64 / 94
第6章 異世界紀行
第6話 新入りと勘違い
しおりを挟む
よく喋るグリフォンことオルフェはキメラである。聖獣であるグリフォンと人間の。
「おぉやはりそうか! うむ。なんとなく察していた私はやはり天才だ」
フィアもキメラであることを告げると、オルフェは意気揚々と適当なことを喋り続ける。蒼の家のキッチンで。
大きなグラタンざらの中にはスコップコロッケ、それからオニオングラタンスープ。各自の皿にはチキンソテーと茹で野菜がすでに置かれていた。
(これ、丸く形を作るのより楽なんだよね~)
人数が増えたので、手間を減らした料理も増えてきた。
蒼がスプーンでコロッケを取り分けながら、全員がオルフェの話を聞いている。
「フィアは大犬の性質が強く出てしまっているのだな」
「オルフェはそういうことないの?」
アルフレドが神妙な顔をしてグラタンを見つめているので、蒼が質問を投げかける。
「ない。なんせ私はグリフォンの亡骸との合成だ。美しく凛々しい獣の肉体だけが私に適合した! だが! この中に存在するのは私の魂だけさ」
そういってオルフェはウットリとしながら自分の心臓部分にそっと手を置いた。
(フィアがそうなった時ってどんな状況だったんだろう)
フィアは耳をピンとたて、首を傾げていた。
フィアと合わさったという黒い大犬はその時生きていたのか。そんな考えに浸っていると、オルフェはまだ話は終わっていないとばかりに声が大きくなる。
「と、言いたいところだが! グリフォンに本来備わっている強い性質というのは引き継いでいる」
「それは聞いたよ。恩も恨みも忘れないってやつでしょ」
だから蒼は彼を秘密の家の中へと入れたのだ。グリフォンは恩を受けた相手をとても大事にする。仲間意識も強く裏切るような真似はしない。同時に、もしも敵から酷い仕打ちを受けようものなら絶対に許さない! と、相手をとことん傷めつける性質があった。
「ああ私の愛する救世主! 貴女への気持ちは恩だけでは決してないだろう!」
「はいはいわかったわかった」
これまた演技がかって蒼の手を取ろうとするので、バシッと叩いてそれをやめさせる。すでにかなりの回数同じやりとりをしているのでアルフレドはしらけた目を向け、レーベンは苦笑いをするのだった。
「さあさあ諸君! 私の話を聞かせたいのは山々だが、この素晴らしい食事をいただいてからにしようっ!」
郷に入っては郷に従えということなのか、オルフェはしっかりと『いただきます』をして食事を食べ始めた。
(鬱陶しいところもあるけど、こういうとこもあるからどうにも憎めないのよねぇ~)
蒼もアルフレドもレーベンもどちらかというと落ち着いた人間だ。三人でいると穏やかな空気で過ごすことが多い。そんな中に突然飛び込んできたのがオルフェだ。よっぽど会話に飢えていたのかよく喋る。聞くとやはりずっとグリフォンの姿のままだったのだそうだ。
『あの無礼者ども! 次に会った時は私の怒りを知るだろう!』
そう憤っていたので、蒼は期待を込めて声をかけた。
『オルフェって強いんだ!』
すると少し澄ました顔をして、
『私は高貴な生まれでね。荒事は全て周りの者に任せていたんだ。刃物など持ったこともない』
そうアルフレドに視線を送りながら得意気に語っていた。そういうことは任せたぞ、と言いたげに。アルフレドの方は苦笑いするしかない。
『ああでも! キメラ能力を得てからというもの、風の魔法は大の得意になったのだ。主な用途は防御魔法だがね』
それ以外にオルフェができることは主に二つ。
グリフォンに姿を変え、空を飛ぶこと。そしてグリフォンの姿のまま小さくなること。
「やっぱり小さくなれるんだ」
「すごいだろう! おそらくキメラ化させるための触媒に竜の一部が組み込まれているからだな!」
そこはフィアと一緒であるということは、やはりフィアのキメラ化はかなりいい線をいっていたのだということがわかる。
「小さいままならアオイと寝室を共にできるな? いや、別に小さくなる必要も……ヒィ! じょ、冗談の通じないやつめ!」
オルフェの軽口にアルフレドが即殺気だった視線を送ったので、オルフェはあっさりと引き下がった。
「オルフェの私への愛もその程度ってことね~~~」
「こ、こら! やめないか! 嫁入り前の娘がそ、そんなことを軽々しく言うものではない……!」
