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しおりを挟む予定より半刻近くも遅れて始まったアリストリアの王子の謁見。
予め数十名ずつにまとめられていたのだが、時間が押したのでさらに一つの組が大人数になっている。
謁見許可が下りた貴族や役人、商人達が、檀上に座る王子を見て、ほぼみな違(たが)わずアホ面になる。
なんとか口元を結んで耐えている者、耐えようと必死のようだが唇がひくひくしっぱなしの者、耐えきれずポカンと口を開けてしまった者、さらにはお辞儀や口上さえ忘れてしまったのか黙ったままの者。
豪華なイスに深々と腰かけているアッシュ。その人ひとりならば嫌味なほど容姿が整っていても誰もそこまで驚かないだろうが。
その左膝にちょこんと何の飾りもない、仕事の時はきちんと結っていた髪が解かれて、長い黒髪を垂らしたミーレンが座っており、細い腰にはがっしり逃がさないとばかりにアッシュの腕が絡み付いている。
時折その手は腰から離れて髪を弄ぶが、拘束が緩んだその隙に離れようとする小さな体を定期的に引き寄せる。
少女の方は恥ずかしそうに俯いて極力距離を置こうと身を離しているが、時折アッシュが何か尋ねるのか、そっと左手を添えて顔を寄せ、その耳元にささやいている様子だ。
その予想だにしない状況に、誰もが驚いて大した会話もなくどんどん人が送り込まれ、送り出される。
事業家たちの謁見が終わり、しばらく休憩がとられることになった。
別の部屋の、もっとくつろげる場所に移動すると知って、やっとこの拷問が終わるとほっと体の力を抜いたミーレンが、降りようと身をよじってもアッシュの腕が解けない。
「あ、あの。降ろして下さい」
赤くなった顔を、その体で隠せと言われて、否も応もなくその膝にひっぱりあげられて大勢の奇異なものを見る視線に耐えた時間は半刻ほどだが、永遠みたいに長かった。
「やだね」
ちっさいイキモンは手からエサを食べるようになる前に放すとどっかに逃げるから、とよくわからない理屈で、アッシュはひょいとミーレンを抱き上げて腕に乗せてしまう。
「やっぱいいよなァ、手乗りが」
正確には腕に乗せているのだが、そんなことを言ってさして重くもなさそうにマイセル他アリストリア人たちに促されて休憩用に設えられた部屋に勝手に歩いていく。
抱き上げられているので視点が高くなって怖さも倍増な上に、歩けば体が揺れる。
アッシュは落とすつもりなどないが、不安定な状態なので自然とミーレンはアッシュの首に自らしがみつくより他にできる術がない。
顔見知りになったアリストリア人に助けを求めて視線を送っても、申し訳なさそうな顔を返されるだけだった。
辿り着いた休憩室でも当然の様に膝に乗せられて、その場所以外に行くことは却下された。
テーブルには、文字通り山のようにお菓子が積み上げられている。そこからアッシュが勝手に摘みあげてはミーレンに食べさせる。
「口開けろっつってんだろ、口」
しかも、手を出したら近づけた菓子を一旦遠ざけて口を開けるように要求される。
アリストリアの菓子は全般にエルダストの菓子より甘くて諄(くど)い。
小麦粉を水などで練って焼いたり揚げたりの、簡単な菓子が主流のエルダストよりも、地形の事情から穀物よりも酪農が盛んなアリストリアでは乳製品を使ったこってりとした菓子の種類が多いのだ。
アリストリア人が多くやってきたので、半年ほど前からアリストリア風の菓子を出す店も増えてきて、よくお菓子をもらっていたが、まだまだ食が細くてちょっと甘いものが過ぎると満腹感を感じて夕食さえままならないようなミーレンにはここからが真実拷問だった。
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