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魔物達は俺の気配に異様に興味を持つ。この右目が深く関係しているのは確実なのだが、これを隠す手段は今のところほとんど存在しない。
唯一、あの神殿付近に張られた結界だけはその効果が認められているが、そんな高度な結界が他所にある訳もなく。
つまり俺は、魔物や悪魔に襲われやすいという体質を備えてしまっているという訳である。
ただ、この俺の気配は他のほとんどの悪魔達が恐れるもののようでもあって。先程のように逃げ出す事も多々あるのだ。
雑魚に構ってられない時には非常に便利なものではあるが。一方でデメリットもある。
一部の糞のような上級悪魔だとか、邪悪な伝説級の魔物だとか、そういうタチの悪い連中に目をつけられやすかったりもする。
そう言う連中は大抵知能が発達しているりこぞって集まっては俺を腹に収めようとするのだ。全く、傍迷惑な話である。
今はこうして新たな勇者様の役に立っているからいいものの。おびき寄せる魔の者達の力が万が一、自分たちの力を上回ってしまっていた場合。そんな偶然にだけは遭遇しない事を祈るばかりだった。
歩みを早めた甲斐あってか、俺たちは何事もなく無事にラシューの街へと辿り着いたのだった。こうして、俺の案内人としての役目はようやく一日目が終了したのだった。
◇ ◇ ◇
ラシューの街に来てからというもの、俺は煙管を片手に街中を飲み歩いてた。
まるで呑んだくれのようだと言われそうでもあるが、ちゃんとそれっぽい目的もあったのだ。
酒場というのは大変素晴らしい、情報の宝庫だったりする。
出会って始めの内、人間というものは当然口は固いものだが。しかしそこで一杯奢って自己紹介をしてその場を盛り上げればあら不思議。オイシイ情報を破格で得ることが出来るのである。
そもそも酒場に集まるような人間の口が固いはずもない。誰も彼もが情報を求めて奢ったり奢られたりしているのだ。そこに秘密なんてものはないに等しかった。
そして、あの村でも元々ぐうたらなオヤジをしていた俺にとっては、この手段は持ってこいの方法だった。
それこそ、驚くほど簡単に新鮮な情報が釣れた。収穫は大きい。旅の同行者連中からはダメ親父そのものだと良い顔をされなかったが。そこはもう本当に大きなお世話なのである。
あと2日もすれば、トバイアスの呼び寄せたという駱駝部隊とやらがやってくる。
このラシューの地が惜しく、理由をつけて滞在を長引かせたい気もしたのだが。
残念ながら、俺にはそう大して時間が無い事を自覚してしまった。右腕の感覚がますます鈍くなっていた。そう遠くない未来、俺の利き腕である右腕は完全に動かせなくなるだろう。それは確実に起こるであろう、俺の変調だった。
最初は右目だけだったのだ。それがいつしか肩を通り、聖剣を使い込んだはずの右腕にまで達した。それが今、腕全体を覆い尽くそうとしている。
なるようにしかならないのは分かっている。それでも時折感じる怖気に、得も言われぬ恐怖を感じていた。
その事を努めて考えないようにしながら、いつものようにフラフラと飲み歩いていた。酒で痛みやら恐怖やらを誤魔化すというのはよくある話だが。まさかそれを、自分自身が体験しようとは思いもしなかった。
俺はその日の昼もまた、煙管を片手にフラフラと街を歩いていた。
「ギルバート」
突然、聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り向く。
するとそこには、このところ馴染みになった次代の勇者であるトウゴが突っ立っていた。何か意図があって俺を呼び止めたようで、不安げに見上げるその視線に素直に驚いた。
なぜこんな道端に一人でいるのか。誰かしらの供があって然るべしだろう、なんて。俺は周囲を見渡しながら彼に向かって問いかけた。
「どうした、また奴らが喧嘩でもしてんのか?」
ここ最近では、トウゴを取り合うような彼らの姿を俺も度々目にしていた。何ともガキくさい話だなぁとは思いながらも、若者の甘酸っぱい青春云々と考えては、面倒で放置していたりもした。
そんな彼らの姿が周囲のどこにもない。それを少しばかり不思議に思いながら、俺は再びトウゴへと視線を戻した。
「いや、別にね、喧嘩とかそう言う訳じゃないんだけど……ちょっとだけ、聞いて欲しいんだ」
自分よりも頭ひとつ分ほど小さな彼に、しばしば庇護欲を駆り立てられる事がある。恐らく息子のアルフレッドが今、彼と同じ位だからだろうか。歳はトウゴの方が上だと聞くが、2、3歳の差など俺にしてみれば誤差の範囲内である。
だが、それにしても、トウゴはやけに幼く見える。アルフレッドよりも線が細いせいか、あるいは女程に整い過ぎた完璧すぎる容貌のせいか。旅の同行者達を見ても判るが、彼の美貌は危険だ。女ばかりか、屈強な男共ですら骨抜きにしてしまう。勇者に選ばれた者特有の、人を惹きつける力。
何かが起こらなければ良いがと、内心で危惧しつつ話の先を促した。不安の入り混じる彼の眼差しに、手が伸びそうになったのはここだけの話。意識して抑えなければ、彼の頭を撫でていたかもしれない。
「その……ギルバートも、戦う時には剣を使うんだよね?」
「おう」
「剣の使い方、教えて欲しいなって」
