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第三部 元悪役令嬢は原作エンドを書きかえる
34 守るもの
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(このドキドキ……前世で職員室に呼び出された時みたい……)
いや、それとも部長から別室に呼び出しがあった時か……? どちらにしても気が重いというのは確かだ。控えの間で同時に呼び出された全員が神妙な顔になっている。私、ルカ、レオハルト、フィンリー様、アイリス、ジェフリー、アリアの同学年メンバーだ。これから私達はシャーロット様の件で王と直接話をしなければならない。
(悪いことしたわけじゃないけど、隠し事はあるからなぁ)
正直なところ今日、予知夢の――私が厄災の令嬢となる未来を王に伝えてしまってもいいと思っていた。だが、
『陛下に全て話したいのは後ろめたさ……要するに気持ちの問題だ。確かに隠し事は不信に繋がる。だが皆、陛下の、この国の為に誠実に動いたはずだ。そこに嘘偽りはない』
というレオハルトの言葉で状況が変わった。
『これに関してはなにが正解か判断するのが難しいですね……私個人としてはレオハルト様と同意見ですが……』
ちょっと困ったようにジェフリーは私の方に笑顔を見せた。私が、えぇぇ……と顔をしかめていたからだろう。
『話したところで誰も幸せにならなくない?』
もういいじゃん、とルカ。
『ええ。ただでさえこれからこの国は大変なことにならすから。リディアナ様のあったかもしれない未来について報告する必要はないかと』
大したことじゃないと言いたげなアリアに、
『黙っていることが最善だな』
『そうそう。沈黙は金ってやつ!』
フィンリー様とアイリスがたたみかけるよう同調した。
要するに、私は彼らに守られた。私の立場、これまでの評価、そして未来のために。
◇◇◇
「ねぇこれ……お母様にバレてるのかな……」
「うぅ……考えたくない……」
控えの間で親バレの心配をしているのは私とルカだ。散々放任主義で育った公爵家の双子としてやってきたが、今回は流石に一線を越えた自覚がある。流石に一国の王に叱責されるようなことがあれば怒られそうだ。ああ、余計に緊張してきた。
(って、親に怒られるかどうかでドキドキするなんてまだまだ平和ボケかしら?)
緊張はしているが、最悪の状況……例えばレオハルトの廃嫡や我々の国外追放なんていう重い刑罰はないと高を括っている。
私達に先立って、というより王都に到着して早々にレオハルトとジェフリーは王にシャーロット様の件を報告していた。その時にたった一言ではあるが、
『よくやった』
という言葉を貰っていたので、そこからひっくり返って『地下牢行き!』なんてこともないだろう。
ただその時、王はレオハルト達に背を向けていて表情が見えなかったというのと、それから二日間も何の連絡もなかったことが気になりはするが……。
「こちらへ」
従者の声に一同、平静を取り戻そうと大きく深呼吸をし、レオハルトを先頭に王の元へと足を進める。いつもの執務室ではない。今日は『王の間』。なあなあな話では許されないということだ。
(こりゃすごい面子が揃ってるわね……)
王座に座るレオハルトの父、ランベール・エルディア。その周囲には彼を支える優秀な家臣達が控えている。クスリとも笑っている者はいない。緊張すまいと思っていてもこれは無理そうだ。
「エルディア王国第一王子、レオハルト・オースティン。そしてその輩達よ。シャーロット王妃を救いだしたこと、まことに見事であった」
頭の上から聞こえてきた王の声に、ホッとしたいところではあったが、この言葉には続きがあった。
「……だが、なぜ私に報せなかった。なぜ独断で動いた。なぜそなた達だけで抱え込んだのだ!」
威圧感のある声。人生二度目の私でもちょっぴりビビっていた。部長に詰められた時の方がずっとましだ。だが、隣に並ぶレオハルトはそうではなかった。
「申し開きもございません。王家に連なる身として未熟な判断でございました」
膝をつき、頭を垂れ、レオハルトはただその言葉に全てを込めた。”なぜ”を追求されてしまうと、”厄災の令嬢”について説明の必要がでてくるからだ。言い訳も弁明もしない、とただ王の裁きに従う態度でいる。もちろん、私達もそれに続いてより深く頭を垂れる。するとあっという間に空気が変わった。
「いや、なにより結果を出したのだ。これ以上は言うまい……よくやった。私は感謝しなければならない立場だというのに……王として叱責してしまった……すまなかったな」
レオハルトの意図を汲んでくれたのか、それとも王にとって”なぜ”は重要ではなかったのか……。王の声はいつも通りになっていた。
「レオハルト。お前は私が成し遂げられなかったことをやり遂げたのだ」
どうやら先ほどの叱責は形式的なものだったかのように、王は顔を上げなさい、と私達にも促す。レオハルトもここまでの言葉をかけられるとは思っていなかったのか、キョトンと口が半開きになりかけていたが、
「私一人では到底無理なことでございました」
レオハルトらしく、私達の功績を称えることを忘れない。
「ああその通りだとも。だがそれはお前と共に歩む者達……信じるに足る者達がそれだけいるということだ。そのような関係をお前が作り上げてきたということだ。それはこの国の王にとって必要なものだろう」
それから王は、真っ直ぐに自分の息子を見つめた。成長を喜んでいる親のような笑みで。正直、これまであまり見たことのない表情だ。ランベール王は王としていつも王子に接していた。
「私も安心してこの席を譲ることができそうだ」
一瞬でこの空間に強い緊張が駆け巡る。家臣達は表情を変えず、我々は思わず声が漏れそうになるのを必死に抑えていた。
(レオハルトを正式な後継者に!?)
次期王はレオハルトでほぼ決まり、というところではあったが、これまで公的な場で王がそう発言したことはなかったのだ。これが【王の間】に呼びだされた理由の一つに違いない。
(やった! ……やった!!!)
嬉しくてたまらない。私やシャーロット様を倒す本来の未来なしにレオハルトは王位に就けるのだ。誇らしい気持ちで心がいっぱいになる。ジェフリーは泣きそうだ。口にギュッと力を込めていた。
周囲の家臣達も特に不満を表情に出す者もいなかった。現状では妥当、と思われているだけかもしれないが、母親が平民のレオハルトにとって、早い段階で正直想定よりずっといい状況になった。
「ああしかし。この王座をお前に譲る前にきっちり掃除はしておかなければ」
ここでまたも空気が変わったように感じたのは、王の表情が見たことがこれまでないものだったからだ。薄ら笑いを浮かべていた。喜んでいるようにも怒りで顔が歪んでいるようにも見える。
「これから私は忙しくなるだろう。お前の力を借りることもあるかもしれん。どうかよろしく頼む」
「もちろんでございます」
レオハルトが改めて頭を下げる。ランベール王はそれを確認すると、私達の方へと視線を移す。
「どうかこれからもレオハルトを支えてやって欲しい」
慌てて私達も頭を下げた。なんだか、急に大人になった気分だ。いや、私はそもそもずっと精神的には大人と言ってもいいのだが……。なんだか、子供時代の終わりを感じて、嬉しいような寂しいような、ちょっぴり誇らしいような気持ちが入り乱れた。
◇◇◇
「ああ。これでやっと……」
息子達との話が終わった後、執務室に戻ったランベール王は満面の笑みを浮かべていた。目、以外は。底知れぬ怒りと恨みを瞳から感じとった従者は、ゾワリと背筋が凍る自分に気付かないフリをする。
「バロン」
「ここに」
影から突然現れたのは薬草取りの男だ。彼も王と同じような笑みを浮かべている。
「待たせて悪かったな。始めるぞ」
気付けばバロンの後ろには何人もの影が。
彼らは今日この日を心待ちにしていたのだ。
愛するシャーロットを殺し、その亡骸をも冒涜した者達への復讐を。
いや、それとも部長から別室に呼び出しがあった時か……? どちらにしても気が重いというのは確かだ。控えの間で同時に呼び出された全員が神妙な顔になっている。私、ルカ、レオハルト、フィンリー様、アイリス、ジェフリー、アリアの同学年メンバーだ。これから私達はシャーロット様の件で王と直接話をしなければならない。
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正直なところ今日、予知夢の――私が厄災の令嬢となる未来を王に伝えてしまってもいいと思っていた。だが、
『陛下に全て話したいのは後ろめたさ……要するに気持ちの問題だ。確かに隠し事は不信に繋がる。だが皆、陛下の、この国の為に誠実に動いたはずだ。そこに嘘偽りはない』
というレオハルトの言葉で状況が変わった。
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ちょっと困ったようにジェフリーは私の方に笑顔を見せた。私が、えぇぇ……と顔をしかめていたからだろう。
『話したところで誰も幸せにならなくない?』
もういいじゃん、とルカ。
『ええ。ただでさえこれからこの国は大変なことにならすから。リディアナ様のあったかもしれない未来について報告する必要はないかと』
大したことじゃないと言いたげなアリアに、
『黙っていることが最善だな』
『そうそう。沈黙は金ってやつ!』
フィンリー様とアイリスがたたみかけるよう同調した。
要するに、私は彼らに守られた。私の立場、これまでの評価、そして未来のために。
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「うぅ……考えたくない……」
控えの間で親バレの心配をしているのは私とルカだ。散々放任主義で育った公爵家の双子としてやってきたが、今回は流石に一線を越えた自覚がある。流石に一国の王に叱責されるようなことがあれば怒られそうだ。ああ、余計に緊張してきた。
(って、親に怒られるかどうかでドキドキするなんてまだまだ平和ボケかしら?)
