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第3章 異世界旅行
第7話 竜
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「わ~~~! アオイさーん! お久しぶりでーす! こっちの世界、楽しんでるみたいでよかった~!!!」
やっと繋がった~! いつもいないんだモーン! と、元気いっぱいに挨拶してきたのはお久しぶりのリルケルラ。御使リルだ。画面の中に確かにいた。
「あ、ああ~はい……ご無沙汰しております……」
「テンション低ーい!」
蒼は混乱していたのだ。テレビがどういったものかこの管理官は理解していないのでは? とか。このテレビ、使い道があったのか、とか。そんな大きな声を出してアルフレドに見られてもいいのか。など、とかくだらないことばかりが頭に浮かんでいる。
「え、いや、だって……えーっとなんで???」
だから漠然とした問いかけしかできなかった。
「いやぁちょっとアオイさんにお願いがあって~! ほら、上級神官達はアオイ様には連絡できないじゃないですかぁ? なんかあの力中途半端ですよね! お告げしたのにアオイさんが今どこにいるかわからないって言うし~」
やいのやいのと一方的に喋り続けた。リルケルラは蒼とは旧知の仲と言わんばかりの距離が近い話っぷりだが、実際はこれで二回目である。
(わ、わざわざ御神託まで……)
そんな簡単に使ってもいい能力ではないのではないかと蒼は思っているし、このテレビ画面に現れるのも許されるような事柄なのか……リルケルラが本題に入らないせいで蒼の混乱は続いている。
「ええーい! 何をちんたら話している! 代われ!」
「まだ嫌です~~~!」
突然画面が二つに分かれた。リルケルラとよく似た、真っ白なロングウェーブヘアの人物が映り込んできたのだ。もちろん蒼はすぐにこの人物が管理官の一人……御使だとわかった。
(なになになになに……)
嫌な予感が増していく。一体全体この世界の管理官二人がただ超健康体であるだけの自分に何の用があると言うのだ。
「はじめましてアオイ。私は管理官の一人、アペルシア。地上では御使アペルと呼ばれている」
パチンと指を鳴らす音が聞こえたと思うと、リルケルラの声だけがミュートになったようだ。口パクでまだワーワー言っている。気難しそうな顔をした管理官アペルシアはこれで静かになったとほくそ笑んでいた。
「今お前が住んでいる空間のデザインは基本的に私がしたのだ。リルケルラが取り出したお前の記憶からある程度違和感なく生活できるように」
「そうなんですか!? ここのデザイン、すっごくオシャレで可愛くって気に入ってるんです! ありがとうございました!」
「ふ……そうだろうそうだろう」
またもニヤリとしたり顔だ。褒め称えられまんざらでもない。
「単刀直入に言おう。今お前達がいる近くに小さな聖水の泉がある。だが魔物に汚染されて稼働していないどころか、瘴気を生み出し周辺の街や村を飲み込み始めている。急ぎ浄化してほしいのだ。庭にある聖水は効力が高い。それほど難しくはないだろう」
「わかりやすい! ……と、失礼……」
やっとなぜ今テレビ画面がついたのか理解できた。蒼がやろうとしていたことをわざわざやってくれと頼むためだったのだ。
「元々そのつもりで動いてるんですが、瘴気の中って魔物いません? 瘴気は平気でも魔物をどうするか困っていて」
「なに!? なかなか見込みのある人間じゃあないか。勇者の末裔を召喚陣から引っ張り出そうとしただけはある」
どうやらアペルシアは蒼のことが気に入ったようだ。どうもこの管理官の笑顔は含みのあるものに見えてしまうが、彼は今満足そうに頷いている。
「察しの通り魔物が集まり始めた。まともな人間じゃ数分ともたない瘴気ということは魔物にとっては美味しい空気だからな。だが安心しろ。フィーラの街から護衛役に私の使いを向かわせている。明日には着くだろう」
アルフレドも馬のルーベンもかなり頑張った方だったのだ。すぐにここの聖水を飲んだのも良かった。彼らはしばらくぐっすりと体を休めれば問題ないと、やや気遣うようにアルペシアに教えてもらう。
「管理官は世界の隅々まで見守ってくれているんですね」
そうであればこの世界の人たちはきっと心強いだろうと。
そこでまたパチンと指が鳴った。
「いいえ! 先輩はフィーラの街を優遇しすぎてるんです! 普通はここまで介入しません」
リルケルラのミュートが解除された。御使の干渉は加護を与えること、眷属を使うこと、それからお告げでどうにかなるレベル。わざわざ蒼にコンタクトを取って依頼するのはやり過ぎだ。
今回は自分が蒼と話したかったから手伝ったけれど! という主張を、少しばかり恩着せがましくリルケルラはアペルシアに言っている。
「優遇などしていない! 長い目で見たらアオイに動いてもらうのが一番いいだろうが!」
蒼はうっすら感じていたが、どうやらこの二人の管理官は相性が悪いようだ。
アペルシアの主張では、蒼はこの世界の人間ではないし、今蒼がいるこの空間は狭間の世界の一部なのだからコンタクトをとってもなんの問題もないのだ、ということだった。
フィーラの街までそれほど遠くない。このまま瘴気が勢いを増せば、アペルシアお気に入りの街が魔物の巣窟になってしまう。
管理官二人はまだギャアギャアとお互いの主張をぶつけている。
「では明日合流してすぐ向かいます」
それでいいですね? と、いつまでも聞いてはいられないと蒼は話の締めにかかった。
「ありがとうございますアオイさん! 今回の魔王の動きはおかしなことばかりで……正直、助かります」
「感謝する。今回のことはいずれ何かしらの形で礼をしよう」
人間の小娘を前にみっともない姿を見せた管理官二人はちょっとバツが悪そうだった。すぐに蒼の方に向き直り、素直に礼をいう。
「いえいえ。あっちの世界じゃ手に入らない空間をいただきましたし、食い扶持もどうにかなってますし」
こちらこをお礼をしなきゃと思ってたんです、と蒼もテレビに向かって頭を下げた。
◇◇◇
(あの人達かな……ん? なんかいる?)
翌日の早朝、瘴気がギリギリ届かない聖水の泉までの道の途中に、蒼は人影を確認した。
シルエットから一人は神官の格好をしていることがわかる。もう一人はなんだか作業服のような格好だった。たくさんのポケットがついたベルトを巻いている。そして肩には大きなオウムのような鳥を乗せていた。
「ウワァアァァ!!」
彼らの背後に白い竜が見えたのだ。突き刺すような黄色い瞳が光っていた。馬の二倍は大きい。
驚いて後退りする蒼に相手は急いで駆け寄ってくる。
「ああ! アオイ様ー!」
「ゴメンネ! ダイジョウブ!?」
オウムは流暢に喋っていた。飼い主の表情に合わせて言葉を出している。少し灰色がかった黒髪の青年が、怖がらせてしまい申し訳ない、という表情になっている。後ろの白竜はゆっくりと瞬きをした。
(竜ってまつ毛長いんだ)
蒼は初めて見る竜を前に、衝撃のあまりポカーンと口を開けてそんなことを考える始末。
「私はフィーラにあるアペル神殿の上級神官チーノです。彼はテイマーのルチルくん。御使アペルの神託の通り、本日参りました」
「ヨロシク」
返事をしたのはオウムの方だ。蒼も急いでヨロシクと挨拶を返す。チーノは爽やかなスポーツマンといった印象だ。
「肩にいるのが彼の通訳ルッチェ。後ろのホワイトドラゴンがニーナ」
「通訳……」
「ルッチェの言葉がルチルくんの言葉だと思っていただいて問題ありません」
「ソウ! コンランサセテゴメンネ!」
「いえいえそんな!」
またも申し訳なさそうになっているルチルに蒼は慌てる。
(なんでって聞いていいのかな……いや、話さないってことはこの世界では常識なのか、聞いちゃいけないのか……)
こういう時は黙っているに限ると、蒼は話題を変えることにした。
「今日はこれから瘴気を浄化しつつ進んで、魔物が現れたらルチルさん達にお願いするってことでいいんですよね?」
「はい! 魔物の方は彼らにおまかせを。そちらが聖水ですね……重かったでしょう、どうぞ私に」
アペルシアからはそんなにたくさんは聖水は必要ないと言われていた。蒼もほんの少しスプレーするだけで瘴気が浄化されていく場面はみている。だが彼女は心配性だ。水筒にポット、防災リュックに入っていた折りたたみ式のウォータータンクに聖水を入れ、大荷物になっていた。
「すみません……」
「そんな! ありがたい重みです」
白い歯がキラリと光る。
背負っていた水タンク入りのリュックを神官チーノに任せ、蒼は水筒を二つ肩に下げスプレーを構える。もちろん、チーノにもスプレーを。
「おぉ~~~! これは便利だ!」
チーノは楽しそうにあっちにこっちにシュッシュと聖水を振りまいている。神官は総じて瘴気には耐性があり、彼はフィーラの上級神官の中で最も若手だったために今回ここに来ている。
(どこの世界も新人は大変だ)
ちょっとだけ蒼は彼に過去の自分を重ね同情したが、彼は蒼に会えたことに大喜びの上、この任務に使命感をもっているようで、これまた蒼はこっそりと反省する。
まず先頭に白竜ニーナ。次に蒼とチーノがシュッシュと聖水をスプレーしてまわり、その後ろをルチルとルッチェが続いた。聖水は昨日と同様抜群の効果を示し、彼女達の期待に応えた。
(それにしても……これ以上たくましい背中はないわね~!)
白竜はなんの恐れもなく瘴気の中を進んでいく。途中案の定魔物が飛び出してきたが、ニーナはひと咬みで倒してしまった。
「ニーナは瘴気の中でも平気なんですね」
「はい。竜種は特別ですから……いやしかし、白竜相手に魔物が飛び出してくるこの状況はよくないですね」
普通は怯えて出てこない、竜とはそんな存在なのだ。
そんなニーナが唯一いうことを聞くのが、当たり前だがテイマーのルチル、並びにルッチェだけだった。
「トマレ」
「ススメ」
「ヨシイイゾ」
ルチルに褒められた時は嬉しそうに振り向き、美しい目をパチパチとさせていた。
「思ったより早く着きましたね」
「うっ……こりゃキツイ……」
白竜ニーナは相変わらず澄ました顔だが、蒼は思いっきり顔をしかめていた。お昼前にたどり着いた目的地、聖水の泉の周辺は濃い瘴気の臭いなのか、魔物の腐った臭いなのかわからないが、兎にも角にもスプレーを撒き散らして呼吸をする。
「アオイ様はニーナの側に」
チーノは重い聖水の入ったタンクを軽々と持ち、ひょいひょいと積み重なった魔物の死骸の上を登っていく。
「アレガシンカンノウゴキカ」
「ねぇ~……冒険者もやれそう」
二人と二匹はチーノの動きを目で追っていた。
「いきま~す」
ジャババババと足元に思いっきり聖水をかけると、チーノの足元はあっという間に消え始めた。氷にお湯をかけているようだった。
不安定になった足元もものともせずに飛び降り、チーノも蒼達と一緒に経緯を見守る。
「うまくいきましたね」
数分待つと全ての魔物が消え去り、その後ゆっくりと美しい聖水が湧き始めた。
「はぁ~やれやれ……よかったよかった……よし! 休憩!」
蒼はポシェットからゴソゴソと何かを取り出す。
「はい! これどうぞ!」
「こ……これはチョコレートの塊!?」
「カタマリ!?」
チーノとルチルにはまずチョコレートバーを手渡した。蒼のポシェットにはたくさんのオヤツが。
本当はお弁当を準備していたのだ。だが、聖水を優先したせいで持ってこれなかった。ちなみにその弁当は全てアルフレドが美味しくいただくことになる。
「えーっとルッチェはビスケットでいいかな?」
「イイ!」
最後は恐る恐るだ。
「ニーナは魚肉ソーセージとサラミがあるんだけど……」
「ド、ドッチモ!」
ルッチェがビスケットを啄みながら答えた。
(なんだか不思議な光景~……)
竜と神官と鳥と青年と一緒にオヤツを食べている。こんなこと、異世界に来なければなかっただろうと蒼はしみじみと感じたのだった。
やっと繋がった~! いつもいないんだモーン! と、元気いっぱいに挨拶してきたのはお久しぶりのリルケルラ。御使リルだ。画面の中に確かにいた。
「あ、ああ~はい……ご無沙汰しております……」
「テンション低ーい!」
蒼は混乱していたのだ。テレビがどういったものかこの管理官は理解していないのでは? とか。このテレビ、使い道があったのか、とか。そんな大きな声を出してアルフレドに見られてもいいのか。など、とかくだらないことばかりが頭に浮かんでいる。
「え、いや、だって……えーっとなんで???」
だから漠然とした問いかけしかできなかった。
「いやぁちょっとアオイさんにお願いがあって~! ほら、上級神官達はアオイ様には連絡できないじゃないですかぁ? なんかあの力中途半端ですよね! お告げしたのにアオイさんが今どこにいるかわからないって言うし~」
やいのやいのと一方的に喋り続けた。リルケルラは蒼とは旧知の仲と言わんばかりの距離が近い話っぷりだが、実際はこれで二回目である。
(わ、わざわざ御神託まで……)
そんな簡単に使ってもいい能力ではないのではないかと蒼は思っているし、このテレビ画面に現れるのも許されるような事柄なのか……リルケルラが本題に入らないせいで蒼の混乱は続いている。
「ええーい! 何をちんたら話している! 代われ!」
「まだ嫌です~~~!」
突然画面が二つに分かれた。リルケルラとよく似た、真っ白なロングウェーブヘアの人物が映り込んできたのだ。もちろん蒼はすぐにこの人物が管理官の一人……御使だとわかった。
(なになになになに……)
嫌な予感が増していく。一体全体この世界の管理官二人がただ超健康体であるだけの自分に何の用があると言うのだ。
「はじめましてアオイ。私は管理官の一人、アペルシア。地上では御使アペルと呼ばれている」
パチンと指を鳴らす音が聞こえたと思うと、リルケルラの声だけがミュートになったようだ。口パクでまだワーワー言っている。気難しそうな顔をした管理官アペルシアはこれで静かになったとほくそ笑んでいた。
「今お前が住んでいる空間のデザインは基本的に私がしたのだ。リルケルラが取り出したお前の記憶からある程度違和感なく生活できるように」
「そうなんですか!? ここのデザイン、すっごくオシャレで可愛くって気に入ってるんです! ありがとうございました!」
「ふ……そうだろうそうだろう」
またもニヤリとしたり顔だ。褒め称えられまんざらでもない。
「単刀直入に言おう。今お前達がいる近くに小さな聖水の泉がある。だが魔物に汚染されて稼働していないどころか、瘴気を生み出し周辺の街や村を飲み込み始めている。急ぎ浄化してほしいのだ。庭にある聖水は効力が高い。それほど難しくはないだろう」
「わかりやすい! ……と、失礼……」
やっとなぜ今テレビ画面がついたのか理解できた。蒼がやろうとしていたことをわざわざやってくれと頼むためだったのだ。
「元々そのつもりで動いてるんですが、瘴気の中って魔物いません? 瘴気は平気でも魔物をどうするか困っていて」
「なに!? なかなか見込みのある人間じゃあないか。勇者の末裔を召喚陣から引っ張り出そうとしただけはある」
どうやらアペルシアは蒼のことが気に入ったようだ。どうもこの管理官の笑顔は含みのあるものに見えてしまうが、彼は今満足そうに頷いている。
「察しの通り魔物が集まり始めた。まともな人間じゃ数分ともたない瘴気ということは魔物にとっては美味しい空気だからな。だが安心しろ。フィーラの街から護衛役に私の使いを向かわせている。明日には着くだろう」
アルフレドも馬のルーベンもかなり頑張った方だったのだ。すぐにここの聖水を飲んだのも良かった。彼らはしばらくぐっすりと体を休めれば問題ないと、やや気遣うようにアルペシアに教えてもらう。
「管理官は世界の隅々まで見守ってくれているんですね」
そうであればこの世界の人たちはきっと心強いだろうと。
そこでまたパチンと指が鳴った。
「いいえ! 先輩はフィーラの街を優遇しすぎてるんです! 普通はここまで介入しません」
リルケルラのミュートが解除された。御使の干渉は加護を与えること、眷属を使うこと、それからお告げでどうにかなるレベル。わざわざ蒼にコンタクトを取って依頼するのはやり過ぎだ。
今回は自分が蒼と話したかったから手伝ったけれど! という主張を、少しばかり恩着せがましくリルケルラはアペルシアに言っている。
「優遇などしていない! 長い目で見たらアオイに動いてもらうのが一番いいだろうが!」
蒼はうっすら感じていたが、どうやらこの二人の管理官は相性が悪いようだ。
アペルシアの主張では、蒼はこの世界の人間ではないし、今蒼がいるこの空間は狭間の世界の一部なのだからコンタクトをとってもなんの問題もないのだ、ということだった。
フィーラの街までそれほど遠くない。このまま瘴気が勢いを増せば、アペルシアお気に入りの街が魔物の巣窟になってしまう。
管理官二人はまだギャアギャアとお互いの主張をぶつけている。
「では明日合流してすぐ向かいます」
それでいいですね? と、いつまでも聞いてはいられないと蒼は話の締めにかかった。
「ありがとうございますアオイさん! 今回の魔王の動きはおかしなことばかりで……正直、助かります」
「感謝する。今回のことはいずれ何かしらの形で礼をしよう」
人間の小娘を前にみっともない姿を見せた管理官二人はちょっとバツが悪そうだった。すぐに蒼の方に向き直り、素直に礼をいう。
「いえいえ。あっちの世界じゃ手に入らない空間をいただきましたし、食い扶持もどうにかなってますし」
こちらこをお礼をしなきゃと思ってたんです、と蒼もテレビに向かって頭を下げた。
◇◇◇
(あの人達かな……ん? なんかいる?)
翌日の早朝、瘴気がギリギリ届かない聖水の泉までの道の途中に、蒼は人影を確認した。
シルエットから一人は神官の格好をしていることがわかる。もう一人はなんだか作業服のような格好だった。たくさんのポケットがついたベルトを巻いている。そして肩には大きなオウムのような鳥を乗せていた。
「ウワァアァァ!!」
彼らの背後に白い竜が見えたのだ。突き刺すような黄色い瞳が光っていた。馬の二倍は大きい。
驚いて後退りする蒼に相手は急いで駆け寄ってくる。
「ああ! アオイ様ー!」
「ゴメンネ! ダイジョウブ!?」
オウムは流暢に喋っていた。飼い主の表情に合わせて言葉を出している。少し灰色がかった黒髪の青年が、怖がらせてしまい申し訳ない、という表情になっている。後ろの白竜はゆっくりと瞬きをした。
(竜ってまつ毛長いんだ)
蒼は初めて見る竜を前に、衝撃のあまりポカーンと口を開けてそんなことを考える始末。
「私はフィーラにあるアペル神殿の上級神官チーノです。彼はテイマーのルチルくん。御使アペルの神託の通り、本日参りました」
「ヨロシク」
返事をしたのはオウムの方だ。蒼も急いでヨロシクと挨拶を返す。チーノは爽やかなスポーツマンといった印象だ。
「肩にいるのが彼の通訳ルッチェ。後ろのホワイトドラゴンがニーナ」
「通訳……」
「ルッチェの言葉がルチルくんの言葉だと思っていただいて問題ありません」
「ソウ! コンランサセテゴメンネ!」
「いえいえそんな!」
またも申し訳なさそうになっているルチルに蒼は慌てる。
(なんでって聞いていいのかな……いや、話さないってことはこの世界では常識なのか、聞いちゃいけないのか……)
こういう時は黙っているに限ると、蒼は話題を変えることにした。
「今日はこれから瘴気を浄化しつつ進んで、魔物が現れたらルチルさん達にお願いするってことでいいんですよね?」
「はい! 魔物の方は彼らにおまかせを。そちらが聖水ですね……重かったでしょう、どうぞ私に」
