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第一部 悪役令嬢の幼少期
23 甘味
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悪役令嬢にとってお茶会は切っても切れないイベントである。
お茶会とパーティはライバルであるヒロインを陥れる絶好の機会だ。平民のヒロインを身分を理由にハミるか、呼んでおいてマナーがなってないと叱責にするか、芋くさい格好だと馬鹿にする。
だが今はまだヒロインはいない。なのでただただ私の、我が家の威厳を示すために十歳前後の女の子達をもてなさなければならないのである。元二十六歳の私が!
「お茶会だっる!」
「だるくてもしていただきます」
エリザは相変わらず有無を言わせない圧がある。
庭には薔薇が咲き乱れていた。毎年我が家はこの時期にお茶会を開くのだ。規模的にはお茶会というより、ガーデンパーティに近い。氷石病での自粛ムードもすでになくなっており、お茶会を開催しない為の言い訳が何もなくなってしまっていた。
「お母様がやればいいじゃない……」
「もちろんサーシャ様も開かれますが、お嬢様とはまた別です」
え!? 冗談で言ったのにやる気なの!?
「あんな忙しそうにしてるのにお茶会なんてする暇あるんだ!?」
お茶会なんて私にとって陽キャのバーベキューみたいなものなのだ。やりたいやつだけ集ってやればいいじゃん!
「……招待状はもう昨日お送りしております。早ければ今日にはお返事がくるでしょう。覚悟を決めてくださいませ」
「うわぁぁん! 誰もこなかったらどうしよう~」
ハミられるのは全然平気だけど、呼んで来てもらえないのは嫌だ! 想像しただけで辛い。
「まあお嬢様! そんなこと気にされていたのですか? お嬢様に呼ばれてこないご令嬢などおりませんよ!」
「そうなの?」
「あたりまえです! お嬢様はフローレス公爵家の長女にして第一王子の婚約者ですよ!」
マリアが元気づけてくれて思い出した。そういえば私、肩書きはなかなかいいもの持ってるんだった。
「エリザもマリアも私の言うことなんて全然聞いてくれないし、遠慮も皆無だからすっかり忘れてたわ」
「フフフ! その方がお好きでしょうに!」
自信満々に答えるマリアが可愛い。珍しくエリザも微笑んでいるのが見えた。
「リディ! お父様が帰ってくるって!」
急に扉を開けてルカが入ってきた。息を切らしている。
「もう船が着いたって!」
ルカの後ろから我が家の次男ロディが入ってきた。
◇◇◇
「皆~! 元気だったかい?」
「お父様!」
ロディとソフィアが父に抱き着く。予定より三日早い到着となり我が家は大騒ぎだ。家中が喜んでいる。
父はたくさんの荷物を持って帰ってきた。使用人たちはいそいそとその荷物を運び荷ほどきをしている。
「リディ! ますます綺麗になって!」
久しぶりに見た父は、髪の毛が少し伸びていたが、変わらずくしゃりとした笑顔を私に向けてくれた。
「頼まれていたもの買ってきたよ!」
「本当ですか!!! どのです!? どの箱です!?!?」
嬉しい! フィンリー様に会えた時の次くらいに嬉しい! 私の喜びようを見て父は驚いたようだった。
「そんなにかい? でもリディの口には合わないかもしれないよ?」
少し心配そうに、気遣うように声をかけられる。
「いいえ! 魂には合っていますから問題ありません!」
急いで屋敷のキッチンへ向かう。ルカも一緒についてきた。
「ごめんなさい! 邪魔するわね!」
キッチンの大きなテーブルに父からのお土産を広げる。料理人達が気を利かせてスペースを開けてくれた。
