31 / 45
本編
5-7
しおりを挟む「ユナレシアさんっ!!!」
待ち焦がれたその人が馬車から降りてくるのを待てず、ミーレンが駆けだす。
「ミーレン」
そしてユナレシアも、まるで恋人を抱きしめるように両手を広げてその小さな体を抱きとめる。
その様子を見て、アッシュがケッと唾を吐く。
王子という立場に有るまじき行為だが、マイセル以下アッシュのそう言う『王子らしくない』所についてはもう慣れてしまったので誰も咎めたりはしない。
無駄だから。
進言したところで聞き入れられないのだ。
ユナレシアの後から降りてきた侍女たちにも、ミーレンが嬉しそうな顔で何か喋っている。
全開の笑顔は誰も文句が言えないくらいに可愛いが、アッシュはソレが自分に向けられたものではないことが物凄く腹が立つ。
「ほれ、帰ってきたの分かったんだからもういいだろう。戻るぞ」
「やだ」
ユナレシアのギュと絞った腰に腕を回して、柔らかい胸に顔をつけて、イライラした様子を隠さないアッシュの言葉にミーレンが否を即答した。
「ユナレシアさんたちと一緒に寝る。アッシュよりユナレシアさんの方が柔らかくていい匂いがして好き」
ユナレシアは、当初の予定よりも一日早く舞い戻ってきた。
と言っても、もう夕食も終わり、就寝しようかと言う頃合だったが。
早いじゃないかと思う反面、宥めてもすかしても甘いものを与えても、ミーレンが一度張ってしまった壁を破る手段にはならなかったので、状況が変化すると言う意味では待っていなかったわけではない。
あの日、慌てて取って返したアッシュが己の寝室で見たのは、広いベッドの隅で丸くなってぐうぐう寝ているミーレンの姿だった。
菓子には与えた以上手をつけた様子もなかった。
泣いているかもしれないと思って全速力で帰ってきて見れば、それはもう平和そうな顔で寝ていた。
結構な勢いでドアを開けたのに、それにも気づく様子もなく。
心配して損したとガックリしたところに、申し訳なさげなノックの音が届き、ドアを開けるとマイセルの侍従が要領を得ないことをゴニョゴニョ口走ったのち、何か液体の入った瓶をアッシュに押し付けて逃げた。
中身の正体に気づいて叩き割ろうとして思いとどまったものの、まだ未開封のまま放置されている。
「ユナレシアさんたちが帰って来るまで他で寝たらダメって言うからアッシュのトコにいただけだもん。アッシュと寝たら変なトコべたべた触るし。アッシュの体、硬いし重いからくっついてても楽しくないもん。今日から私、ユナレシアさんと寝る」
この四日。
この俺様がどれだけッ!
と、拳を握っても仕方がない。
「触んなきゃいつまで経ってもできねぇだろうが!!」
「痛い事なんかしなくていいもん」
ふーんだ、とミーレンが口を尖らせる。
ここまで、全てアリストリア語で喋った後。
「ユナレシアさん、また一緒に寝て下さい」
と、ミーレンは西側の言葉でユナレシアに請う。
「……あの、ミーレン、ちょっと聞くんだけど……『痛い事』された?」
「されました!! ユナレシアさんが行ってすぐっ すっごく痛くて泣いたのに『そのうちよくなる』ってそれから毎日毎晩ッ!」
こそっと耳元で囁くように問われたミーレンが、ここぞと訴える。
ユナレシアの形の良い唇から『ヘーえ』と普段の彼女ならば絶対に使わないような口調で洩れた。
ミーレンを抱いたまま顔を上げたユナレシアの瞳がアッシュを捉える。
普段から人の視線など全く気にしていないし、戦場で、血走った目で睨み続けながら命がけで切りかかってくる兵士と視線を合わせた事だって何十……もしかしたら何百何千回とあったのに、その時ですら何の感慨もなく立ち向かって切り捨てる事が出来たのに。
くっと口の端を吊り上げて物凄い形相を向けるユナレシアに、アッシュはほんの少しだけ怯んだ。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる