ケンカ王子と手乗り姫

神室さち

文字の大きさ
39 / 45
IF

2-3

しおりを挟む
 



 予定より半刻近くも遅れて始まったアリストリアの王子の謁見。

 予め数十名ずつにまとめられていたのだが、時間が押したのでさらに一つの組が大人数になっている。

 謁見許可が下りた貴族や役人、商人達が、檀上に座る王子を見て、ほぼみな違(たが)わずアホ面になる。

 なんとか口元を結んで耐えている者、耐えようと必死のようだが唇がひくひくしっぱなしの者、耐えきれずポカンと口を開けてしまった者、さらにはお辞儀や口上さえ忘れてしまったのか黙ったままの者。


 豪華なイスに深々と腰かけているアッシュ。その人ひとりならば嫌味なほど容姿が整っていても誰もそこまで驚かないだろうが。


 その左膝にちょこんと何の飾りもない、仕事の時はきちんと結っていた髪が解かれて、長い黒髪を垂らしたミーレンが座っており、細い腰にはがっしり逃がさないとばかりにアッシュの腕が絡み付いている。

 時折その手は腰から離れて髪を弄ぶが、拘束が緩んだその隙に離れようとする小さな体を定期的に引き寄せる。


 少女の方は恥ずかしそうに俯いて極力距離を置こうと身を離しているが、時折アッシュが何か尋ねるのか、そっと左手を添えて顔を寄せ、その耳元にささやいている様子だ。


 その予想だにしない状況に、誰もが驚いて大した会話もなくどんどん人が送り込まれ、送り出される。


 事業家たちの謁見が終わり、しばらく休憩がとられることになった。

 別の部屋の、もっとくつろげる場所に移動すると知って、やっとこの拷問が終わるとほっと体の力を抜いたミーレンが、降りようと身をよじってもアッシュの腕が解けない。


「あ、あの。降ろして下さい」

 赤くなった顔を、その体で隠せと言われて、否も応もなくその膝にひっぱりあげられて大勢の奇異なものを見る視線に耐えた時間は半刻ほどだが、永遠みたいに長かった。

「やだね」

 ちっさいイキモンは手からエサを食べるようになる前に放すとどっかに逃げるから、とよくわからない理屈で、アッシュはひょいとミーレンを抱き上げて腕に乗せてしまう。


「やっぱいいよなァ、手乗りが」

 正確には腕に乗せているのだが、そんなことを言ってさして重くもなさそうにマイセル他アリストリア人たちに促されて休憩用に設えられた部屋に勝手に歩いていく。

 抱き上げられているので視点が高くなって怖さも倍増な上に、歩けば体が揺れる。

 アッシュは落とすつもりなどないが、不安定な状態なので自然とミーレンはアッシュの首に自らしがみつくより他にできる術がない。

 顔見知りになったアリストリア人に助けを求めて視線を送っても、申し訳なさそうな顔を返されるだけだった。


 辿り着いた休憩室でも当然の様に膝に乗せられて、その場所以外に行くことは却下された。

 テーブルには、文字通り山のようにお菓子が積み上げられている。そこからアッシュが勝手に摘みあげてはミーレンに食べさせる。


「口開けろっつってんだろ、口」

 しかも、手を出したら近づけた菓子を一旦遠ざけて口を開けるように要求される。

 アリストリアの菓子は全般にエルダストの菓子より甘くて諄(くど)い。



 小麦粉を水などで練って焼いたり揚げたりの、簡単な菓子が主流のエルダストよりも、地形の事情から穀物よりも酪農が盛んなアリストリアでは乳製品を使ったこってりとした菓子の種類が多いのだ。


 アリストリア人が多くやってきたので、半年ほど前からアリストリア風の菓子を出す店も増えてきて、よくお菓子をもらっていたが、まだまだ食が細くてちょっと甘いものが過ぎると満腹感を感じて夕食さえままならないようなミーレンにはここからが真実拷問だった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

処理中です...