味噌、醤油、米、梅干し、緑茶……ああ、本当に嬉しくてたまらない。それから昆布、鰹節、干し椎茸もある! この物語とのミスマッチがすごいが、そんなのどうでもいいと思えるほどの輝きがここにはある。
「それなんなの?」
「私の魂が欲していたものよ」
ルカがしげしげと見てきた。まずはお茶を入れようとティーセットを用意してもらう。
そうしてこれまた用意してもらった沸騰したお湯を少し冷まして注いだ。
「ああ~この匂い……」
「紅茶とは違うね」
ズズズ……音を立ててお茶を飲む。周囲にいた使用人たちがギョッとしているが気にしない。今日ばかりは許してもらおう。
「はぁ……幸せ……」
ああ本当に幸せだ。ずっと求めていた味だ。何より心が満たされていくのがわかる。
「うっ」
ルカは小さく声を出した。そしてそのままお茶を注いだコップに角砂糖を入れている。
「え!?」
「え?」
飲みなれない緑茶はルカにとっては渋すぎたようだ。しかし砂糖……いや、美味しく飲めたらそれでいいことにしよう。
「なんでもないわ」
「リディ、もしかしてこのお茶をお茶会の時に出すつもりなの?」
ルカが少し心配そうに聞いてくる。
「出さないわよ。もったいない」
私からすると紅茶も十分渋みがあるのだが……馴染みのないものを子供に出してもいい反応はないだろう。
「今回はオーソドックスなものばかりよ」
特に目立つ必要もない。出すもの全て一級品なのだ。誰も文句は言わないだろう。転生者無双も(やれたためしはないが)今回するつもりはない。
「せっかくだからこの間言ってたやつにしようよ!」
「いやだ! そういうのはここぞという時のためにとっとくの」
この屋敷内では、すでにある程度前世の知識を生かしたお菓子は出している。だけどまだ表には何も出していない。悪役令嬢として何があるかわからないし、いざという時の為の武器は隠しておきたいのだ。
「出し惜しみしないでさぁ。いいじゃないか! 僕も食べたい!」
キッチンから出た後もルカは粘っていた。よっぽど以前話したお菓子を食べてみたいようだ。
私がこの世界で簡単に無双出来そうな唯一のジャンル、それは食である。特にお菓子類は手っ取り早く無双出来そうな予感がしている。だからこそ温めているのだ。
作中それなりにお菓子は出ていたが、どれもパイか焼き菓子かチョコレートだった。私が知る限りあまりこの世界、少なくともこの国は、甘味のある食べ物のバリエーションが多くない。
(砂糖はしっかりあるのに)
せっかくお茶会文化があるのに、お茶菓子は伝統を重んじてか決まりきったものが多いのだ。
「お嬢様、早速お返事が届きましたよ!」
私の朝の不安を気にかけてくれていたからか、マリアが嬉しそうに手紙を届けてくれた。
「すでにこんなにたくさん届いております。皆様楽しみにしておいでのようです」
「ほら~! 皆フローレス家に期待してるよ!」
手紙の宛名を確認していると、ライザ・カルヴィナのもがあった。それから以前のお茶会で私の父を馬鹿にし、私に大暴れさせる原因を作った腐れ女のクレア・ジェンナーのものも。
(欠席! 欠席! 欠席! 欠席! 欠席!)
激しく祈りながら、ゆっくり二通の封筒を開ける。
「出席かよ……」
何でくるんだよ! 呼んでおいてなんだけど、くんなよ!
「そりゃあお嬢様からのお誘いですから!」
「でも誘わなきゃそれはそれでダメなんでしょ?」
「そうですね!」
ライザは言わずもがな、どうせ難癖つけてくるだろう。ド腐れ女クレアの方はこちらが気まずいのだ。今のリディアナからすると、あの時やり過ぎたという気持ちがあるから。
「『リディアナ様がどのようなお茶会を開かれるか、とても楽しみにしております』だって! ほら、喧嘩売られてるよ?」
返事を読んだルカが意気揚々と煽ってくる。原作の気弱だが心優しい悪役令嬢の弟はどこいった? しっかり公爵家の我儘令嬢の弟っぽくなってるぞ!
「ふ、深読みしすぎよ!」
「またまたぁ! わかってるくせに! あのライザ嬢だよ?」
あのガキャ懲りないな! いやいや、ガッツがあると褒めるべきか。
「ほらほら! これは気合い入れなきゃなんじゃない!?」
「はぁ。わかったわよ……ちょっと考えるわ」
また大暴れするわけにはいかない。打てる手は全て打っておかなければ。
お茶会とパーティはライバルであるヒロインを陥れる絶好の機会だ。平民のヒロインを身分を理由にハミるか、呼んでおいてマナーがなってないと叱責にするか、芋くさい格好だと馬鹿にする。
だが今はまだヒロインはいない。なのでただただ私の、我が家の威厳を示すために十歳前後の女の子達をもてなさなければならないのである。元二十六歳の私が!
「お茶会だっる!」
「だるくてもしていただきます」
エリザは相変わらず有無を言わせない圧がある。
庭には薔薇が咲き乱れていた。毎年我が家はこの時期にお茶会を開くのだ。規模的にはお茶会というより、ガーデンパーティに近い。氷石病での自粛ムードもすでになくなっており、お茶会を開催しない為の言い訳が何もなくなってしまっていた。
「お母様がやればいいじゃない……」
「もちろんサーシャ様も開かれますが、お嬢様とはまた別です」
え!? 冗談で言ったのにやる気なの!?
「あんな忙しそうにしてるのにお茶会なんてする暇あるんだ!?」
お茶会なんて私にとって陽キャのバーベキューみたいなものなのだ。やりたいやつだけ集ってやればいいじゃん!
「……招待状はもう昨日お送りしております。早ければ今日にはお返事がくるでしょう。覚悟を決めてくださいませ」
「うわぁぁん! 誰もこなかったらどうしよう~」
ハミられるのは全然平気だけど、呼んで来てもらえないのは嫌だ! 想像しただけで辛い。
「まあお嬢様! そんなこと気にされていたのですか? お嬢様に呼ばれてこないご令嬢などおりませんよ!」
「そうなの?」
「あたりまえです! お嬢様はフローレス公爵家の長女にして第一王子の婚約者ですよ!」
マリアが元気づけてくれて思い出した。そういえば私、肩書きはなかなかいいもの持ってるんだった。
「エリザもマリアも私の言うことなんて全然聞いてくれないし、遠慮も皆無だからすっかり忘れてたわ」
「フフフ! その方がお好きでしょうに!」
自信満々に答えるマリアが可愛い。珍しくエリザも微笑んでいるのが見えた。
「リディ! お父様が帰ってくるって!」
急に扉を開けてルカが入ってきた。息を切らしている。
「もう船が着いたって!」
ルカの後ろから我が家の次男ロディが入ってきた。
◇◇◇
「皆~! 元気だったかい?」
「お父様!」
ロディとソフィアが父に抱き着く。予定より三日早い到着となり我が家は大騒ぎだ。家中が喜んでいる。
父はたくさんの荷物を持って帰ってきた。使用人たちはいそいそとその荷物を運び荷ほどきをしている。
「リディ! ますます綺麗になって!」
久しぶりに見た父は、髪の毛が少し伸びていたが、変わらずくしゃりとした笑顔を私に向けてくれた。
「頼まれていたもの買ってきたよ!」
「本当ですか!!! どのです!? どの箱です!?!?」
嬉しい! フィンリー様に会えた時の次くらいに嬉しい! 私の喜びようを見て父は驚いたようだった。
「そんなにかい? でもリディの口には合わないかもしれないよ?」
少し心配そうに、気遣うように声をかけられる。
「いいえ! 魂には合っていますから問題ありません!」
急いで屋敷のキッチンへ向かう。ルカも一緒についてきた。
「ごめんなさい! 邪魔するわね!」
キッチンの大きなテーブルに父からのお土産を広げる。料理人達が気を利かせてスペースを開けてくれた。
味噌、醤油、米、梅干し、緑茶……ああ、本当に嬉しくてたまらない。それから昆布、鰹節、干し椎茸もある! この物語とのミスマッチがすごいが、そんなのどうでもいいと思えるほどの輝きがここにはある。
「それなんなの?」
「私の魂が欲していたものよ」
ルカがしげしげと見てきた。まずはお茶を入れようとティーセットを用意してもらう。
そうしてこれまた用意してもらった沸騰したお湯を少し冷まして注いだ。
「ああ~この匂い……」
「紅茶とは違うね」
ズズズ……音を立ててお茶を飲む。周囲にいた使用人たちがギョッとしているが気にしない。今日ばかりは許してもらおう。
「はぁ……幸せ……」
ああ本当に幸せだ。ずっと求めていた味だ。何より心が満たされていくのがわかる。
「うっ」
ルカは小さく声を出した。そしてそのままお茶を注いだコップに角砂糖を入れている。
「え!?」
「え?」
飲みなれない緑茶はルカにとっては渋すぎたようだ。しかし砂糖……いや、美味しく飲めたらそれでいいことにしよう。
「なんでもないわ」
「リディ、もしかしてこのお茶をお茶会の時に出すつもりなの?」
ルカが少し心配そうに聞いてくる。
「出さないわよ。もったいない」
私からすると紅茶も十分渋みがあるのだが……馴染みのないものを子供に出してもいい反応はないだろう。
「今回はオーソドックスなものばかりよ」
特に目立つ必要もない。出すもの全て一級品なのだ。誰も文句は言わないだろう。転生者無双も(やれたためしはないが)今回するつもりはない。
「せっかくだからこの間言ってたやつにしようよ!」
「いやだ! そういうのはここぞという時のためにとっとくの」
この屋敷内では、すでにある程度前世の知識を生かしたお菓子は出している。だけどまだ表には何も出していない。悪役令嬢として何があるかわからないし、いざという時の為の武器は隠しておきたいのだ。
「出し惜しみしないでさぁ。いいじゃないか! 僕も食べたい!」
キッチンから出た後もルカは粘っていた。よっぽど以前話したお菓子を食べてみたいようだ。
私がこの世界で簡単に無双出来そうな唯一のジャンル、それは食である。特にお菓子類は手っ取り早く無双出来そうな予感がしている。だからこそ温めているのだ。
作中それなりにお菓子は出ていたが、どれもパイか焼き菓子かチョコレートだった。私が知る限りあまりこの世界、少なくともこの国は、甘味のある食べ物のバリエーションが多くない。
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せっかくお茶会文化があるのに、お茶菓子は伝統を重んじてか決まりきったものが多いのだ。
「お嬢様、早速お返事が届きましたよ!」
私の朝の不安を気にかけてくれていたからか、マリアが嬉しそうに手紙を届けてくれた。
「すでにこんなにたくさん届いております。皆様楽しみにしておいでのようです」
「ほら~! 皆フローレス家に期待してるよ!」
手紙の宛名を確認していると、ライザ・カルヴィナのもがあった。それから以前のお茶会で私の父を馬鹿にし、私に大暴れさせる原因を作った腐れ女のクレア・ジェンナーのものも。
(欠席! 欠席! 欠席! 欠席! 欠席!)
激しく祈りながら、ゆっくり二通の封筒を開ける。
「出席かよ……」
何でくるんだよ! 呼んでおいてなんだけど、くんなよ!
「そりゃあお嬢様からのお誘いですから!」
「でも誘わなきゃそれはそれでダメなんでしょ?」
「そうですね!」
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「『リディアナ様がどのようなお茶会を開かれるか、とても楽しみにしております』だって! ほら、喧嘩売られてるよ?」
返事を読んだルカが意気揚々と煽ってくる。原作の気弱だが心優しい悪役令嬢の弟はどこいった? しっかり公爵家の我儘令嬢の弟っぽくなってるぞ!
「ふ、深読みしすぎよ!」
「またまたぁ! わかってるくせに! あのライザ嬢だよ?」
あのガキャ懲りないな! いやいや、ガッツがあると褒めるべきか。
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