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第二部 元悪役令嬢の学園生活
20 ヒロインの実力
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授業はすぐ再開となったが、心配事が一つ増えてしまった。
「アイリスありがとう……ライザに目をつけられたらごめん……」
「いいのいいの! リディアナ一人狙い撃ちされてたし、分散分散~」
そう単純にいくといいのだが。アイリスが他人に攻撃的なのは珍しい。他に何か考えがあったのかもしれない。
「レオハルト様~! あざっした!」
「こちらこそ、リディを庇ってくれて嬉しかったよ」
おい、彼氏面をするな婚約者。
「彼女は最近よくないな。何かあったのか?」
フィンリー様はまだ少しムッとしていた。よっぽど領地を馬鹿にされたのが腹立たしかったようだ。ライザは明らかに平民に対して横柄な態度をとっていたので、悪い影響を周囲に及ぼしてしまっている。ライザのように平民にキツく当たる貴族が最近増えてきているのだ。
「昔からああだったわよ。前にも言ったじゃない」
「そうだったか!?」
「まあ隠すのはうまかったからね~今はもうその気ないみたいだけど」
ルイーゼがフィンリー様に説明する。ここは兄と姉が結婚して親戚同士になった為色々交流があるらしく、ラフな関係性が大変羨ましい。
「アイリス・ディーヴァ!」
アイリスの名前が呼ばれた。原作のアイリスは攻撃魔法が大の苦手だった。優しさからか人を傷つけられなかったのだ。
『原作と違うの見た目だけじゃないから~』
昨夜アイリスが自信ありげに言っていた。
アイリスが位置に着くと、貴族派がまた意地の悪い視線を向けていたが、先程のレオハルトの発言があった為か口は閉ざしている。
「いきまーす!」
そう言って地面に手をついた。手元が光ったかと思うと、またもや地響きが聞こえ、的に太い木の根が絡みつくのが見え、そのまま締め付けるようにバキバキと的を割ってしまった。それも全部。
「植物魔法だ……」
全員が呆然とそのようすをみまもるなか、ルカが呟いた。私達の中でルカだけがこの植物魔法を使えるが、それでもここまでは無理だ。おそらくこの規模で植物を操るのはアリバラ先生でも厳しいだろう。
得意気なアイリスとは裏腹に、粉々になった的を回収してまた新たな的を用意することになってしまった補助員は疲れた顔をしている。
「これ以上は的の在庫がありません」
予想外の破壊っぷりだったようだ。まだルイーゼとアリアも残っているのだが……。
ルイーゼは原作より魔法が得意ではない。体術や剣の腕前は一級品だが、魔法はそこそこだ。
そしてアリア。アリアはあれでパワー型の魔法を使う。つまり私と同じ魔力でゴリ押し派なのだ。母親が平民から貴族の家系に迎えられたのには理由があり、裕福な家の出身であると同時に、かなりの魔力量の持ち主なのだ。それをアリアも引き継いでいる。コントロールこそイマイチだが、破壊力はすごい。となると的の数は足りなくなりそうだ。
「私は最後でお願いしたいのですが」
自ら教師達に伝えに行き、すぐに認められた。アリアの実力がわかっているのだろう。
他の生徒達がまた次々に魔法を使うが、やはりたいした使い手はいない。火の魔法でせいぜい的を焦がすくらいだった。
「火の魔法でどうやったらあんな威力になるんだ?」
火炎放射器にように魔法を使った生徒が悔しそうにしていた。的には届かなかったようだ。
「あれって狂犬くんじゃん?」
アイリスの視線の先には、入学以来見かけていなかった狂犬くんこと、レヴィリオ・リッグスがいた。短い銀髪にエメラルドグリーンの瞳を持ち、大柄で筋肉質。ふてぶてしさは原作通りだが、顔色は悪い。夜な夜な遊びまわっていて、男子寮には夜遅くか朝方にしか帰ってきていないらしい。
「今のリディアナにも惚れるかな?」
「惚れられてたまるか!」
これ以上ゴタゴタはごめんだ。スルーできる原作イベントは積極的に避けていきたい。原作では悪の女王みたいなリディアナに惚れたという話だったから今回は大丈夫だろう。むしろライザに惚れないか注意しなければ。
「レヴィリオ・リッグス!」
返事もせず黙って位置に着いたレヴィリオはニヤリと不気味な笑顔を浮かべている。その途端、背筋がゾワゾワとした感覚に襲われた。
「こいつヤバい!」
アイリスが声を上げた。私と似た感覚があったようだ。
「防御魔法ー!!!」
私はこれでもかと大声で叫んだ。すぐに意図に気付いたレオハルト達が地の魔法で高く厚い壁を作り始め、ジェフリーやアイリスが防御魔法を使った。私も近くにいる生徒の側に土の壁を作る。
予想通り、レヴィリオの魔法は暴走した。火球があちこち飛び回ってしまっている。遠くの的が壊れているのが見えるので、距離も威力もそれなりにありそうだ。
「キャーー!!!」
土壁やシールドに火球が当たり、あちこちで爆音が響き始めた。レヴィリオが立っている場所と待機している私達の場所はそれなりに離れているのに。生徒達が悲鳴を上げている。パニック状態だ。
(急いで抑えなきゃ!)
生徒達がバラバラに逃げ始めたら守るのも一苦労だ。
「アイリス! 援護よろしく!」
「おけ!」
壁を抜け出してレヴィリオの方に駆けていく。途中、何度か火球が飛んできたが全てアイリスが防いでくれた。
「リディ!?」
「防御優先!!!」
私の行動に気がついたルカやレオハルトがこちらに来ようとしたのを指をさして大声で止める。
「私は行くわよ」
「ルイーゼ!?」
彼女に防御魔法は必要ない。このくらいの攻撃魔法は身体能力だけで避けてしまうのだ。
「あれは魔法の暴走じゃない! わざとよ!」
レヴィリオは両手をあっちこっちに手当たり次第向けていた。パニックになって慌てているわけではないのか!?
こちらに振り向いた彼と目があった瞬間、なんとも邪悪な笑顔で見つめ返してきた。
(目がいっちゃってるじゃない!)
「動き止めて」
「了解!」
静かなルイーゼの言葉とは裏腹に、私は右足を地面に思いっきりダン! と強く叩きつけた。私の足元からレヴィリオの足元まで氷の道が出来上がり、そのまま無差別に攻撃を続ける彼の足をつたって腕までガチガチに凍らせる。
「止まった!?」
不愉快そうにもがきながらもレヴィリオは攻撃を辞めない。掌まで凍らせても無理やり火球を生み出して手の周りの氷を吹っ飛ばしていた。
(氷と炎じゃ相性悪いわね)
「あたしが!」
いつの間にか近くにいたアイリスがレヴィリオの両手に防御魔法をかけた。思い通りに動けなくなったからか、怒りに任せて、涎を撒き散らしながら何か叫び声を上げ始めた。
「なんだぁぁぁおおおおおおまえらああああ!!!」
ギョロリと見開いた目でこちらを睨みつける。
「キモッ!」
アイリスも私もその異様な姿に少し怯んでしまった。
だが、その一瞬の隙をついてルイーゼが背後にまわり、ギリギリとはがいじめにしたはじめた。そうして首を圧迫したかと思うと、ついにレヴィリオは動かなくなった。
「死んだ!?」
「殺してないわよ。落としただけ」
ルイーゼの言葉を確認して氷の魔法を解く。いつの間にか生徒達はさらに遠くに避難していた。レオハルトやアリアがうまく誘導してくれたらしい。
倒れているレヴィリオを見下ろしながら、教師達が駆け寄ってくるのを待つ。アイリスが念のため、と植物魔法で出した蔦で体をぐるぐる巻きにして拘束した。
「どう考えても挙動がおかしかったわね」
「もしかして呪い!?」
ルイーゼは思い当たる節があるからか、先ほどまでの勇ましさが消えて不安そうな顔に変わっていた。
「いえーい! 私達お手柄じゃない!」
アイリスは満足そうにしている。実践経験が積めて嬉しかったようだ。
「私達怯んじゃったけどね~」
「うっ……今後の課題だわ……」
慣れる時が来るのだろうか。
「アイリスありがとう……ライザに目をつけられたらごめん……」
「いいのいいの! リディアナ一人狙い撃ちされてたし、分散分散~」
そう単純にいくといいのだが。アイリスが他人に攻撃的なのは珍しい。他に何か考えがあったのかもしれない。
「レオハルト様~! あざっした!」
「こちらこそ、リディを庇ってくれて嬉しかったよ」
おい、彼氏面をするな婚約者。
「彼女は最近よくないな。何かあったのか?」
フィンリー様はまだ少しムッとしていた。よっぽど領地を馬鹿にされたのが腹立たしかったようだ。ライザは明らかに平民に対して横柄な態度をとっていたので、悪い影響を周囲に及ぼしてしまっている。ライザのように平民にキツく当たる貴族が最近増えてきているのだ。
「昔からああだったわよ。前にも言ったじゃない」
「そうだったか!?」
「まあ隠すのはうまかったからね~今はもうその気ないみたいだけど」
ルイーゼがフィンリー様に説明する。ここは兄と姉が結婚して親戚同士になった為色々交流があるらしく、ラフな関係性が大変羨ましい。
「アイリス・ディーヴァ!」
アイリスの名前が呼ばれた。原作のアイリスは攻撃魔法が大の苦手だった。優しさからか人を傷つけられなかったのだ。
『原作と違うの見た目だけじゃないから~』
昨夜アイリスが自信ありげに言っていた。
アイリスが位置に着くと、貴族派がまた意地の悪い視線を向けていたが、先程のレオハルトの発言があった為か口は閉ざしている。
「いきまーす!」
そう言って地面に手をついた。手元が光ったかと思うと、またもや地響きが聞こえ、的に太い木の根が絡みつくのが見え、そのまま締め付けるようにバキバキと的を割ってしまった。それも全部。
「植物魔法だ……」
全員が呆然とそのようすをみまもるなか、ルカが呟いた。私達の中でルカだけがこの植物魔法を使えるが、それでもここまでは無理だ。おそらくこの規模で植物を操るのはアリバラ先生でも厳しいだろう。
得意気なアイリスとは裏腹に、粉々になった的を回収してまた新たな的を用意することになってしまった補助員は疲れた顔をしている。
「これ以上は的の在庫がありません」
予想外の破壊っぷりだったようだ。まだルイーゼとアリアも残っているのだが……。
ルイーゼは原作より魔法が得意ではない。体術や剣の腕前は一級品だが、魔法はそこそこだ。
そしてアリア。アリアはあれでパワー型の魔法を使う。つまり私と同じ魔力でゴリ押し派なのだ。母親が平民から貴族の家系に迎えられたのには理由があり、裕福な家の出身であると同時に、かなりの魔力量の持ち主なのだ。それをアリアも引き継いでいる。コントロールこそイマイチだが、破壊力はすごい。となると的の数は足りなくなりそうだ。
「私は最後でお願いしたいのですが」
自ら教師達に伝えに行き、すぐに認められた。アリアの実力がわかっているのだろう。
他の生徒達がまた次々に魔法を使うが、やはりたいした使い手はいない。火の魔法でせいぜい的を焦がすくらいだった。
「火の魔法でどうやったらあんな威力になるんだ?」
火炎放射器にように魔法を使った生徒が悔しそうにしていた。的には届かなかったようだ。
「あれって狂犬くんじゃん?」
アイリスの視線の先には、入学以来見かけていなかった狂犬くんこと、レヴィリオ・リッグスがいた。短い銀髪にエメラルドグリーンの瞳を持ち、大柄で筋肉質。ふてぶてしさは原作通りだが、顔色は悪い。夜な夜な遊びまわっていて、男子寮には夜遅くか朝方にしか帰ってきていないらしい。
「今のリディアナにも惚れるかな?」
「惚れられてたまるか!」
これ以上ゴタゴタはごめんだ。スルーできる原作イベントは積極的に避けていきたい。原作では悪の女王みたいなリディアナに惚れたという話だったから今回は大丈夫だろう。むしろライザに惚れないか注意しなければ。
「レヴィリオ・リッグス!」
返事もせず黙って位置に着いたレヴィリオはニヤリと不気味な笑顔を浮かべている。その途端、背筋がゾワゾワとした感覚に襲われた。
「こいつヤバい!」
アイリスが声を上げた。私と似た感覚があったようだ。
「防御魔法ー!!!」
私はこれでもかと大声で叫んだ。すぐに意図に気付いたレオハルト達が地の魔法で高く厚い壁を作り始め、ジェフリーやアイリスが防御魔法を使った。私も近くにいる生徒の側に土の壁を作る。
予想通り、レヴィリオの魔法は暴走した。火球があちこち飛び回ってしまっている。遠くの的が壊れているのが見えるので、距離も威力もそれなりにありそうだ。
「キャーー!!!」
土壁やシールドに火球が当たり、あちこちで爆音が響き始めた。レヴィリオが立っている場所と待機している私達の場所はそれなりに離れているのに。生徒達が悲鳴を上げている。パニック状態だ。
(急いで抑えなきゃ!)
生徒達がバラバラに逃げ始めたら守るのも一苦労だ。
「アイリス! 援護よろしく!」
「おけ!」
壁を抜け出してレヴィリオの方に駆けていく。途中、何度か火球が飛んできたが全てアイリスが防いでくれた。
「リディ!?」
「防御優先!!!」
私の行動に気がついたルカやレオハルトがこちらに来ようとしたのを指をさして大声で止める。
「私は行くわよ」
「ルイーゼ!?」
彼女に防御魔法は必要ない。このくらいの攻撃魔法は身体能力だけで避けてしまうのだ。
「あれは魔法の暴走じゃない! わざとよ!」
レヴィリオは両手をあっちこっちに手当たり次第向けていた。パニックになって慌てているわけではないのか!?
こちらに振り向いた彼と目があった瞬間、なんとも邪悪な笑顔で見つめ返してきた。
(目がいっちゃってるじゃない!)
「動き止めて」
「了解!」
静かなルイーゼの言葉とは裏腹に、私は右足を地面に思いっきりダン! と強く叩きつけた。私の足元からレヴィリオの足元まで氷の道が出来上がり、そのまま無差別に攻撃を続ける彼の足をつたって腕までガチガチに凍らせる。
「止まった!?」
不愉快そうにもがきながらもレヴィリオは攻撃を辞めない。掌まで凍らせても無理やり火球を生み出して手の周りの氷を吹っ飛ばしていた。
(氷と炎じゃ相性悪いわね)
「あたしが!」
いつの間にか近くにいたアイリスがレヴィリオの両手に防御魔法をかけた。思い通りに動けなくなったからか、怒りに任せて、涎を撒き散らしながら何か叫び声を上げ始めた。
「なんだぁぁぁおおおおおおまえらああああ!!!」
ギョロリと見開いた目でこちらを睨みつける。
「キモッ!」
アイリスも私もその異様な姿に少し怯んでしまった。
だが、その一瞬の隙をついてルイーゼが背後にまわり、ギリギリとはがいじめにしたはじめた。そうして首を圧迫したかと思うと、ついにレヴィリオは動かなくなった。
「死んだ!?」
「殺してないわよ。落としただけ」
ルイーゼの言葉を確認して氷の魔法を解く。いつの間にか生徒達はさらに遠くに避難していた。レオハルトやアリアがうまく誘導してくれたらしい。
倒れているレヴィリオを見下ろしながら、教師達が駆け寄ってくるのを待つ。アイリスが念のため、と植物魔法で出した蔦で体をぐるぐる巻きにして拘束した。
「どう考えても挙動がおかしかったわね」
「もしかして呪い!?」
ルイーゼは思い当たる節があるからか、先ほどまでの勇ましさが消えて不安そうな顔に変わっていた。
「いえーい! 私達お手柄じゃない!」
アイリスは満足そうにしている。実践経験が積めて嬉しかったようだ。
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