チラチラとアルフレドの方を確認しながら焦るオルフェ。彼はアルフレドを本気で敵に回してまで蒼を口説く気はないので、大人しく今は屋根裏部屋で眠っている。
あっという間にここの快適な生活に順応したオルフェは、
「御使達め。たまにはいい仕事をするじゃないか」
そう偉そうに感想を述べていた。
そんなオルフェがさらに偉そうになるのが、道中の偵察だ。やはり空から先を見通せるのは地上組には大変助かる。魔物の気配はアルフレドがいるので問題ないが、道が塞がっていたり、行き倒れている人がいたり、小さな集落を見つけたりと事前に情報が得られるのは大きい。
「大規模な商隊が先にいたぞ」
地上に降り立ったオルフェはゆったりとした服を羽織っている。一部の魔法使いが好むような服装だ。変身の度に服の着脱が必要なので、本人も気に入っているようだった。
「おぉ! ちょっと久しぶりね~」
魔物が溢れているせいで物流が滞り気味になっていることは知っていた。最近、商人達はなるべく固まって、護衛と共に移動するようになっている。
「どうしましょう? 追いかけてナッツ類や茶葉を譲ってもらいますか?」
「ドライフルーツもあと少しだったよ」
「あの数じゃあ聖水の補給もした方がいいだろう。助けてあげたらどうだね?」
口々に蒼の方を向いて、商隊を追いかける理由を告げる。理由は色々だ。好奇心、戦力不足への心配、ただの気晴らし……。
(私に確認取らなくってもいいのになぁ)
彼らからの配慮はありがたいところだが、遠慮されすぎな気もしていた。
「聖水を提供して諸々補給させてもらおうか! オルフェ、どのくらいで追いつけそう?」
「英断だな! 今のペースなら半日もあればいけるだろう」
だがしかし、なかなか予定通りにはいかなかった。
「上から魔物がくるぞ!」
商隊が視界に入り、あちら側の護衛もこちらに気がつき、蒼が手を振って挨拶をしたまさにその瞬間だったのだ。人面鳥の群れが上空からダイブするかのように飛び込んでくる。
アルフレドの大声で一部の魔法使い達が防御体制に入ったおかげで初撃が防げたのが大きかった。
「行きたまえ! ここは私が!」
オルフェがアルフレドの方をみて大声を出すと同時に、頭の上に風の渦を作り出した。傘のように蒼やレーベンの頭上にもそれが。それを確認してアルフレドとフィアがすぐにハーピー討伐の加勢にと駆け出していった。
「悪いが風の防御魔法は三箇所が限界だ!」
馬達と共に大きな風の渦の傘の下にいるオルフェはこれから蒼とレーベンが何をするかわかっているようだった。だがその風の防御魔法は蒼が動くと自動でついてくる。なかなか便利だ。
(適当に聞いているかと思ってたけど、ちゃんと覚えてたのね~)
蒼達はこういう出来事に遭遇した場合、それを放置しない、ということをオルフェには伝えていた。そしてその場合、アルフレドとフィアが戦闘に出て、蒼とレーベンは敵の隙を見て怪我人に聖水で処置をしているということも。彼はいつも自分の話をしたがっていたので、まさかちゃんと理解してくれているとは、という驚きがある。
「レーベンはあっちの人お願い!」
「了解です!」
商隊の荷物がダメになっては困ると、アルフレド他、護衛兵達は少し離れた場所で戦闘を続けていた。その間に二人は怪我人の介抱を続ける。
「おいレーベン気をつけろ! 敵が来ているぞ!」
治療に集中し過ぎていたせいで、ハーピーの一部がレーベンを狙っていることに気が付かなかったのだ。オルフェは服を脱ぎ始めていた。グリフォンへと変身して体当たりするつもりなのだ。
だがカーライル兄弟はなかなかできる兄弟である。すでに気づいていたフィアが素早く駆け戻り、レーベンに迫るハーピーの首元をひと咬みで倒した。
「助かったよ」
嬉しそうにレーベンに頭を撫でてもらった後、フィアはまた慌ただしく戦闘へと戻っていった。
そうして彼の目の前には、半裸状態のオルフェが。
「うむ。実に素晴らしい働きだ」
「オルフェさんの強力な魔法に頼り過ぎていました! 気をつけますね」
彼が自分を助けようとしてくれたことはレーベンもわかっているので、急いでオルフェの服をなおしながらお礼をいった。もちろんオルフェは満足そうにしている。
戦闘は間も無く終わった。
「ずいぶん数が多かったな」
「人通りも減ったからな。魔物も獲物が足らんのだろう」
損害を確認しながら商人達が話している。
「ほんっとーに助かりました! あなた方がいなかったと思うとゾッとしますよ」