アペルシアからはそんなにたくさんは聖水は必要ないと言われていた。蒼もほんの少しスプレーするだけで瘴気が浄化されていく場面はみている。だが彼女は心配性だ。水筒にポット、防災リュックに入っていた折りたたみ式のウォータータンクに聖水を入れ、大荷物になっていた。
「すみません……」
「そんな! ありがたい重みです」
白い歯がキラリと光る。
背負っていた水タンク入りのリュックを神官チーノに任せ、蒼は水筒を二つ肩に下げスプレーを構える。もちろん、チーノにもスプレーを。
「おぉ~~~! これは便利だ!」
チーノは楽しそうにあっちにこっちにシュッシュと聖水を振りまいている。神官は総じて瘴気には耐性があり、彼はフィーラの上級神官の中で最も若手だったために今回ここに来ている。
(どこの世界も新人は大変だ)
ちょっとだけ蒼は彼に過去の自分を重ね同情したが、彼は蒼に会えたことに大喜びの上、この任務に使命感をもっているようで、これまた蒼はこっそりと反省する。
まず先頭に白竜ニーナ。次に蒼とチーノがシュッシュと聖水をスプレーしてまわり、その後ろをルチルとルッチェが続いた。聖水は昨日と同様抜群の効果を示し、彼女達の期待に応えた。
(それにしても……これ以上たくましい背中はないわね~!)
白竜はなんの恐れもなく瘴気の中を進んでいく。途中案の定魔物が飛び出してきたが、ニーナはひと咬みで倒してしまった。
「ニーナは瘴気の中でも平気なんですね」
「はい。竜種は特別ですから……いやしかし、白竜相手に魔物が飛び出してくるこの状況はよくないですね」
普通は怯えて出てこない、竜とはそんな存在なのだ。
そんなニーナが唯一いうことを聞くのが、当たり前だがテイマーのルチル、並びにルッチェだけだった。
「トマレ」
「ススメ」
「ヨシイイゾ」
ルチルに褒められた時は嬉しそうに振り向き、美しい目をパチパチとさせていた。
「思ったより早く着きましたね」
「うっ……こりゃキツイ……」
白竜ニーナは相変わらず澄ました顔だが、蒼は思いっきり顔をしかめていた。お昼前にたどり着いた目的地、聖水の泉の周辺は濃い瘴気の臭いなのか、魔物の腐った臭いなのかわからないが、兎にも角にもスプレーを撒き散らして呼吸をする。
「アオイ様はニーナの側に」
チーノは重い聖水の入ったタンクを軽々と持ち、ひょいひょいと積み重なった魔物の死骸の上を登っていく。
「アレガシンカンノウゴキカ」
「ねぇ~……冒険者もやれそう」
二人と二匹はチーノの動きを目で追っていた。
「いきま~す」
ジャババババと足元に思いっきり聖水をかけると、チーノの足元はあっという間に消え始めた。氷にお湯をかけているようだった。
不安定になった足元もものともせずに飛び降り、チーノも蒼達と一緒に経緯を見守る。
「うまくいきましたね」
数分待つと全ての魔物が消え去り、その後ゆっくりと美しい聖水が湧き始めた。
「はぁ~やれやれ……よかったよかった……よし! 休憩!」
蒼はポシェットからゴソゴソと何かを取り出す。
「はい! これどうぞ!」
「こ……これはチョコレートの塊!?」
「カタマリ!?」
チーノとルチルにはまずチョコレートバーを手渡した。蒼のポシェットにはたくさんのオヤツが。
本当はお弁当を準備していたのだ。だが、聖水を優先したせいで持ってこれなかった。ちなみにその弁当は全てアルフレドが美味しくいただくことになる。
「えーっとルッチェはビスケットでいいかな?」
「イイ!」
最後は恐る恐るだ。
「ニーナは魚肉ソーセージとサラミがあるんだけど……」
「ド、ドッチモ!」
ルッチェがビスケットを啄みながら答えた。
(なんだか不思議な光景~……)
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魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
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