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第二部 元悪役令嬢の学園生活
1 桜の季節
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ついに物語が始まってしまった。三年後には私がアイリスに封印されるかどうか答え合わせができる。
今日は王立魔術学園の入学式だ。季節は春。学校行事は前世の日本と同じスタイルで、桜まで咲かせてくれている。なかなかいわれのある木らしいが、私はそれどころではない。
「無理……やだ……行きたくない……」
寮の自室でグダつきつつも、それは無駄だとわかっているのでノロノロと身支度を整える。数日前からいよいよ胃痛まで始まりゲッソリだ。何度も自身に治癒魔法をかけても一時しのぎに過ぎなかった。自分への治癒魔法は効果が薄くなる。
「寮の外で皆様お待ちです……先に行っていただくように伝えて参ります」
「ううん……今行くから……」
エリザはいつも通り無表情だが声は心配そうだった。
この魔術学園は全寮制で、王家直轄の領地に城のような学園が建てられている。学園近くにある学生街は貴族向けに高価な店が揃っている。城下も小規模ながら栄えているが、王都からの道は綺麗に舗装され、馬車で二、三時間程度の距離のため、休日は王都にある屋敷まで帰る生徒もいた。
生徒の約八割が貴族階級。平民もいるが、その場合ほとんどが多額の資産を持つ商人の子どもである。高額な学費が必要なのだ。そのため各自一名のみ、お付きの世話係も連れてくることが許されている。自分の世話をできる者はこの学園では少数だ。
ルカは女子寮の入り口のすぐそばで待っていてくれた。
「リディ……酷い顔だけど大丈夫?」
「大丈夫。今日も私は可愛いわよ……今さっき治癒魔法かけたから入学式が終わるまでは持つと思うわ」
「じゃあ気合い入れていこう!」
ここで配役の変更をお知らせしなければならない。
まず私、リディアナ・フローレスは、五年間バタバタと走り回ったのが功を奏して、ついに我儘令嬢という汚名を返上することができた。「元」我儘令嬢となれたのだ。つまり、脱! 悪役令嬢だ!
ルカは原作と違って、気弱とはほど遠い、物事をハッキリ意見できる、美しくもたくましい青年へと成長していた。私が育てました! と看板をぶら下げたい。相変わらず魔力操作は一流で、魔道具に関してもこの国でトップクラスの知識を持っている。実は魔道具で有名なヴィンザー帝国への留学の話もあったのだが、
『リディを一人にはしておけないよ』
何のためらいもなく断ってくれた。
『無事に学園を卒業できたら、その時また考えるから』
ね? いい男に育ったでしょう。どこに出しても恥ずかしくない優しく立派な人物になったので、案の定モテる。顔もいいしね。
次に紹介するのは婚約者レオハルトだ。そう、結局入学までに婚約破棄には至らなかった。色々と理由はあるが、結局はレオハルトが婚約破棄は嫌だとゴネ始めたのだ。話が違う。
『まだ王になれたわけじゃない。君のお母上の望み通り、港は全て開かれ、今では色んな商会が薬を取り扱うようになった。ならリディも俺の望みが叶うまで付き合ってくれてもいいだろ!』
この王子、こちらの弱味を握って私を婚約者にしたことに罪悪感があったはずなのに……いつからこんな我儘になったんだ。子育てに失敗してしまった。どこで間違えたんだ!