「は?」
そう言って言葉を濁したトウゴに、俺は言葉を失った。
唯一、あの神殿付近に張られた結界だけはその効果が認められているが、そんな高度な結界が他所にある訳もなく。
つまり俺は、魔物や悪魔に襲われやすいという体質を備えてしまっているという訳である。
ただ、この俺の気配は他のほとんどの悪魔達が恐れるもののようでもあって。先程のように逃げ出す事も多々あるのだ。
雑魚に構ってられない時には非常に便利なものではあるが。一方でデメリットもある。
一部の糞のような上級悪魔だとか、邪悪な伝説級の魔物だとか、そういうタチの悪い連中に目をつけられやすかったりもする。
そう言う連中は大抵知能が発達しているりこぞって集まっては俺を腹に収めようとするのだ。全く、傍迷惑な話である。
今はこうして新たな勇者様の役に立っているからいいものの。おびき寄せる魔の者達の力が万が一、自分たちの力を上回ってしまっていた場合。そんな偶然にだけは遭遇しない事を祈るばかりだった。
歩みを早めた甲斐あってか、俺たちは何事もなく無事にラシューの街へと辿り着いたのだった。こうして、俺の案内人としての役目はようやく一日目が終了したのだった。
◇ ◇ ◇
ラシューの街に来てからというもの、俺は煙管を片手に街中を飲み歩いてた。
まるで呑んだくれのようだと言われそうでもあるが、ちゃんとそれっぽい目的もあったのだ。
酒場というのは大変素晴らしい、情報の宝庫だったりする。
出会って始めの内、人間というものは当然口は固いものだが。しかしそこで一杯奢って自己紹介をしてその場を盛り上げればあら不思議。オイシイ情報を破格で得ることが出来るのである。
そもそも酒場に集まるような人間の口が固いはずもない。誰も彼もが情報を求めて奢ったり奢られたりしているのだ。そこに秘密なんてものはないに等しかった。
そして、あの村でも元々ぐうたらなオヤジをしていた俺にとっては、この手段は持ってこいの方法だった。
それこそ、驚くほど簡単に新鮮な情報が釣れた。収穫は大きい。旅の同行者連中からはダメ親父そのものだと良い顔をされなかったが。そこはもう本当に大きなお世話なのである。
あと2日もすれば、トバイアスの呼び寄せたという駱駝部隊とやらがやってくる。
このラシューの地が惜しく、理由をつけて滞在を長引かせたい気もしたのだが。
残念ながら、俺にはそう大して時間が無い事を自覚してしまった。右腕の感覚がますます鈍くなっていた。そう遠くない未来、俺の利き腕である右腕は完全に動かせなくなるだろう。それは確実に起こるであろう、俺の変調だった。
最初は右目だけだったのだ。それがいつしか肩を通り、聖剣を使い込んだはずの右腕にまで達した。それが今、腕全体を覆い尽くそうとしている。
なるようにしかならないのは分かっている。それでも時折感じる怖気に、得も言われぬ恐怖を感じていた。
その事を努めて考えないようにしながら、いつものようにフラフラと飲み歩いていた。酒で痛みやら恐怖やらを誤魔化すというのはよくある話だが。まさかそれを、自分自身が体験しようとは思いもしなかった。
俺はその日の昼もまた、煙管を片手にフラフラと街を歩いていた。
「ギルバート」
突然、聞き覚えのある声に名前を呼ばれて振り向く。
するとそこには、このところ馴染みになった次代の勇者であるトウゴが突っ立っていた。何か意図があって俺を呼び止めたようで、不安げに見上げるその視線に素直に驚いた。
なぜこんな道端に一人でいるのか。誰かしらの供があって然るべしだろう、なんて。俺は周囲を見渡しながら彼に向かって問いかけた。
「どうした、また奴らが喧嘩でもしてんのか?」
ここ最近では、トウゴを取り合うような彼らの姿を俺も度々目にしていた。何ともガキくさい話だなぁとは思いながらも、若者の甘酸っぱい青春云々と考えては、面倒で放置していたりもした。
そんな彼らの姿が周囲のどこにもない。それを少しばかり不思議に思いながら、俺は再びトウゴへと視線を戻した。
「いや、別にね、喧嘩とかそう言う訳じゃないんだけど……ちょっとだけ、聞いて欲しいんだ」
自分よりも頭ひとつ分ほど小さな彼に、しばしば庇護欲を駆り立てられる事がある。恐らく息子のアルフレッドが今、彼と同じ位だからだろうか。歳はトウゴの方が上だと聞くが、2、3歳の差など俺にしてみれば誤差の範囲内である。
だが、それにしても、トウゴはやけに幼く見える。アルフレッドよりも線が細いせいか、あるいは女程に整い過ぎた完璧すぎる容貌のせいか。旅の同行者達を見ても判るが、彼の美貌は危険だ。女ばかりか、屈強な男共ですら骨抜きにしてしまう。勇者に選ばれた者特有の、人を惹きつける力。
何かが起こらなければ良いがと、内心で危惧しつつ話の先を促した。不安の入り混じる彼の眼差しに、手が伸びそうになったのはここだけの話。意識して抑えなければ、彼の頭を撫でていたかもしれない。
「その……ギルバートも、戦う時には剣を使うんだよね?」
「おう」
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「は?」
そう言って言葉を濁したトウゴに、俺は言葉を失った。
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