商隊長が直々に蒼達一行に頭を下げた。襲撃の規模を考えれば損害はかなり小さい。怪我人にかんしては聖水のおかげでゼロなのだから。これは怪我した後すぐに処置したから、という理由も大きいのだ。
そんなこともあり、蒼達は希望の商品を格安で譲り受けることができた。
「やっぱ人助けはするものね~!」
「まさかアーシュのシロップの取り扱いがあるとは」
こんな風に本人達は実に呑気な会話を繰り広げている一方で、助けられた商隊の商人や護衛兵達は噂話に力を入れていた。
『あの方々は勇者の一行ではないのか?』
と。
それは商人達の間でまことしやかに広がっている噂だった。本物の勇者は対魔王軍に参加しておらず、御使より選ばれた英雄の末裔達と共に魔王浄化のためにこっそりと旅を続けていると。
「しかし対魔王軍のおかげで世界はギリギリ平和を保てているぞ?」
「いや、本物の勇者ならもっと成果が出ているのではないかと言う者もいるんだ」
「つまらん結果論だな」
小さな声でコソコソと。
「私も聞いたことがある……。戦士とテイマーと、強い浄化作用を持つ聖水を操る女性に助けられた商人の話を」
「あ! それは私もあるぞ! 神官でもないのに瘴気の影響を受けないとか」
「となると、神官の末裔か……勇者の……」
全員が顔を見合わせていた。
「ここだけの話だが……御使に選ばれた神官の末裔様はまだ合流できていない、という話もある。東方の国のご出身故に移動に時間がかかっているとか」
「おぉ! それは私も聞いたことが……!」
出るわ出るわの噂の数々。商人は情報収集力が高い。
全員が小さく興奮している。そしてチラチラと蒼達を見ていた。
圧倒的な戦闘力を持つ戦士に大犬を操る少年テイマー、特殊な風魔法を使っていた魔法使い、そしてなぜか強力な浄化作用の聖水を惜しむことなく他人に使う黒髪の女性……。
「きっとあの方々が勇者の御一行なのだ……!」
「シッ!」
「ああ……これは我々だけの秘密だ……!」
とはいえ、人の口に戸は建てられない。この噂は徐々に徐々に、世界に広まっていくのだった。
「おぉやはりそうか! うむ。なんとなく察していた私はやはり天才だ」
フィアもキメラであることを告げると、オルフェは意気揚々と適当なことを喋り続ける。蒼の家のキッチンで。
大きなグラタンざらの中にはスコップコロッケ、それからオニオングラタンスープ。各自の皿にはチキンソテーと茹で野菜がすでに置かれていた。
(これ、丸く形を作るのより楽なんだよね~)
人数が増えたので、手間を減らした料理も増えてきた。
蒼がスプーンでコロッケを取り分けながら、全員がオルフェの話を聞いている。
「フィアは大犬の性質が強く出てしまっているのだな」
「オルフェはそういうことないの?」
アルフレドが神妙な顔をしてグラタンを見つめているので、蒼が質問を投げかける。
「ない。なんせ私はグリフォンの亡骸との合成だ。美しく凛々しい獣の肉体だけが私に適合した! だが! この中に存在するのは私の魂だけさ」
そういってオルフェはウットリとしながら自分の心臓部分にそっと手を置いた。
(フィアがそうなった時ってどんな状況だったんだろう)
フィアは耳をピンとたて、首を傾げていた。
フィアと合わさったという黒い大犬はその時生きていたのか。そんな考えに浸っていると、オルフェはまだ話は終わっていないとばかりに声が大きくなる。
「と、言いたいところだが! グリフォンに本来備わっている強い性質というのは引き継いでいる」
「それは聞いたよ。恩も恨みも忘れないってやつでしょ」
だから蒼は彼を秘密の家の中へと入れたのだ。グリフォンは恩を受けた相手をとても大事にする。仲間意識も強く裏切るような真似はしない。同時に、もしも敵から酷い仕打ちを受けようものなら絶対に許さない! と、相手をとことん傷めつける性質があった。
「ああ私の愛する救世主! 貴女への気持ちは恩だけでは決してないだろう!」
「はいはいわかったわかった」
これまた演技がかって蒼の手を取ろうとするので、バシッと叩いてそれをやめさせる。すでにかなりの回数同じやりとりをしているのでアルフレドはしらけた目を向け、レーベンは苦笑いをするのだった。
「さあさあ諸君! 私の話を聞かせたいのは山々だが、この素晴らしい食事をいただいてからにしようっ!」
郷に入っては郷に従えということなのか、オルフェはしっかりと『いただきます』をして食事を食べ始めた。
(鬱陶しいところもあるけど、こういうとこもあるからどうにも憎めないのよねぇ~)
蒼もアルフレドもレーベンもどちらかというと落ち着いた人間だ。三人でいると穏やかな空気で過ごすことが多い。そんな中に突然飛び込んできたのがオルフェだ。よっぽど会話に飢えていたのかよく喋る。聞くとやはりずっとグリフォンの姿のままだったのだそうだ。
『あの無礼者ども! 次に会った時は私の怒りを知るだろう!』
そう憤っていたので、蒼は期待を込めて声をかけた。
『オルフェって強いんだ!』
すると少し澄ました顔をして、
『私は高貴な生まれでね。荒事は全て周りの者に任せていたんだ。刃物など持ったこともない』
そうアルフレドに視線を送りながら得意気に語っていた。そういうことは任せたぞ、と言いたげに。アルフレドの方は苦笑いするしかない。
『ああでも! キメラ能力を得てからというもの、風の魔法は大の得意になったのだ。主な用途は防御魔法だがね』
それ以外にオルフェができることは主に二つ。
グリフォンに姿を変え、空を飛ぶこと。そしてグリフォンの姿のまま小さくなること。
「やっぱり小さくなれるんだ」
「すごいだろう! おそらくキメラ化させるための触媒に竜の一部が組み込まれているからだな!」
そこはフィアと一緒であるということは、やはりフィアのキメラ化はかなりいい線をいっていたのだということがわかる。
「小さいままならアオイと寝室を共にできるな? いや、別に小さくなる必要も……ヒィ! じょ、冗談の通じないやつめ!」
オルフェの軽口にアルフレドが即殺気だった視線を送ったので、オルフェはあっさりと引き下がった。
「オルフェの私への愛もその程度ってことね~~~」
「こ、こら! やめないか! 嫁入り前の娘がそ、そんなことを軽々しく言うものではない……!」
チラチラとアルフレドの方を確認しながら焦るオルフェ。彼はアルフレドを本気で敵に回してまで蒼を口説く気はないので、大人しく今は屋根裏部屋で眠っている。
あっという間にここの快適な生活に順応したオルフェは、
「御使達め。たまにはいい仕事をするじゃないか」
そう偉そうに感想を述べていた。
そんなオルフェがさらに偉そうになるのが、道中の偵察だ。やはり空から先を見通せるのは地上組には大変助かる。魔物の気配はアルフレドがいるので問題ないが、道が塞がっていたり、行き倒れている人がいたり、小さな集落を見つけたりと事前に情報が得られるのは大きい。
「大規模な商隊が先にいたぞ」
地上に降り立ったオルフェはゆったりとした服を羽織っている。一部の魔法使いが好むような服装だ。変身の度に服の着脱が必要なので、本人も気に入っているようだった。
「おぉ! ちょっと久しぶりね~」
魔物が溢れているせいで物流が滞り気味になっていることは知っていた。最近、商人達はなるべく固まって、護衛と共に移動するようになっている。
「どうしましょう? 追いかけてナッツ類や茶葉を譲ってもらいますか?」
「ドライフルーツもあと少しだったよ」
「あの数じゃあ聖水の補給もした方がいいだろう。助けてあげたらどうだね?」
口々に蒼の方を向いて、商隊を追いかける理由を告げる。理由は色々だ。好奇心、戦力不足への心配、ただの気晴らし……。
(私に確認取らなくってもいいのになぁ)
彼らからの配慮はありがたいところだが、遠慮されすぎな気もしていた。
「聖水を提供して諸々補給させてもらおうか! オルフェ、どのくらいで追いつけそう?」
「英断だな! 今のペースなら半日もあればいけるだろう」
だがしかし、なかなか予定通りにはいかなかった。
「上から魔物がくるぞ!」
商隊が視界に入り、あちら側の護衛もこちらに気がつき、蒼が手を振って挨拶をしたまさにその瞬間だったのだ。人面鳥の群れが上空からダイブするかのように飛び込んでくる。
アルフレドの大声で一部の魔法使い達が防御体制に入ったおかげで初撃が防げたのが大きかった。
「行きたまえ! ここは私が!」
オルフェがアルフレドの方をみて大声を出すと同時に、頭の上に風の渦を作り出した。傘のように蒼やレーベンの頭上にもそれが。それを確認してアルフレドとフィアがすぐにハーピー討伐の加勢にと駆け出していった。
「悪いが風の防御魔法は三箇所が限界だ!」
馬達と共に大きな風の渦の傘の下にいるオルフェはこれから蒼とレーベンが何をするかわかっているようだった。だがその風の防御魔法は蒼が動くと自動でついてくる。なかなか便利だ。