『レオハルト様、落ち着いてください』
ジェフリーは原作と同じように、大変優秀な側近だ。また原作同様、レオハルトとは互いに深い信頼関係で結ばれている。だけど原作ほど主に対して盲目的ではない。主人には耳が痛いことでも、主人のことを考えて発言しているのがわかる。それに心からの思いやりも。
私がレオハルトとそのうち婚約破棄するつもりだと告げた時も、かなり驚いてはいたが受け入れてくれた。原作の彼ならきっと自分の主を裏切るなんてと激昂していただろう。まあ原作ではレオハルトからの婚約破棄を受け入れなかったら激昂されたんだけど……。
『お二人がお互いに信頼なさっているのはわかっていますから、お二人でお決めになったことに口出しなどいたしません』
だから予定外に婚約破棄の話が進まないとジェフリーに愚痴ったら、しっかりとレオハルトと話してくれたのだ。……結局レオハルトの泣き落としに根負けしてしまったようだが……。原作よりマイルドに、さらに優しさを兼ね備えた成長をした。
そして肝心のフィンリー様だが、なんと冒険者になるお許しが両親から出たのだ。もちろん、学園の卒業後にはなるが。これは異例中の異例と言ってもいい。貴族が冒険者になりたかったら、伯父のように勘当覚悟で家出するのが普通だ。学園を優秀な成績で卒業することが条件だが、おそらくそれは何の問題もないだろう。すでに私達四人は、上級魔術師級のレベルには達している。アリバラ先生の指導がよかったのだ。
『ルイスとクララはどうですか?』
『元気元気! クララなんて少しも怖がらず飛龍に近づいていくから皆ヒヤヒヤさ!』
フィンリー様の兄フレッドと騎士団総長の娘ダリアは無事結婚し、今は子供が二人いる。後継者問題に不安がないのも許可がでた理由の一つかもしれない。フレッドは無事治療がうまくいって、今は領主代理として仕事をこなしている。
原作と違って、フィンリー様に女の陰は皆無だ。婚約の話も自身の将来のことを考えて全て断っている。飛龍が大好きな、冒険者に憧れる健全な青年となったフィンリー様は今日も輝いていた。
(その笑顔、絶対に守って見せる!)
その為に五年間走り続けたのだ。家族の崩壊は防げた。次はフィンリー様だ。あと三年、絶対にフィンリー様の死も防いでみせる。
(げっ!)
正面玄関のすぐそばで、会いたくもない人に会ってしまった。
「まったく、自身の体調も治せないとは……フローレス家の治療魔法なんてたかが知れますわね」
出ました! 悪役令嬢リディアナ・フローレスに代わりまして、新悪役令嬢ライザ・カルヴィナのお出ましである。彼女は今や第二王子の婚約者だ。どうやら評価爆上がりの我が家に張り合うつもりのようで、嫡子を変更してまで対抗してきた。余計なことをしてくれた。これで王子達の後継者争いが加速してしまったのだ。こんな彼女がアイリスの親友になれるのだろうか。いやダメだろうな。そうするとアイリスのお助けキャラは誰に……?
『第二王子を王にして、全てを私のモノにする』
少し前に私に宣戦布告してきたのだ。
(全てってなに!? レオハルトのこと!?)
彼への気持ちが歪んでしまっていそうで怖い。この私がヒエェ……っとビビり上がってしまった。怯えさせても可哀想なので、レオハルトにはこの事を伝えていない。
入学式は無事終わり、今日のメインイベント、レオハルトとアイリスの再開である。再開と気が付くのはアイリスだけだが、レオハルトは彼女に再び一目惚れするのだ。これでレオハルトの私への執着も少しおさまるだろう。なのに……。
「いないわ……」
「……例の未来の聖女様?」
「うん……」
事情を知るルカとコソコソと話す。あの可憐な花のような可愛らしい姿の女の子が見当たらない。私は正直、震えがくるほど動揺している。
(まさかアイリスの運命をどこかで変えてしまった?)
学園に入学していないのだろうか。今すぐにでも彼女の実家に突撃しに行きたい。
彼女がこの物語に参加しないなら、私の封印の可能性はかなり低くなる。だけどまだアリバラ先生の予知夢は解決していない。私が卒業式で学園の生徒達を虐殺し、龍王を従えて王都を襲撃している未来は残っているのだ。もしそうなった時、アイリスの力がなければ本気でこの国が滅びてしまう。私が走り回って未来を変えたのが無意味どころか、最悪の結末をもたらすことになる。そんなの絶対に嫌だ。
「リディ、大丈夫? また痛くなった?」
「あ……いや……」
真っ青になった私を見てルカが心配そうにしていた。動揺している場合ではない、それならそれで次にどうするか考えなくては。
「おい。なんだかすごく見られていないか?」
レオハルトに声をかけられて気が付いたが、確かにジッと私を見つめている女子がいる。最初はレオハルト率いるイケメン軍団を見ているだけかと思ったが、その一団から試しに離れたら、私を目で追いかけているのがわかった。
(あんな登場人物いたっけ……?)
ブロンドの長い髪の毛を綺麗に巻いている。耳飾りもこの国の人には珍しく沢山つけている。化粧も派手だ。制服のスカートも短く履いている。入学式だから気合いを入れたのだろうか。失礼かと思いながら相手を見つめていると、あちらが嬉しそうに小走りで近づいてくる。そして、
「リディアナ様こんにちは! あたし、アイリスです!」
その瞬間、目の前が真っ白になった。
今日は王立魔術学園の入学式だ。季節は春。学校行事は前世の日本と同じスタイルで、桜まで咲かせてくれている。なかなかいわれのある木らしいが、私はそれどころではない。
「無理……やだ……行きたくない……」
寮の自室でグダつきつつも、それは無駄だとわかっているのでノロノロと身支度を整える。数日前からいよいよ胃痛まで始まりゲッソリだ。何度も自身に治癒魔法をかけても一時しのぎに過ぎなかった。自分への治癒魔法は効果が薄くなる。
「寮の外で皆様お待ちです……先に行っていただくように伝えて参ります」
「ううん……今行くから……」
エリザはいつも通り無表情だが声は心配そうだった。
この魔術学園は全寮制で、王家直轄の領地に城のような学園が建てられている。学園近くにある学生街は貴族向けに高価な店が揃っている。城下も小規模ながら栄えているが、王都からの道は綺麗に舗装され、馬車で二、三時間程度の距離のため、休日は王都にある屋敷まで帰る生徒もいた。
生徒の約八割が貴族階級。平民もいるが、その場合ほとんどが多額の資産を持つ商人の子どもである。高額な学費が必要なのだ。そのため各自一名のみ、お付きの世話係も連れてくることが許されている。自分の世話をできる者はこの学園では少数だ。
ルカは女子寮の入り口のすぐそばで待っていてくれた。
「リディ……酷い顔だけど大丈夫?」
「大丈夫。今日も私は可愛いわよ……今さっき治癒魔法かけたから入学式が終わるまでは持つと思うわ」
「じゃあ気合い入れていこう!」
ここで配役の変更をお知らせしなければならない。
まず私、リディアナ・フローレスは、五年間バタバタと走り回ったのが功を奏して、ついに我儘令嬢という汚名を返上することができた。「元」我儘令嬢となれたのだ。つまり、脱! 悪役令嬢だ!
ルカは原作と違って、気弱とはほど遠い、物事をハッキリ意見できる、美しくもたくましい青年へと成長していた。私が育てました! と看板をぶら下げたい。相変わらず魔力操作は一流で、魔道具に関してもこの国でトップクラスの知識を持っている。実は魔道具で有名なヴィンザー帝国への留学の話もあったのだが、
『リディを一人にはしておけないよ』
何のためらいもなく断ってくれた。
『無事に学園を卒業できたら、その時また考えるから』
ね? いい男に育ったでしょう。どこに出しても恥ずかしくない優しく立派な人物になったので、案の定モテる。顔もいいしね。
次に紹介するのは婚約者レオハルトだ。そう、結局入学までに婚約破棄には至らなかった。色々と理由はあるが、結局はレオハルトが婚約破棄は嫌だとゴネ始めたのだ。話が違う。
『まだ王になれたわけじゃない。君のお母上の望み通り、港は全て開かれ、今では色んな商会が薬を取り扱うようになった。ならリディも俺の望みが叶うまで付き合ってくれてもいいだろ!』
この王子、こちらの弱味を握って私を婚約者にしたことに罪悪感があったはずなのに……いつからこんな我儘になったんだ。子育てに失敗してしまった。どこで間違えたんだ!
『レオハルト様、落ち着いてください』
ジェフリーは原作と同じように、大変優秀な側近だ。また原作同様、レオハルトとは互いに深い信頼関係で結ばれている。だけど原作ほど主に対して盲目的ではない。主人には耳が痛いことでも、主人のことを考えて発言しているのがわかる。それに心からの思いやりも。
私がレオハルトとそのうち婚約破棄するつもりだと告げた時も、かなり驚いてはいたが受け入れてくれた。原作の彼ならきっと自分の主を裏切るなんてと激昂していただろう。まあ原作ではレオハルトからの婚約破棄を受け入れなかったら激昂されたんだけど……。
『お二人がお互いに信頼なさっているのはわかっていますから、お二人でお決めになったことに口出しなどいたしません』
だから予定外に婚約破棄の話が進まないとジェフリーに愚痴ったら、しっかりとレオハルトと話してくれたのだ。……結局レオハルトの泣き落としに根負けしてしまったようだが……。原作よりマイルドに、さらに優しさを兼ね備えた成長をした。
そして肝心のフィンリー様だが、なんと冒険者になるお許しが両親から出たのだ。もちろん、学園の卒業後にはなるが。これは異例中の異例と言ってもいい。貴族が冒険者になりたかったら、伯父のように勘当覚悟で家出するのが普通だ。学園を優秀な成績で卒業することが条件だが、おそらくそれは何の問題もないだろう。すでに私達四人は、上級魔術師級のレベルには達している。アリバラ先生の指導がよかったのだ。
『ルイスとクララはどうですか?』
『元気元気! クララなんて少しも怖がらず飛龍に近づいていくから皆ヒヤヒヤさ!』
フィンリー様の兄フレッドと騎士団総長の娘ダリアは無事結婚し、今は子供が二人いる。後継者問題に不安がないのも許可がでた理由の一つかもしれない。フレッドは無事治療がうまくいって、今は領主代理として仕事をこなしている。
原作と違って、フィンリー様に女の陰は皆無だ。婚約の話も自身の将来のことを考えて全て断っている。飛龍が大好きな、冒険者に憧れる健全な青年となったフィンリー様は今日も輝いていた。
(その笑顔、絶対に守って見せる!)
その為に五年間走り続けたのだ。家族の崩壊は防げた。次はフィンリー様だ。あと三年、絶対にフィンリー様の死も防いでみせる。
(げっ!)
正面玄関のすぐそばで、会いたくもない人に会ってしまった。
「まったく、自身の体調も治せないとは……フローレス家の治療魔法なんてたかが知れますわね」
出ました! 悪役令嬢リディアナ・フローレスに代わりまして、新悪役令嬢ライザ・カルヴィナのお出ましである。彼女は今や第二王子の婚約者だ。どうやら評価爆上がりの我が家に張り合うつもりのようで、嫡子を変更してまで対抗してきた。余計なことをしてくれた。これで王子達の後継者争いが加速してしまったのだ。こんな彼女がアイリスの親友になれるのだろうか。いやダメだろうな。そうするとアイリスのお助けキャラは誰に……?
『第二王子を王にして、全てを私のモノにする』
少し前に私に宣戦布告してきたのだ。
(全てってなに!? レオハルトのこと!?)
彼への気持ちが歪んでしまっていそうで怖い。この私がヒエェ……っとビビり上がってしまった。怯えさせても可哀想なので、レオハルトにはこの事を伝えていない。
入学式は無事終わり、今日のメインイベント、レオハルトとアイリスの再開である。再開と気が付くのはアイリスだけだが、レオハルトは彼女に再び一目惚れするのだ。これでレオハルトの私への執着も少しおさまるだろう。なのに……。
「いないわ……」
「……例の未来の聖女様?」
「うん……」
事情を知るルカとコソコソと話す。あの可憐な花のような可愛らしい姿の女の子が見当たらない。私は正直、震えがくるほど動揺している。
(まさかアイリスの運命をどこかで変えてしまった?)
学園に入学していないのだろうか。今すぐにでも彼女の実家に突撃しに行きたい。
彼女がこの物語に参加しないなら、私の封印の可能性はかなり低くなる。だけどまだアリバラ先生の予知夢は解決していない。私が卒業式で学園の生徒達を虐殺し、龍王を従えて王都を襲撃している未来は残っているのだ。もしそうなった時、アイリスの力がなければ本気でこの国が滅びてしまう。私が走り回って未来を変えたのが無意味どころか、最悪の結末をもたらすことになる。そんなの絶対に嫌だ。
「リディ、大丈夫? また痛くなった?」
「あ……いや……」
真っ青になった私を見てルカが心配そうにしていた。動揺している場合ではない、それならそれで次にどうするか考えなくては。
「おい。なんだかすごく見られていないか?」
レオハルトに声をかけられて気が付いたが、確かにジッと私を見つめている女子がいる。最初はレオハルト率いるイケメン軍団を見ているだけかと思ったが、その一団から試しに離れたら、私を目で追いかけているのがわかった。
(あんな登場人物いたっけ……?)
ブロンドの長い髪の毛を綺麗に巻いている。耳飾りもこの国の人には珍しく沢山つけている。化粧も派手だ。制服のスカートも短く履いている。入学式だから気合いを入れたのだろうか。失礼かと思いながら相手を見つめていると、あちらが嬉しそうに小走りで近づいてくる。そして、
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