緊張はしているが、最悪の状況……例えばレオハルトの廃嫡や我々の国外追放なんていう重い刑罰はないと高を括っている。
私達に先立って、というより王都に到着して早々にレオハルトとジェフリーは王にシャーロット様の件を報告していた。その時にたった一言ではあるが、
『よくやった』
という言葉を貰っていたので、そこからひっくり返って『地下牢行き!』なんてこともないだろう。
ただその時、王はレオハルト達に背を向けていて表情が見えなかったというのと、それから二日間も何の連絡もなかったことが気になりはするが……。
「こちらへ」
従者の声に一同、平静を取り戻そうと大きく深呼吸をし、レオハルトを先頭に王の元へと足を進める。いつもの執務室ではない。今日は『王の間』。なあなあな話では許されないということだ。
(こりゃすごい面子が揃ってるわね……)
王座に座るレオハルトの父、ランベール・エルディア。その周囲には彼を支える優秀な家臣達が控えている。クスリとも笑っている者はいない。緊張すまいと思っていてもこれは無理そうだ。
「エルディア王国第一王子、レオハルト・オースティン。そしてその輩達よ。シャーロット王妃を救いだしたこと、まことに見事であった」
頭の上から聞こえてきた王の声に、ホッとしたいところではあったが、この言葉には続きがあった。
「……だが、なぜ私に報せなかった。なぜ独断で動いた。なぜそなた達だけで抱え込んだのだ!」
威圧感のある声。人生二度目の私でもちょっぴりビビっていた。部長に詰められた時の方がずっとましだ。だが、隣に並ぶレオハルトはそうではなかった。
「申し開きもございません。王家に連なる身として未熟な判断でございました」
膝をつき、頭を垂れ、レオハルトはただその言葉に全てを込めた。”なぜ”を追求されてしまうと、”厄災の令嬢”について説明の必要がでてくるからだ。言い訳も弁明もしない、とただ王の裁きに従う態度でいる。もちろん、私達もそれに続いてより深く頭を垂れる。するとあっという間に空気が変わった。
「いや、なにより結果を出したのだ。これ以上は言うまい……よくやった。私は感謝しなければならない立場だというのに……王として叱責してしまった……すまなかったな」
レオハルトの意図を汲んでくれたのか、それとも王にとって”なぜ”は重要ではなかったのか……。王の声はいつも通りになっていた。
「レオハルト。お前は私が成し遂げられなかったことをやり遂げたのだ」
どうやら先ほどの叱責は形式的なものだったかのように、王は顔を上げなさい、と私達にも促す。レオハルトもここまでの言葉をかけられるとは思っていなかったのか、キョトンと口が半開きになりかけていたが、
「私一人では到底無理なことでございました」
レオハルトらしく、私達の功績を称えることを忘れない。
「ああその通りだとも。だがそれはお前と共に歩む者達……信じるに足る者達がそれだけいるということだ。そのような関係をお前が作り上げてきたということだ。それはこの国の王にとって必要なものだろう」
それから王は、真っ直ぐに自分の息子を見つめた。成長を喜んでいる親のような笑みで。正直、これまであまり見たことのない表情だ。ランベール王は王としていつも王子に接していた。
「私も安心してこの席を譲ることができそうだ」
一瞬でこの空間に強い緊張が駆け巡る。家臣達は表情を変えず、我々は思わず声が漏れそうになるのを必死に抑えていた。
(レオハルトを正式な後継者に!?)
次期王はレオハルトでほぼ決まり、というところではあったが、これまで公的な場で王がそう発言したことはなかったのだ。これが【王の間】に呼びだされた理由の一つに違いない。
(やった! ……やった!!!)
嬉しくてたまらない。私やシャーロット様を倒す本来の未来なしにレオハルトは王位に就けるのだ。誇らしい気持ちで心がいっぱいになる。ジェフリーは泣きそうだ。口にギュッと力を込めていた。
周囲の家臣達も特に不満を表情に出す者もいなかった。現状では妥当、と思われているだけかもしれないが、母親が平民のレオハルトにとって、早い段階で正直想定よりずっといい状況になった。
「ああしかし。この王座をお前に譲る前にきっちり掃除はしておかなければ」
ここでまたも空気が変わったように感じたのは、王の表情が見たことがこれまでないものだったからだ。薄ら笑いを浮かべていた。喜んでいるようにも怒りで顔が歪んでいるようにも見える。
「これから私は忙しくなるだろう。お前の力を借りることもあるかもしれん。どうかよろしく頼む」
「もちろんでございます」
レオハルトが改めて頭を下げる。ランベール王はそれを確認すると、私達の方へと視線を移す。
「どうかこれからもレオハルトを支えてやって欲しい」
慌てて私達も頭を下げた。なんだか、急に大人になった気分だ。いや、私はそもそもずっと精神的には大人と言ってもいいのだが……。なんだか、子供時代の終わりを感じて、嬉しいような寂しいような、ちょっぴり誇らしいような気持ちが入り乱れた。
◇◇◇
「ああ。これでやっと……」
息子達との話が終わった後、執務室に戻ったランベール王は満面の笑みを浮かべていた。目、以外は。底知れぬ怒りと恨みを瞳から感じとった従者は、ゾワリと背筋が凍る自分に気付かないフリをする。
「バロン」
「ここに」
影から突然現れたのは薬草取りの男だ。彼も王と同じような笑みを浮かべている。
「待たせて悪かったな。始めるぞ」
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