(適当に聞いているかと思ってたけど、ちゃんと覚えてたのね~)
蒼達はこういう出来事に遭遇した場合、それを放置しない、ということをオルフェには伝えていた。そしてその場合、アルフレドとフィアが戦闘に出て、蒼とレーベンは敵の隙を見て怪我人に聖水で処置をしているということも。彼はいつも自分の話をしたがっていたので、まさかちゃんと理解してくれているとは、という驚きがある。
「レーベンはあっちの人お願い!」
「了解です!」
商隊の荷物がダメになっては困ると、アルフレド他、護衛兵達は少し離れた場所で戦闘を続けていた。その間に二人は怪我人の介抱を続ける。
「おいレーベン気をつけろ! 敵が来ているぞ!」
治療に集中し過ぎていたせいで、ハーピーの一部がレーベンを狙っていることに気が付かなかったのだ。オルフェは服を脱ぎ始めていた。グリフォンへと変身して体当たりするつもりなのだ。
だがカーライル兄弟はなかなかできる兄弟である。すでに気づいていたフィアが素早く駆け戻り、レーベンに迫るハーピーの首元をひと咬みで倒した。
「助かったよ」
嬉しそうにレーベンに頭を撫でてもらった後、フィアはまた慌ただしく戦闘へと戻っていった。
そうして彼の目の前には、半裸状態のオルフェが。
「うむ。実に素晴らしい働きだ」
「オルフェさんの強力な魔法に頼り過ぎていました! 気をつけますね」
彼が自分を助けようとしてくれたことはレーベンもわかっているので、急いでオルフェの服をなおしながらお礼をいった。もちろんオルフェは満足そうにしている。
戦闘は間も無く終わった。
「ずいぶん数が多かったな」
「人通りも減ったからな。魔物も獲物が足らんのだろう」
損害を確認しながら商人達が話している。
「ほんっとーに助かりました! あなた方がいなかったと思うとゾッとしますよ」
商隊長が直々に蒼達一行に頭を下げた。襲撃の規模を考えれば損害はかなり小さい。怪我人にかんしては聖水のおかげでゼロなのだから。これは怪我した後すぐに処置したから、という理由も大きいのだ。
そんなこともあり、蒼達は希望の商品を格安で譲り受けることができた。
「やっぱ人助けはするものね~!」
「まさかアーシュのシロップの取り扱いがあるとは」
こんな風に本人達は実に呑気な会話を繰り広げている一方で、助けられた商隊の商人や護衛兵達は噂話に力を入れていた。
『あの方々は勇者の一行ではないのか?』
と。
それは商人達の間でまことしやかに広がっている噂だった。本物の勇者は対魔王軍に参加しておらず、御使より選ばれた英雄の末裔達と共に魔王浄化のためにこっそりと旅を続けていると。
「しかし対魔王軍のおかげで世界はギリギリ平和を保てているぞ?」
「いや、本物の勇者ならもっと成果が出ているのではないかと言う者もいるんだ」
「つまらん結果論だな」
小さな声でコソコソと。
「私も聞いたことがある……。戦士とテイマーと、強い浄化作用を持つ聖水を操る女性に助けられた商人の話を」
「あ! それは私もあるぞ! 神官でもないのに瘴気の影響を受けないとか」
「となると、神官の末裔か……勇者の……」
全員が顔を見合わせていた。
「ここだけの話だが……御使に選ばれた神官の末裔様はまだ合流できていない、という話もある。東方の国のご出身故に移動に時間がかかっているとか」
「おぉ! それは私も聞いたことが……!」
出るわ出るわの噂の数々。商人は情報収集力が高い。
全員が小さく興奮している。そしてチラチラと蒼達を見ていた。
圧倒的な戦闘力を持つ戦士に大犬を操る少年テイマー、特殊な風魔法を使っていた魔法使い、そしてなぜか強力な浄化作用の聖水を惜しむことなく他人に使う黒髪の女性……。
「きっとあの方々が勇者の御一行なのだ……!」
「シッ!」
「ああ……これは我々だけの秘密だ……!」
とはいえ、人の口に戸は建てられない。この噂は徐々に徐々に、世界に広まっていくのだった。
184
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー
芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。
42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。
下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる