ケンカ王子と手乗り姫

神室さち

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本編

5-7

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「ユナレシアさんっ!!!」

 待ち焦がれたその人が馬車から降りてくるのを待てず、ミーレンが駆けだす。

「ミーレン」

 そしてユナレシアも、まるで恋人を抱きしめるように両手を広げてその小さな体を抱きとめる。


 その様子を見て、アッシュがケッと唾を吐く。

 王子という立場に有るまじき行為だが、マイセル以下アッシュのそう言う『王子らしくない』所についてはもう慣れてしまったので誰も咎めたりはしない。


 無駄だから。


 進言したところで聞き入れられないのだ。


 ユナレシアの後から降りてきた侍女たちにも、ミーレンが嬉しそうな顔で何か喋っている。

 全開の笑顔は誰も文句が言えないくらいに可愛いが、アッシュはソレが自分に向けられたものではないことが物凄く腹が立つ。


「ほれ、帰ってきたの分かったんだからもういいだろう。戻るぞ」

「やだ」

 ユナレシアのギュと絞った腰に腕を回して、柔らかい胸に顔をつけて、イライラした様子を隠さないアッシュの言葉にミーレンが否を即答した。


「ユナレシアさんたちと一緒に寝る。アッシュよりユナレシアさんの方が柔らかくていい匂いがして好き」

 ユナレシアは、当初の予定よりも一日早く舞い戻ってきた。

 と言っても、もう夕食も終わり、就寝しようかと言う頃合だったが。


 早いじゃないかと思う反面、宥めてもすかしても甘いものを与えても、ミーレンが一度張ってしまった壁を破る手段にはならなかったので、状況が変化すると言う意味では待っていなかったわけではない。


 あの日、慌てて取って返したアッシュが己の寝室で見たのは、広いベッドの隅で丸くなってぐうぐう寝ているミーレンの姿だった。

 菓子には与えた以上手をつけた様子もなかった。


 泣いているかもしれないと思って全速力で帰ってきて見れば、それはもう平和そうな顔で寝ていた。

 結構な勢いでドアを開けたのに、それにも気づく様子もなく。


 心配して損したとガックリしたところに、申し訳なさげなノックの音が届き、ドアを開けるとマイセルの侍従が要領を得ないことをゴニョゴニョ口走ったのち、何か液体の入った瓶をアッシュに押し付けて逃げた。


 中身の正体に気づいて叩き割ろうとして思いとどまったものの、まだ未開封のまま放置されている。


「ユナレシアさんたちが帰って来るまで他で寝たらダメって言うからアッシュのトコにいただけだもん。アッシュと寝たら変なトコべたべた触るし。アッシュの体、硬いし重いからくっついてても楽しくないもん。今日から私、ユナレシアさんと寝る」




 この四日。

 この俺様がどれだけッ!

 と、拳を握っても仕方がない。




「触んなきゃいつまで経ってもできねぇだろうが!!」

「痛い事なんかしなくていいもん」

 ふーんだ、とミーレンが口を尖らせる。

 ここまで、全てアリストリア語で喋った後。

「ユナレシアさん、また一緒に寝て下さい」

 と、ミーレンは西側の言葉でユナレシアに請う。

「……あの、ミーレン、ちょっと聞くんだけど……『痛い事』された?」

「されました!! ユナレシアさんが行ってすぐっ すっごく痛くて泣いたのに『そのうちよくなる』ってそれから毎日毎晩ッ!」


 こそっと耳元で囁くように問われたミーレンが、ここぞと訴える。

 ユナレシアの形の良い唇から『ヘーえ』と普段の彼女ならば絶対に使わないような口調で洩れた。





 ミーレンを抱いたまま顔を上げたユナレシアの瞳がアッシュを捉える。


 普段から人の視線など全く気にしていないし、戦場で、血走った目で睨み続けながら命がけで切りかかってくる兵士と視線を合わせた事だって何十……もしかしたら何百何千回とあったのに、その時ですら何の感慨もなく立ち向かって切り捨てる事が出来たのに。




 くっと口の端を吊り上げて物凄い形相を向けるユナレシアに、アッシュはほんの少しだけ怯んだ。



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