幸せのありか

神室さち

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なつまつり

5 side哉

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「こんばんは。久しぶりだね」

 にっこり。泣きそうだと感じたことが錯覚に思えるほど、隣で見ていても完璧に作り上げた笑顔で微笑んだ樹理に親しく話しかけられた三人の方は、なんだか居心地悪そうに視線を横に向けたり石畳を見たり、真ん中に居た少女がかろうじて笑っているような顔だが、これは笑顔というより引きつっているだけのような表情。

 気づかなかったが、他にも一緒に来ている男女が居たらしく、後ろから横から、こちらを伺う視線。誰? と問われてもごもごと歯切れ悪く口を動かしている。


「樹理ちゃん、来てたんだ」

「うん。早苗ちゃんたちは大勢で来てるんだね」

「あ、高校の友達とか……えっと、となりの人……彼氏?」

「うん。お付き合いしてる人」


 傾げた頭が哉の肩に触れる。そうなると腕を絡めるようにしているため表情は近すぎて見えない。だが、先ほど見えた笑顔とは裏腹に繋いだ手が震えるほどぎゅっと、すがるように強い握力が樹理の緊張を伝えてくる。


「友達?」

「え? あっ えっと……中学校まで一緒で……同級生、です」

 哉の問いかけに弾かれた様に樹理が顔を上げてなんとも歯切れの悪い答えを残して下を向く。その態度にこれはあまり会いたいと思っていなかった再会なのだと判断して、シャツの胸ポケットに携帯電話とともに入れている名刺を一枚取り出す。


「どうぞ?」


 取り出したままの動作ですっと名刺を差し出す。片手は樹理で塞がっているので、当然右手一本で。そうやって出してもきちんと名刺は相手を向くように入れてあるので最低限の相手に渡すには申し分ない。

 高校生でも氷川の社名位は知っているだろうし、哉の肩書きに書かれた日本語が読めないとは思えない。名刺は時折、社交ツールではなく武器になるのだ。


 普通の女子高校生だ、名刺など貰いなれていないのであろうが、窺う様におずおずとそれでも両手を出して先頭の早苗と呼ばれた少女が名刺を手に取る。回りの少年少女が興味津々と言った様子で覗き込み、目論見どおりその表面に書かれた文字を読んで、ひそひそと会話を交わし、あからさまではないが動揺を隠せない様子だ。



「樹理」

「はい? ああ」

 当然のように名刺を渡している哉をきょとんと見上げていた樹理がその真意をつかめないなりに頷いて食い入るように名刺を見ている少女に声をかける。

「……じゃあ、こんなトコにいつまでも止まってても邪魔になるし。行くね。バイバイ」


 あっと顔を上げて何かを言いたそうにしている相手を見て、一瞬留まろうとした樹理の手を引いて集団を迂回するようにすり抜ける。


 実際流れが滞っていてすれ違う人も迂回しているので、樹理の手を引いて人ごみを押しのけるようにその場を去った。


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