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11 討伐
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港には兵士がたくさん集まっていた。ホープ達が領主と話し込んでいるのが見える。
「遅くなってすみません!」
「リックー! 早かったなぁ!」
集合時間の30分前に陸は到着したのに、もう続々と準備に取り掛かっている。
今日はついに討伐当日。陸は緊張で昨夜はよく眠れなかった。
「おーおー。皆やる気だな」
「リックさん。くれぐれも無理はされないよう」
「絶対に戻ってきてくださいね……!」
見送りに来てくれたライドにレギー、それからニコラスに手を振って陸はホープの方へ駆け寄った。
「寝れたか?」
「あまり……」
「ははは! まあ緊張も必要だからな!」
ホープ達はいつもと変わらない。それが陸には信じられなかった。
(今からあんなの倒しに行くってのに……冒険者はすごいな)
昨日までの作業で、魔物が生息しているポイントに1畳ほどの木の板をあちこちに浮かべた。
「風の魔法で空を飛べるような人間なんて一握りさ」
魔法に詳しくない陸はまだまだ知らないことが多い。風の魔法で体を浮かせることは出来るが、それを維持し続けることはかなり難しい技術だった。その為、海上に足場を設けたのだ。
「この作業がなかなか大変なんですよ。リックのお陰で今回あっという間でしたが」
「へへへ」
陸はそれはそれは急いでその作業をおこなった。ピュンピュンピュンピュン、風の音がなるように高速でアンカー付きの木の板を運んだ。万が一でも例の魔物に遭遇したくなかったのだ。
「1体目のカリュサスはあと30分ほどですかね?」
「そうだな」
今日は一番港の近くにいる魔物を狙うことになっている。だいたい6時間ごとに海中の海上を行き来していることがわかっていた。残りの2体はそれなりに離れた所にいるのは陸が昨日確認済みだ。
「残りの2体は相変わらず?」
「ああ。見張りからの報告で場所は昨日とほとんど変わってない」
急遽港に作られた櫓の上には、大きな望遠鏡のようなものが設置されていた。現在、残りの2体は海上にいる。万が一海中に潜ったり、討伐対象の方へ移動することがあれば一時撤退の予定だ。これも陸がいるからこそ簡単に立案出来る作戦だった。
「おし! じゃあ予定通りまずは1体やるぞー!」
「おー!」
陸とホープが2人で盛り上がっているのを兵士達が微笑ましく見ていた。軍艦が魔物にボロボロにやられた記憶はまだ新しい。だが今回はどうやらうまくいきそうだと、つい先ほどまで張りつめていた空気が少しだけ緩んだ。
「水面の揺らぎを確認ー!」
兵士の声が響く。バタバタと慌ただしくなってきた。万が一カリュサスが暴れて港を破壊しないよう、防御の態勢に入る。
「じゃあリック! 行こうか!」
冒険者3人が陸の体をつかんだ。
「行ってきます!」
人生でこれほど注目されたことはない。緊張と気恥ずかしさで陸はぎこちない笑顔だった。
「頼む」
ただ一言、領主の低い声がよく聞こえた。まっすぐと陸たちの方を見ている。ホープが安心させるように、ニカっと笑っていたのを横目で確認した。
(すごいなぁ)
ヒュッっと風を斬る音と共に陸は3人を連れてテレポートする。
陸はまず魔術師2人を少しだけ離れた所へ移動させた。その後、ホープと陸は魔物が潜っている真上に降り立つ。足場の板がゆらゆらと揺れた。
「おっと……」
「気張れよリック! まずは挨拶かますぞ!」
陸は急いでホープの体をつかむ。絶対に離さないように。この頃ではずいぶん視覚を頼りにテレポートするのが上手くなった。
ホープは大きな銛をギュっと強く握りしめている。手首と鎖で繋がっている柄の部分には大き緑色の石が付いており、ホープがその柄の部分をクルリと回すと、その石がほんのり光始めた。
ホープが使っているのは魔道具の一種だ。通常日常生活向けに作られる魔道具だが、稀に冒険者や傭兵向けに武器も作られることがあった。ただそれを使いこなせる者は少ない。
「飛べ!」
掛け声とともに上空に移動する。カリュサスの胴体がゆっくりと海面に現れた。こちらには気が付いていないようだ。
(ヒィィィ!)
頭を下に、上空からの落下はいまだに慣れない。ここ最近演習として何度もおこなってはいたが、やはり本番でも怖いものは怖かった。だが、心の中では叫んでいるがそれを声や態度に出すことはない。
ホープの銛は徐々に大きな風の渦をまとい始め、それはどんどん大きくなる。
(ぶつかる!)
「うおりゃぁぁぁ!」
ホープは思いっきり振りかぶって銛を魔物に投げつけた。
陸は目を離さない。その銛が魔物の肉をえぐり、奥へと進んでいくのを確認する。魔物の大きな咆哮は港まで届いていた。
「ひけ!」
陸はその言葉を待ってましたとばかりにすぐに離脱する。今度は少しだけ離れた海上だ。
「どうです!?」
「おう! いい挨拶できだぜ!」
波が高い。魔物が痛みで暴れているのだ。だが魔物はその場から動けない。
「うわ~~~!」
巨大な渦が魔物をその場から動けないよう捕え始めていた。
「やっぱ2人がかりだと違ぇな~」
魔術師2人が大きく手を広げ海水をコントロールしていた。彼らのこの流体コントロール力で水生魔物のエキスパートの名前を得ていたのだ。カリュサスもホープから受けたダメージを省みず大暴れをして抜け出そうともがくが、すでに全身が捕えられていた。
「次で決めるぞ!!!」
「は、はい!」
カルフェもロランも流石に規模の大きさから少々きつそうな顔つきになっていた。
陸はまた魔物の上空に飛ぶ。鋭利な尻尾に当たらないよう頭部の方へ。上空からそれをブンブンと手当たり次第振り回しているのが見えた。
(こわ~っ!)
あれに当たったらひとたまりもない。相手に傷を転移させる暇もないだろう。
「今だ!」
「はいっ」
先ほどと同じ手順でホープが力を貯めるが、今度は投げつけなかった。尻尾の位置を確認し、陸は先ほどの傷跡へと移動する。
「オラァァァァ!!!」
ホープは傷跡をさらに抉るように、奥へ奥へと銛を突き刺し続けた。途中骨にもあたったが、それそら粉砕し魔物の体内へと突き進む。
魔物の叫び声の振動が、体を伝って陸たちにも届く。
だがそれと同時に、大きな大砲音も何度も聞こえ始めた。
「ホープさん」
「いいぞ!」
陸は急いでカルフェとロランの方へと移動する。
「やったか!?」
「おーう! ありゃもう動けねぇぞ!」
「よし! ずらかろう!」
3人は急いで陸をつかみ、全員で港へ戻った。
大砲は合図だった。他のカリュサスが移動、もしくは海中に沈んだ場合、陸たちが気が付くまで打ち続ける手はずになっていたのだ。
「よくやってくれた!」
あのいつも気難しい顔をしている領主が明るい表情で港へ戻った陸たちに声をかけた。
1体目の討伐は大成功だ。きっちり討伐できたのだから。
「気持ちいいくらい思った通りにいったな!」
ホープはまだ興奮したままのようだ。
「リックがいたからこそだろ」
カルフェがバシっと陸の背中を叩いた。
「へへへ」
実力のある冒険者に褒められ、陸は嬉しくてたまらない。自分でも今回は頑張ったと思えたからだ。
「カリュサスの体を回収できないのは残念ですね」
どうやら巨大な魔物は沈むことなく浮かんだままでいるようだ。残りの2体は、今回討伐した魔物の叫び声を聞いて、先ほどの場所へと向かっていた。
「……助けにきたのかな?」
「カリュサスに仲間意識はありません。縄張りを奪えると思ってやってきたのでしょう」
どうやら先ほど戦った場所は一等地のようだった。
「本当によくやってくれた! 2体目3体目もこの調子で頼む!」
「ああ! リックがいればうまくいきそうだ!」
「はは……」
思いがけず戦闘を評価され、陸は嬉しいような、やっぱり怖いような複雑な気持ちになったのだった。
「遅くなってすみません!」
「リックー! 早かったなぁ!」
集合時間の30分前に陸は到着したのに、もう続々と準備に取り掛かっている。
今日はついに討伐当日。陸は緊張で昨夜はよく眠れなかった。
「おーおー。皆やる気だな」
「リックさん。くれぐれも無理はされないよう」
「絶対に戻ってきてくださいね……!」
見送りに来てくれたライドにレギー、それからニコラスに手を振って陸はホープの方へ駆け寄った。
「寝れたか?」
「あまり……」
「ははは! まあ緊張も必要だからな!」
ホープ達はいつもと変わらない。それが陸には信じられなかった。
(今からあんなの倒しに行くってのに……冒険者はすごいな)
昨日までの作業で、魔物が生息しているポイントに1畳ほどの木の板をあちこちに浮かべた。
「風の魔法で空を飛べるような人間なんて一握りさ」
魔法に詳しくない陸はまだまだ知らないことが多い。風の魔法で体を浮かせることは出来るが、それを維持し続けることはかなり難しい技術だった。その為、海上に足場を設けたのだ。
「この作業がなかなか大変なんですよ。リックのお陰で今回あっという間でしたが」
「へへへ」
陸はそれはそれは急いでその作業をおこなった。ピュンピュンピュンピュン、風の音がなるように高速でアンカー付きの木の板を運んだ。万が一でも例の魔物に遭遇したくなかったのだ。
「1体目のカリュサスはあと30分ほどですかね?」
「そうだな」
今日は一番港の近くにいる魔物を狙うことになっている。だいたい6時間ごとに海中の海上を行き来していることがわかっていた。残りの2体はそれなりに離れた所にいるのは陸が昨日確認済みだ。
「残りの2体は相変わらず?」
「ああ。見張りからの報告で場所は昨日とほとんど変わってない」
急遽港に作られた櫓の上には、大きな望遠鏡のようなものが設置されていた。現在、残りの2体は海上にいる。万が一海中に潜ったり、討伐対象の方へ移動することがあれば一時撤退の予定だ。これも陸がいるからこそ簡単に立案出来る作戦だった。
「おし! じゃあ予定通りまずは1体やるぞー!」
「おー!」
陸とホープが2人で盛り上がっているのを兵士達が微笑ましく見ていた。軍艦が魔物にボロボロにやられた記憶はまだ新しい。だが今回はどうやらうまくいきそうだと、つい先ほどまで張りつめていた空気が少しだけ緩んだ。
「水面の揺らぎを確認ー!」
兵士の声が響く。バタバタと慌ただしくなってきた。万が一カリュサスが暴れて港を破壊しないよう、防御の態勢に入る。
「じゃあリック! 行こうか!」
冒険者3人が陸の体をつかんだ。
「行ってきます!」
人生でこれほど注目されたことはない。緊張と気恥ずかしさで陸はぎこちない笑顔だった。
「頼む」
ただ一言、領主の低い声がよく聞こえた。まっすぐと陸たちの方を見ている。ホープが安心させるように、ニカっと笑っていたのを横目で確認した。
(すごいなぁ)
ヒュッっと風を斬る音と共に陸は3人を連れてテレポートする。
陸はまず魔術師2人を少しだけ離れた所へ移動させた。その後、ホープと陸は魔物が潜っている真上に降り立つ。足場の板がゆらゆらと揺れた。
「おっと……」
「気張れよリック! まずは挨拶かますぞ!」
陸は急いでホープの体をつかむ。絶対に離さないように。この頃ではずいぶん視覚を頼りにテレポートするのが上手くなった。
ホープは大きな銛をギュっと強く握りしめている。手首と鎖で繋がっている柄の部分には大き緑色の石が付いており、ホープがその柄の部分をクルリと回すと、その石がほんのり光始めた。
ホープが使っているのは魔道具の一種だ。通常日常生活向けに作られる魔道具だが、稀に冒険者や傭兵向けに武器も作られることがあった。ただそれを使いこなせる者は少ない。
「飛べ!」
掛け声とともに上空に移動する。カリュサスの胴体がゆっくりと海面に現れた。こちらには気が付いていないようだ。
(ヒィィィ!)
頭を下に、上空からの落下はいまだに慣れない。ここ最近演習として何度もおこなってはいたが、やはり本番でも怖いものは怖かった。だが、心の中では叫んでいるがそれを声や態度に出すことはない。
ホープの銛は徐々に大きな風の渦をまとい始め、それはどんどん大きくなる。
(ぶつかる!)
「うおりゃぁぁぁ!」
ホープは思いっきり振りかぶって銛を魔物に投げつけた。
陸は目を離さない。その銛が魔物の肉をえぐり、奥へと進んでいくのを確認する。魔物の大きな咆哮は港まで届いていた。
「ひけ!」
陸はその言葉を待ってましたとばかりにすぐに離脱する。今度は少しだけ離れた海上だ。
「どうです!?」
「おう! いい挨拶できだぜ!」
波が高い。魔物が痛みで暴れているのだ。だが魔物はその場から動けない。
「うわ~~~!」
巨大な渦が魔物をその場から動けないよう捕え始めていた。
「やっぱ2人がかりだと違ぇな~」
魔術師2人が大きく手を広げ海水をコントロールしていた。彼らのこの流体コントロール力で水生魔物のエキスパートの名前を得ていたのだ。カリュサスもホープから受けたダメージを省みず大暴れをして抜け出そうともがくが、すでに全身が捕えられていた。
「次で決めるぞ!!!」
「は、はい!」
カルフェもロランも流石に規模の大きさから少々きつそうな顔つきになっていた。
陸はまた魔物の上空に飛ぶ。鋭利な尻尾に当たらないよう頭部の方へ。上空からそれをブンブンと手当たり次第振り回しているのが見えた。
(こわ~っ!)
あれに当たったらひとたまりもない。相手に傷を転移させる暇もないだろう。
「今だ!」
「はいっ」
先ほどと同じ手順でホープが力を貯めるが、今度は投げつけなかった。尻尾の位置を確認し、陸は先ほどの傷跡へと移動する。
「オラァァァァ!!!」
ホープは傷跡をさらに抉るように、奥へ奥へと銛を突き刺し続けた。途中骨にもあたったが、それそら粉砕し魔物の体内へと突き進む。
魔物の叫び声の振動が、体を伝って陸たちにも届く。
だがそれと同時に、大きな大砲音も何度も聞こえ始めた。
「ホープさん」
「いいぞ!」
陸は急いでカルフェとロランの方へと移動する。
「やったか!?」
「おーう! ありゃもう動けねぇぞ!」
「よし! ずらかろう!」
3人は急いで陸をつかみ、全員で港へ戻った。
大砲は合図だった。他のカリュサスが移動、もしくは海中に沈んだ場合、陸たちが気が付くまで打ち続ける手はずになっていたのだ。
「よくやってくれた!」
あのいつも気難しい顔をしている領主が明るい表情で港へ戻った陸たちに声をかけた。
1体目の討伐は大成功だ。きっちり討伐できたのだから。
「気持ちいいくらい思った通りにいったな!」
ホープはまだ興奮したままのようだ。
「リックがいたからこそだろ」
カルフェがバシっと陸の背中を叩いた。
「へへへ」
実力のある冒険者に褒められ、陸は嬉しくてたまらない。自分でも今回は頑張ったと思えたからだ。
「カリュサスの体を回収できないのは残念ですね」
どうやら巨大な魔物は沈むことなく浮かんだままでいるようだ。残りの2体は、今回討伐した魔物の叫び声を聞いて、先ほどの場所へと向かっていた。
「……助けにきたのかな?」
「カリュサスに仲間意識はありません。縄張りを奪えると思ってやってきたのでしょう」
どうやら先ほど戦った場所は一等地のようだった。
「本当によくやってくれた! 2体目3体目もこの調子で頼む!」
「ああ! リックがいればうまくいきそうだ!」
「はは……」
思いがけず戦闘を評価され、陸は嬉しいような、やっぱり怖いような複雑な気持ちになったのだった。
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