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OVER DAYS
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しおりを挟む連休前、この場所で別れた時は、確かに最近カドが取れては来ていたがいつも通りだったのに、久しぶりに車に乗り込んだ哉は何かが違う。
まず髪型。長くなりすぎた前髪を緩く後ろに流していたスタイルからこざっぱりと適度に短く整えられている。
しかし、変化はそれだけではない。何か、纏う空気が違う。この休みの間に何かいいことでもあったのだろうか。
「休日は何を?」
「読書。散髪」
ウインカーを瞬かせて、後部確認と一緒に哉を見て尋ねると、用意されていたかのような滑らかさで哉が応える。
「それから、水族館だ」
車が来ないことを確認してアクセルを踏み、ハンドルを切っていた篠田は一瞬哉の言葉に反応が遅れる。
「は?」
すいぞくかん。と言っただろうか。一人で?
「天上会議は予定通りか?」
「……はい。今月は皆様おそろいのはずです。いつもどおり九時から四十七階大会議室で行われます」
「わかった」
車窓から外を見ながら、哉がそう応えて唇の端を笑みの形に歪める。何かを企んでいるような、そんな顔で。
いつもは殆ど空車状態の本社地下駐車場は、他支店にもいる同族が乗りつけた高級車で溢れていた。今回も、場所がよくとも社長の隣に車を止める様な挑戦者はいないらしく、副社長用のスペースはきちんと空いていたが。
車を降りてエレベータホールに入ると、先客としてスーツ姿の男性が二人。二人とも眼鏡をかけているが、より仕立てのよいスーツに身を包んだ男性が哉に気付いて振り向いた。
「あ、誰や思たら哉ちゃんやんか。おはようさん」
程よくスタイリッシュな黒縁眼鏡の男性が人好きする笑みを浮かべて、やたらとフランクな方言でヒラヒラ手を振っている。そのひたすら軽い挨拶に、かっちりオールバックに固められた髪形、銀縁の鋭角な眼鏡とその下の切れ長の目と、堅物な秘書を絵に描いたような姿の、そして中身も同様の秘書がピキっと青筋を立てて彼をさえぎるように一歩前に出て先んじてきちんと挨拶をする。
「おはようございます」
「………」
「おはようございます」
さりげなく黒縁のほうの挨拶を無視しようとしている哉の代わりに篠田が挨拶を返す。
「よかったわー なんかな、さっき落として踏んでもうたらパス反応せぇへんねん。頼むし一緒に乗せたって」
己に発行されている黒いカードをポケットから出して見せて、大げさに肩をすくめている。
哉が嘆息している横で篠田がエレベータを呼ぶためにドアの横にあるスロットルに差し込んだ。
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