152 / 326
学園☆天国
3 side樹理
しおりを挟む困っちゃった。
制服のスカートの端っこを掴んで放してくれないのは、先ほど昇降口の階段の踊り場で、柵の間に頭を突っ込むように下を見ていた男の子。どう見ても迷子で、そこから誰かを探してる様子だったから、放って置けなくて声をかけてしまった。
着ている服は、ウチの学校の幼稚舎の制服だ。初等科以上は女子のみだけど、数年前から幼稚舎だけは男の子もいる。女の子の制服が私たちと同じ色なのに対して、男の子のはチャコールグレー。ぴっちりとアイロンのかけられた半そでのシャツに、指定のサスペンダーが付いた膝小僧が見え隠れするくらいのハーフパンツ。足元はこれまた真っ白な靴下に、ぴかぴかに磨かれたミニチュアみたいな黒い革靴。
子供特有の、細くてさらさらの黒髪、真っ黒な瞳はすごく意志が強そうで、本部テントにいた教師がどんなに聞いても自分が迷子だとは認めず、一緒に来ている母親のほうが迷子になったと言いはって曲げなかった。きゅっと結んだ口からは名前さえ尋ねることが出来なかった。結局、幼稚舎の男の子が迷子だという案内は放送してもらえたけれど、アレだけで来てくれるかしら、保護者の方。
このままじゃ待ち合わせの時間に遅れちゃいそう。ただでさえリナちゃんや翠ちゃんの所に寄っていて、ギリギリだったのに。
ため息を飲み込んで、傍らの男の子を見る。態度は迷子になった子供とは思えないほど偉そうなんだけど、その手だけが正直に一人になるのが怖いって言ってるみたいで、逃がさないと言わんばかりに力のこもった小さな手を見ると、振り払うのはかわいそうになってしまう。
「ああ、どうしよう……あ、そうか、電話したらいいんだわ」
うーんと考えて思いつく。というか、考えないと思いつかないのよね……携帯電話というものをもってまだ日が浅いので、なんて言うかあんまり使い慣れてない。せっかく便利なものを持っているのに使わなくっちゃ意味がないよね。
リダイヤルから番号を出して三コール。
「あ、氷川さん、樹理です。はい、あの、ちょっと遅れそうで……すみません、すぐとなりにテントがあって……そうです、じゃあ折り紙のところに、はい、そんなにかからないとは思うんですけど、はい、ごめんなさい」
……氷川さん、どうしてあのテントのこと知ってるんだろ。あ、もしかしてもう着いちゃってたとか? 慌てて電話の時計を見たら五分前……氷川さんなら来てそうな時間。
「じゅり、って言うのか?」
携帯電話を見つめていたら下から声は幼くて、でもなんだか大人びた口調の問いかけ。見たら、男の子が私のことを見上げていた。うーん、首が痛そう。
「ええ。そうよ。そう言えばキミの名前を聞くばっかりで、言ってなかったね。私は行野樹理。よかったら君の名前も教えてもらえるかな?」
スカートの裾に気をつけながらしゃがんで、電話の冒頭で名乗ったのと聞いていたらしい男の子と視線を合わせる。黙ったまま気詰まりな時間をすごすより、何かはなしていたほうがいい。
「柾虎。桐生柾虎(きりゅうまさとら)。木ヘンに正しいで柾、動物の虎」
「私の名前は、樹木の樹に、理由の理って書くの」
さっき先生に自分の名前を教えることを頑なに拒んでいた態度がウソみたいに、柾虎君が名前を教えてくれる。自分の名前の漢字まで説明できる幼稚園児って、ちょっとすごいかも。だから私も、分かってもらえるかどうかは別にして、同じように説明する。
「ふうん。いい名前だな」
「あ、ありがとう」
にっこりと無邪気な笑顔を添えて直球でほめられて、子供相手ってわかっててもちょっと照れてしまう。真っ黒なのにキラキラした澄んだ子供の瞳。さっきまでのツンケンした雰囲気が一気に吹き飛ぶ天使の笑顔。言葉遣いが大人びているのにこうして笑うとすっごくかわいらしい。
「柾虎君の名前もカッコいいよ」
「そうか? なんだか古臭くないか?」
「今風の名前より柾虎君には似合ってていいと思うよ」
「そうか」
思ったことをそのまま言ったら、柾虎君が満足そうににっこりしてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
いつも隣にいる
はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
元恋人が届けた、断りたい縁談
待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。
手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。
「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」
そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる