷりだったのもうなずける。
エステが終わってみんなすっぴんで帰るわけにはいかないのだろう、美容室のようなところもあって、夕方からの予定を伝えると「じゃあちょっと気合入れちゃおうかな」と、着ていく服や場所を詳しく聞いてくれて、どこをどうと言わなくても髪はかわいく結われて生花に特別な加工をした小さな薔薇まで飾ってもらった。
髪を整えて高そうな化粧品を使って化粧もしてもらったら、鏡の中に自分がいるとはちょっと信じられない気分だ。生まれて初めてまつげを上げる妙な器具を見たと言う樹理にメイクを施してくれたきれいなお姉さんがびっくりしていた。
パーティーに連れて行かれると聞いて、頭や顔をどうしようかと思っていたので、これは素直にうれしかった。
「やっぱり! 磨いたら輝いたわ!!」
真里菜が目をキラキラさせ、両手を祈るように組んでうれしそうに笑っている。
「絶対きれい。なんとなく自信がわいてこない!? 体の奥からガガーっと」
その隣で、何かを押し出すように両手を下から上に持ち上げるジェスチャーつきで翠が言う。
ねっ! と微笑みかける二人も別れたときよりきれいになっているのだ。そう言われても素直に自信がつきましたとは言えない。曖昧に笑ってごまかす。
「香織ちゃんが感想も聞きたいからお昼おごってくれるって」
「わーい、ご馳走だ」
真里菜がれっつらごーと右手を上げている。タダでこれだけのことをやってもらったのだ、感想は述べねばならないだろう。それにお礼も。おごってもらうのは申し訳ないような気がするが、断れない。
どんどん深みにはまっていくような、逃げにくくなっているような気がしながら、抗うタイミングが取れずに流されていく自分に諦めるようにと言い聞かせるように、ため息をひとつついた。
哉と約束した時間までに帰ることができるのだろうか。
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