幸せのありか

神室さち

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学園☆天国

33 side井名里

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「知らねぇよ いたんだよここに。呼んだのは娘だ」

 普通なら見分けがつかないくらいほんの少しだけ中央に眉が寄っている。暫く会っていなくてもわかる。これは、大変迷惑していると言う表情だ。


「いや、むしろ俺が聞きたい。お前、コイツの娘がココにいるって知ってただろ? あの子も娘たちのことよく知ってたし。今更会うなんて思っても見なかったぞ」

「ひっどーい。コイツ呼ばわり!? 仮にも先輩を……」

「じゃぁ アンタ」

「いやだー ちゃんと次能先輩カッコハートカッコとじで」

「却下」


「ちょっ 哉ちゃんもなんか言ってやってよ! 哉ちゃんは前呼んでくれたよね? 次能先輩って呼んでくれたよねッ!?」

 右手の親指を下に向ける動作で却下。救いを求めるように哉に詰め寄るが、哉は目をあわせないようにしながら上体を少しそらして距離を取っている。


「ううっ ホント哉ちゃんってアキランいるとしゃべらないよね? 同じ日本人なのに異文化コミュニケーションな気分だよ。哉ちゃんの顔面芸はアキランと樹理ちゃんにしか通じないから、他の人とは言語で意思の疎通を図るべきだと思う。出来るだけ全力で」


 肩に両手を置かれ、至近距離な位置で泣きまね声で詰め寄られて、首をナナメにして、哉がこっちを見ている。

「却下。だってさ」

「日本人相手に通訳が要る日本人ってどうよ!?」

「少なくともオマエの言葉を訳する必要はないみたいだからいいだろ」

「ひどいっ いじめっこー 僕だって哉ちゃんと戯れたいよぅ うげふっ! やめてー 襟がのびるっ これこの季節のお気に入りッ! やめてぇ 首が絞まるぅううぅううっ」

 Tシャツの首を掴んで哉から引き剥がすと大げさに叫ぶ。


「相変わらずひでぇセンスのコレが?」

「僕に言わせればアキラン達がそんな右に習えな画一的な服で満足できるなんてことが信じらんないよ。ってか、隠れない! そこ、隠れないの。ホンット、全然変わってないや」

 引き伸ばされた襟を整えながら、ブツブツつぶやいて、一人が騒がしいうちに、さりげなく移動して俺の後ろにポジションを取った哉を指差して叫ぶ。



「せんせーい、お待たせー……って、今度はダレ? この人」

「ハイハーイ! あの人はリナのお父さんのとーるちゃんでーっす」

「あー 都織ちゃんホントに来てるー」

 Tシャツとジーパンに着替えた夏清が、真里菜と翠を従えて小走りにやってくる。背中に『でもカエルは雨が好き』という達筆なのに変な言葉が書かれた、色彩感覚が死んでいるとしか思えない色取りのTシャツを着た青年が一人増えていることに気づいて問いかける夏清に答えたのは真里菜だった。

「ハイハーイ!! リナのお父さんの都織ちゃんだよー」

「へー リナちゃんのお父さんなんだー って。え? 父……父親!?」


 満面の笑顔で手を振っている人物と、そっくりな笑顔の真里菜を見て、また都織を見て。数回首の運動を繰り返し、夏清が恐る恐る真里菜に尋ねる。

「ごめん、ホントのお父さん? お兄さんの間違いとかじゃなく? ってか、リナちゃんのお父さんっていくつ?」

「実の父でーッス! 大丈夫、初見の人は大抵驚くから!! その反応ウェルカムで。ちなみにお年はアキランより一ヶ月ほど年上だよー 中学二年生の時には子持ちだったよー」

「だよー ちなみにお母さんは夏清ちゃんくらいの頃に私のこと産んだんだよー」

 ウンメーのサイカーイと叫びながら抱きしめあう父娘プラス一名の姿を若干魂が抜けたような顔で夏清が見ている。


「あんまり見るな、バカが伝染(うつ)るぞ」


「……アキラン……この人、先生のことアキランって……先生がそんな呼ばれ方して絞め殺さないとか……キリカだってさすがに先生のことは変なあだ名つけないのに……この人何者!?」

「見ての通りのバカだから」

「そっかー バカなんだ。じゃあ仕方ないか」

 どこか遠くを見たまま、感情のこもっていない声で夏清がつぶやく。


「えええー! 僕バカじゃないよ?」

「そうだよー とーるちゃんはちょっとアホの子だけどバカじゃないよー」

「あははははー 同じじゃんリナ」

「えー ほら、バカって言われるよりアホって言われる方がムカつかない?」

「ムカツク方とか、ありえないしー でも分かるかも。アホってバカよりヤなカンジだよねー でもって都織ちゃんはバカってよりアホだよね」

「あー それなんかで読んだことある。関東人はアホのほうがムカついて、関西人はバカって言われると怒るんだってね。知ってる? 関西ローカルでは『アホ』は放送禁止用語じゃないんだよ」


 関西のお笑い芸人の芸名を例に挙げて、アホバカ談義に夏清が一緒になって笑っている。

「夏清ちゃん、そのマメ知識ウケるー」

 他にも草野から教えられたと思しき腐ったような雑学を披露する夏清に、娘たちと一緒になって笑っている男の襟足を再び掴んで引き寄せ、間近で睨む。



「見てみろ、どうしてくれる、伝染ったじゃないか」


「こっ 怖ッ!! ちょっ 待ってっ! 僕って言うよりリナとかじゃない? やめてやめて至近距離でその目で睨まないでッ! ごめんなさい!! 助けてー 石になるうぅぅぅうう───!!」



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